表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

赤の王

赤の王のCV(キャラボイス)

→藤原啓治。それか、小西克幸

あいたたた......。

まったく、もう!何なのよ。


あの「死神」とか名乗った男の人が勧めたドアに入った途端、地上に“落ちる”なんて!



「落ちた所が地面じゃなくてよかった......」



あの白い部屋とは違う場所。

大きな建物も、花も、緑も、空もある。


私が降り立ったのは薔薇の庭園みたいな場所。



「あ、痛っ」



あちゃー。

腕から血が出てる。あ、膝にも傷が......。


薔薇の葉や茎の棘で切っちゃったかなぁ。

まあ、ともかく、薔薇を潰さなくてよかった。



「こんな綺麗な赤い薔薇を踏んじゃったら、可哀想だもんね」



庭園に咲く赤い薔薇。

他の色は無い。赤い薔薇だらけだ。


ふと、端の方に元気の無い萎れた薔薇を見つける。

きっと、充分に栄養が行き渡らないのね。



「せっかく綺麗な庭園なのに。勿体無いなぁ......」



萎れた花が、どのくらいで元の状態に戻るかは知らないけど、これくらいはさせてもらおう。


私は、襟元に結ばれたリボンを解き、萎れた薔薇の茎を伸ばすように結び付ける。

うん。イイ感じになった......かな。

リボンの色が薔薇と同じ赤でよかった。



「おい、そこのお前。俺の庭で何をしている」


「え......っ?」



背後からの声に反応して、反射的に振り返る。

その先には、知らない男の人がいた。


赤いマントを翻して、金色の甲冑を身に纏う男の人。

年は、30歳くらい?

私からしたら、オジサンだ。


ていうか、俺の庭って言った?



「どうした。口がきけないのか。それとも、何かやましい事でもあるのか?」



うわぁ......。随分と偉そうな人だなぁ。

なんか、テレビとか舞台とかで見たことある。

あ、腰の剣?に手を掛けた。

本物かなぁ。斬られるのはヤダな。



「ごめんなさい。扉を開けたら、この薔薇庭園に落ちちゃって......。咲いている薔薇があまりにも綺麗だから、つい見蕩れてたんです」



剣から手が離れる。

でも、男の人の表情は険しい。

眉間にめちゃくちゃ深いシワが寄ってる。



「女。名を名乗れ」



そう言われて、私は「アリス」と名乗った。



「!!」


「ちょ、ちょっ!何で剣を抜くのよ!?

聞かれたから答えただけなのに!てか、それ本物!?」



私とオジサンとの間は離れているとはいえ、鋭い剣先を突き付けられれば身も竦む。


ひィ......。

すっごい睨んでるし。怖いよぉ。



「貴様、何者だ。まさか、白の王の手先か?」


「だから、アリスですって!」


「まだ言うか...本当の事を言わないなら、首をはねるぞ!」



ひィ......!

剣を振り上げながら近付いて来るー!


私は咄嗟や腕を上げて顔と頭を隠す。


............あれ?何もして来ない。



「......」



そっと腕の隙間から覗くと、オジサンは振り上げた剣を下ろして私を見ている。

私、というか、私の腕を見てる?


オジサンは剣を持ち替え、私の目の前まで来ると腕を捕った。


うわっ。体、大きいな。

見上げないと顔が見れな......。



「ひゃあッ!」



舐められた!腕、舐められたぁ!


オジサンは、私の悲鳴にも似た叫び声に驚いた様子で体を離した。

その表情は「困惑」が浮かんでいる。

私だって困惑している。



「何すんのよ!」


「貴様の血で庭を汚されては困るだけだ!」


「そんな理由で納得出来る訳ないでしょ!」


「兵士たちよ!この女を牢へ捕らえておけ!」



ええええっ!?

何で、こうなるのよぉ!!










