「俺っていったよ!?」「そこかよ!」
ガロン歴 ティウラスの月 篝火の日
ヴェルグの腰がそろそろ限界そうだ。庭師として抜群の腕を持つ彼の「大丈夫」と言う言葉に甘えていたが庭園は広い。一人で管理するにはやはり元々無理をしていたのだろう。
辺境だからばれないだろうと元の領主が働いた不正を暴き、新たに領主となった先代が荒れた庭園をたっての希望で託したのだったか。
生まれ変わった庭園に、それ以前を知る誰もが「なんということ……!」と称賛した程なのにどうにも性格に難があって、ごく限られた者でしか一緒に働く事ができないのを何とかしたいと思っていたが……。
ヴェルグには時折ここへ手伝いに来る孫がいた。彼も若いながら腕の良い庭師だと聞く。代わりに来て貰いヴェルグには養生して貰うとしよう。
長年本当に良く勤めてくれた。ハルを見つけてくれた分も含めて、たっぷりと礼をしよう。
ガロン歴 ティウラスの月 芽の日
かねてよりすすめていた治水がようやく完了しそうだ。治水施設を管理する者には領民から選出したが彼らの税も見直さなければならないな。領民達が少しでも暮らしやすくなるよう、これからも尽力しなければ。
ガロン歴 ティウラスの月 砂の日
今日はハルに会えなかった。寂しい。同じ屋根の下なのに、どうして彼女はこんなにも遠い。
彼女の事を考えると胸がぎゅんぎゅんする。
ガロン歴 ティウラスの月 三日月の日
ヴェルグになりたい。
庭師になりたいなど領主としての責務を放棄するような思考は許されないと分かっている。だが、彼女の笑顔をあんな間近で拝めるなんて……なんて羨ま、いや、羨ましく思うなど領主としてふさわしくない。平常心だ。平常心。
それにしても普段人を寄せ付けないヴェルグが、腰が悪いのを察して勝手に土運びやら草抜きやら手伝い始めたハルを止めなかった事は本当に驚いた。
彼女を最初に見つけた事もあって気にかけていたのだろう。言葉が通じないから諦めただけかもしれないが彼女を見る目が優しかった。正直気持ち悪い。
確かに、土で汚れようと構わず一生懸命に働くハルは可愛い!超絶可愛い!!だがあのような笑顔を独占するなど……。彼への礼を考え直すべきだろうか。
ガロン歴 ティウラスの月 泉の日
過去の自分を殴りたい。敵だらけじゃないか!
腰を悪くしてしまったヴェルグを気遣い、孫のエリックが予定よりかなり早く来てくれたのは良い。丁度手伝いに来ていたハルと名前を伝え合って一瞬でも見つめ合いやがったのは羨ま、けしからんがまあ気持ちは分かるから一度くらい許そう。領主として常に広い心と器を持たなければ!
だが、魔術師カイル。アイツだけは許さん。断じて許さん。
ヤツも思いの他早くやって来た。魔術師というから老齢を想像していたが若く長身で何よりもハルと同じ黒髪である事に驚いた。思えば顏を見た時から嫌な予感がしていた。
確かにハルが突然現れたあの日、魔術が関係している可能性を考え調査を依頼したのはこの私だ。その為にハルに接触するのは当然だろう。
だが、何 故 キ ス を す る 必要がある!?
ああ、あの日の自分を本当に殴りたい。もうハルが何者だって良いというのに調査なんて必要なものか。もし過去に戻れるならそんなもの依頼するなと心から叫びたい。
頬にキスを受けて顏を真っ赤にしたハルが可愛らしくて憎い。お前がそんな顏を見せていいのは俺だけだろう。
相当嫌だったのだろう。ハルは「シージー△※Å~」と叫び現れてから三日目と同じように倒れてしまった。今度は聞き取れない言葉も一緒だがまた「シージー」か。いつか人の名前かどうかだけでも確認したい。
ひとまずはヤツを嫌がる様子を見せてくれて本当に良かった。もし万が一嬉しそうになんてされたら……。
最近、思考がひどく攻撃的になる事が増えた気がする。胸の内に灯る黒い炎……これが恋というものか。
倒れたのを良い事に生きてきて一番の速さで疾走してハルの自室へ連れていけたのは良かった。ハルの寝顔を見ていたら何故かハルぐっしょぶ、という意味の分からない言葉が頭に浮かんだ。解せない。
ご一読ありがとうございます。連載って難しいですね。執筆中の方も、きちんと完結された方は特に改めて尊敬します。 稚作ですが少しでも楽しんで頂けたら幸いです。




