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もるもったぶ!  作者: 遊楽
実験条件
1/5



以前、こちらで公開していたものをリメイクしています。




 「…………」



 ええっと。


 現在地、薄暗い部屋の中。明りは床に直接置かれた蝋燭のみ。やけにじめじめしているからどうやら地下だと思われる。海外のB級映画で悪役が悪魔を召喚するぜ☆ みたいなときに使いそうな部屋だ。まあ簡単にいえばものすごく居心地、趣味共に悪い部屋ってことなんだけど。


 床に座り込んだわたしを見下ろすのは趣味の悪い部屋にぴったりのじっとりした雰囲気を纏った人物。わたし幸運にも十七年間の人生で不審者って見たことがないんだけど、不審者を描きなさいって言われたら十人中九人はこう描くだろうっていう風貌の男。具体的に言うなら顔の半分まで覆い隠すぼっさぼさの長い黒髪とところどころ謎の白い粉の付いた真っ黒いローブを床に引きずる痩身長身の男だ。


 しかも明りといえば床に置かれた蝋燭しかないから、ぬぼーっと立つ男の顔をゆらゆら揺れる光が下から照らしていてものすごく怖い。ほら、子どもの頃よくやる懐中電灯で顔を下から照らすやつと同じだ。顔に変な陰影がついて男の不気味な雰囲気をさらに不気味なものにしている。 



 「…………」



 相手がこちらを見下ろしたまま何も言わないのをいいことにわたしも遠慮なく目の前の人物を観察する。若干失礼な感想が付け足されているのはご愛嬌、ご愛嬌。


 わたしが座ってるから正確には分からないけど、この男背がかなり高い。百九十ちょっとはあるんじゃないだろうか。でも贅肉もなければ筋肉もないがりがりのひょろひょろだからか、ずいぶん高い位置から見下ろされていてもあまり威圧感はない。


 ひょろりとした体に纏まりつくように着てるのは真っ黒いコートみたいな、マントみたいなもの。びらびらしていて床にひきずるほど長いから、たぶんこの人コートで床掃除してるんだろう。一時期流行りに流行っていた腰パンと同じ原理だ。コートらしきそれは首から足元まで全てを覆っているから下になにか着ているのか分からない。ばさあ! ってやったら全裸とかマジやめてほしいんだけど。大丈夫? 大丈夫だよね? そんな一生トラウマになりそうなことしないよね?


 無意識に顔をひきつらせたわたしに気付いたのかそうでないのか、それまで沈黙を保っていた男はごそごそとコートのポケットを探りながらふむと頷いた。動作に合わせて前髪が揺れているけど、やっぱり顔が見えないという鉄壁の守り。どうなってんのその前髪。



 「まあ、少々貧相な気もするがだいたい予想通り」



 上から下まで制服姿のわたしを舐めまわすように見る変質者。ていうか、「貧相」という失礼極まりない言葉と共に胸元見つめて残念そうに溜息をつくのはやめてもらいたい! まだ発達途中なんだよ! まだ十七歳だもの! これから、……これからなんだから!



 「言葉は通じて、……いるようだ。魔法陣からの魔術行使は可能、と。体に欠けた部位もなし。……おまえ、尾が生えていたりするか?」


 「……しませんけど」



 声からしてもやはり男だったらしいひょろひょろもやしっ子は変質者なうえに電波だった。ものすごく真剣な声で聞いてくるからなにかと思えば、しっぽの有無の確認とは。マントばさぁ! は困るけど電波も困るな。ものすごく反応しづらい。



 「角が生えていたりは? 翼は?」


 「どれもないですけど」



 しっぽに角に翼って、それなんて名前の悪魔? 悪魔だよね? 角が生えてて先が三角の黒い尻尾があってばさぁ! って漆黒の翼を広げるんでしょ。一人称我だったりしちゃうんでしょ。嫌だよ、どこの中二だよ。ていうか、いたいけな現役女子高生捕まえて悪魔扱いって何事だおい。



 「ならいい。その他体に不調は?」


 「ないですけど」



 自慢だが、わたしは小学生のときから病気と言う病気にかかったことがない。季節の節目は咳が出たり、鼻水が出たりもするが発熱はしないので気合で乗り切る。おかげで小学校でも中学でも皆勤賞を総なめにした。わたしが貰ったことのある賞はたぶん後にも先にも皆勤賞だけになるだろう。

なにせ得意だと胸を張って言えることが片手でも余るほどしかない。いいんだ、がんばったで賞とかで。なんてったって時代はナンバーワンじゃなくオンリーワンだからな! ふん!



 「どうやら成功のようだな。あぁ、一週間はその円から出るなよ。もう一度他のモノを召喚するのは非常に面倒だ」



 一人いじけるわたしにはなんの反応も見せずもやしっ子はなにやら手に持つ手帳なようなものに書き込みながら投げやりに言う。



 「……出たらどうなるんですか」



 もやしっ子の目の良さはとりあえずノーリアクションの方向でわたしは疑問を口にする。うん、現状把握って大事だと思うのよ。特にこんな電波なもやしっ子と対峙したときには。


 円とはこのことだろうか、と自分を取り囲むように床に描かれた不可思議な模様を見下ろす。うーん、なんていうかまんま悪魔召喚! って感じ。英語の成績は芳しくないけどたぶん英語じゃないことは分かる。言うならばアラビア語的な文字がぐるりと円を描きその文字を装飾するように線やら草っぽいのやらが描かれている。魔法陣、って言うんだろうか。ますます電波っぽい。ていうか、中二くさい。



 「死ぬ」


 「は!?」



 どうなるのか、という単なる好奇心で聞いた問いに視線を合わせる(いや鉄壁の前髪のせいで合ってもわからないけど)さらりと返され、ぐりんと魔法陣(仮)からもやしっ子に目を移す。え、わたしの命この魔法陣(仮)に握られてるの? そういう感じの設定なの? おいおい、恐ろしい魔法陣もあったもんだな。



 「だから言っているだろう、面倒だと。召喚というものは存外体力を使う。おまえが死ぬのは一向にかまわないが、もう一度召喚するとなるとさすがに時間を空けなくては無理だからな。まあ少々残念な部分はあるが実験体としては申し分ない健康体のようだし、再召喚の必要はない。面倒事を増やすなよ」



 ……いや、あのね。


 胸元に向けられた残念そうな視線とか、一体この電波さんは何を言ってるんだろうとか、胸元に向けられた残念そうな視線とか、実験体という不吉な言葉とか、その胸元に向けられた残念そうな視線とか、その胸元に向けられた残念そうな視線とか、いろいろ言いたいことはあるんですが、ようやく冷静になってきたんでとりあえず一言いいですか。



 「ていうか、ここ、どこですか? あなた誰ですか?」



 わたし、今まで家で洗濯物をたたんでいたと思うんですけど。


 今更すぎるわたしの問いに目の前の変質者でもやしっ子で電波な男は心底バカにした溜息をついてくださった。




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