アリスです。

私は今、埃まみれの牢屋の中に居ます。



「出して!何で私が牢屋に入らないといけないの!?早く出してよ!!」


「......無駄無駄」


「誰っ!?」



薄暗い牢屋の隅で、何かが動いている。

シルクハットを目深に被り、ニヤニヤとした口元だけが見えた。



「誰?君こそ誰?」


「わ、私は、アリスよ」


「アリス!?」



シルクハットの人は、帽子の縁を額の位置まで持ち上げると、私の顔をマジマジと見つめる。

ち、近い......。



「その栗色の髪と瞳。それに白と青の衣。

き、ききき...君が、あの、アリスっ!?」



あの?何の事を言っているんだろう。


分からないけど、この人が変な人なのは分かる。



「あれ?でも、なんでアリスが牢屋に?」


「んー。死神さんに言われて白い扉を開けたんだけど、それがここの薔薇庭園の上に繋がってたみたいで......。なんか、腕も舐められたし」



私は、牢屋に入れられるまでの経緯を話した。

オジサンへの愚痴も織り交ぜながら。


シルクハットの人は、何故か大笑いしていたけど、笑いが治まるのと同時に脱帽して頭を下げた。



「まだ名乗ってなかったね。俺は帽子屋のハッター。

“マッドハッター”と呼ぶ奴もいる」


「帽子屋?なんか、聞いた事あるような......」


「自分で言うのも何だけど、俺、有名人だから。......悪い意味で。こうやって捕まったのも、その所為だし」



私が小首を傾げると、ハッターさんは照れたように笑った。

いや、照れる意味が分からないんだけど。


一体、何をやったんだろう。



「赤の王の物を食べちゃったんだ」


「人の物を食べちゃっただけ?」


「うん。どうしても我慢出来なくて。赤の王のお気に入りだったみたいで、怒らせちゃってさ」



人の物を食べてしまったのはいけないと思う。

でも、それだけで牢屋に入れる?

その「赤の王」って人、めちゃくちゃだなぁ。


ハッターさんもヘラヘラしてるし、珍しい事じゃないのかなぁ。



「その赤の王って、どんな人なの?」


「さっきから、アリスが話しているオジサンが赤の王だよ」



ええっ!?

あのオジサン、王様だったの!?


私の考えが表情に出ていたらしく、ハッターさんはまた大笑いした。

お腹を抱えてうずくまる姿は、まるで芋虫のようだった。


私たちの騒ぎを聞き付けたのか、ガチャガチャと音をさせて誰かが近付いて来る。

逆光の所為で、顔までは確認出来なかったけど、鉄格子の前に立った時の舌打ちからしてイラついているのが分かった。


そして、「黙ってろ」と言わんばかりに鉄格子を蹴った。



「っせェんだよ、囚人共!!」



牢屋に響く怒号。

思わず身が竦んだ。


なんだろう......ムカツク。



「っち!なんでオレ様が看守なんだよ!

こんな糞みたいな囚人共の相手なんかゴメンだぜ!」



初対面の相手に、ここまで言われると腹が立つ。


それからも、グダグダと文句を言われ続け、遂に私の堪忍袋の緒が切れた。



「あんたねぇ......っ!」


「騒がしいぞ、ジャック!!」



私の言葉がかき消される。その声には覚えがあった。


忘れもしない。

私を牢屋にぶち込んだ張本人だ。


オジサン......じゃない、「赤の王」!

...と、もう一人。



「やあ、アリス。また会ったね」


「死神さん!?」



どうして、この人がここに!?

あ、でも...住んでるって言ってただけだから、出掛けるくらいは出来るのかも。


そんな事よりも気になるのは、周りの皆の反応。

誰しもが、死神さんと目を合わせようとしない。


私が首を捻っていると、死神さんは「いつもの事さ」と笑った。



「そんな事よりも、赤の王。彼女を釈放してくれ。

あれは、俺に責任がある。彼女は無実だし、処刑する事も許されない」


「ジャック。女を釈放しろ」


「はあ!?」


「その女は、アリスだ」


「はあぁッ!?」



ジャックと呼ばれた兵士は、鉄格子越しに指を差してくる。

腕をぶんぶんと振りながら、私に向かって。



「この、ちんちくりんがアリス!?」


「誰がちんちくりんよ!」



失礼な奴。

見た感じだと、私とあまり変わらないじゃない。


その瞬間、死神さんから黒いオーラが噴き出したような気がした。

それが殺気というものなのかは分からないけど、背中に嫌な汗が流れる。


死神さんの表情は笑顔なのに、恐怖を感じた。



「ジャック、早くしろ!消えたいのか!」


「クソッ!」



兵士は牢屋の鍵を開ける。

死神さんは流れるような動きで私の手を取り、そのまま城の外へと連れ出してくれた。


詳しい話は次の機会に、と言い残した死神さんは、私のための家を用意してくれていた。


一人で暮らすのに丁度いい感じの家。

なんとなく、懐かしい感じがする。





その日の夜。私は夢を見た。


赤い薔薇に囲まれている。

綺麗な深紅のドレスを着て、自分でもウットリするようなロマンチックな雰囲気で踊っていた。


相手は、信じられないくらい優しい顔をした赤の王。


熱を帯びた視線が近付いてくる。

夢の中の私は、咄嗟に目を閉じた。


耳元で、赤の王が囁く。



「目を逸らすな。俺だけを見ろ。

お前は、俺だけのものだ。......お前の全てが欲しい」



ゆっくりと瞼を開ける。

近付いてくる赤の王の顔を、唇が当たる瞬間まで見つめて───







そこで目が覚めた。

......サイアク。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