心欲す少女
掌編未満程度の、小説モドキです。
その女の子は、笑いも、哀しみも、喜びも、怒りもせず、喜怒哀楽というものが一切存在しなかった。
「私は、一体なに? なんで感情がないの?」
そう言われても、心理カウンセラーの先生でもなければ心理学者でもない僕には一切分からない。というかそもそも、なんでこの女の子――如月澪のカウンセリングを僕がしなくてはならないのか。僕はただ単に、この娘と教室の席が隣だった(澪が一番後ろの左端、窓際で僕がその右隣)だけだというのに。
しかも、澪はなまじ可愛いから放っておくのも勿体ない……って何考えてんだよ僕は!
これは神様を呪うべきなのか、それとも、席決めの時に面倒だからといって十年来の付き合いのあのアホにくじを引かせてきた僕の責任なのか、はたまたクラス委員権限とかいって、わざわざくじ引いたってのに、自分の好きなように他人の席を勝手に決めやがったあの腐れ委員長が悪いのか。
「……ねえ、私の話、きいてる?」
ごめんなさい思いっきり自分の世界入っていてきいてませんでした!!
「も、勿論。君がなんで感情がないかって話だろ?」
「そう。それで、あなたにどうにかしてもらおうっていう」
「ふぇ?」
この時の僕の顔はさぞかし滑稽なことだっただろう。でも、感情を取り戻す(?)とか無理でしょ! 普通に考えて! だって感情だよ感情。心理カウンセラーの先生とかが情緒不安定な人とかに頑張って治そうとかしてるあの感情。しかもないものをあるものに変えるんだぜ? 無理だよ。
いやしかし。待てよ?
「でもさ」
そう言って僕は澪の手をそっと取り、
「感情が欲しいって思ってるってことは。それ自体が感情だっていうことにはならないかな? つまり、澪は感情がないわけじゃない。少し表に出づらいだけなんだよ」
決まった……そう内心ドヤっていたところで、澪は首を傾げ、
「? なに言ってるのかわからない……」
澪に感情を与えるのは長くなりそうです。