表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

「割とふつうだよね?」

ガロン歴 エリエスの月 太陽の日


 ▼娘があらわれた!


 何故私はこんな記述をしたのだろう。▼なんて使った事がない。だがあの娘の顔を思い浮かべたら何故かこうしなければいけない気がした。解せない。

 それはさておき娘だ。彼女は一体何者なのだろう。庭園に突然強い光が放たれ、場が震えたと思ったらいつの間にか彼女が倒れていたのを庭師のヴェルグが発見したそうだ。

 女性とはいえ見慣れぬ風貌、珍しい黒髪の者が突然現れたのだ。これが王宮内であったなら、やれ暗殺者か何らかの陰謀かと上を下への大騒ぎとなっただろう。

 だがここは長閑で平和な辺境の地。領民達は皆慎ましくも穏やかに日々を過ごしている。私を狙った所で何になるというのか。

 何か目的があるにせよ入り込んでおいて意識を失う様な間抜けな間者など取るに足らない。

 突然の光という事は、今は数える程の人間しか操れない魔術が関係しているのかもしれない。調査を依頼しておくとしよう。

 何にせよ娘が目を覚まさなければ話もできない。医師による診察で外傷もなく異常なしと言われていても女性に叩いて起こす様な真似はできない。

 どんな瞳を向けどんな声でどんな話をするのだろう。領主として相応しくない感情だろうが楽しみでならない。早く目を覚まさないものか。




ガロン歴 エリエスの月 滝の日


 話なんてできなかった。(´・ω・`)


 (´・ω・`) ってなんなんだ何故私はまた見たことも聞いた事もない記述をしているんだ!だが彼女の瞳を思い浮かべたら何故かこうしなければいけない気がした。解せん。

 それにしても三日、三日も待ちに待ってこんな結果が待っていようとは!

 日が経つに連れ楽しみは心配に変わりいっそ叩き起こそうとした、その時だ。ようやく目を覚ました彼女の黒い瞳が私を捉え、一瞬で私の心が捉われた。自分でも信じられない。三日間彼女の事ばかり考えていたからか?だが一時の気の迷いにしてはこの胸の内に燻る黒い炎は何だ。

 目を覚ました彼女は私を見るなり、一言「シージー!」と叫び再び意識を失った。「シージー」とはなんだ。物か。人か。意識を失う程ショックだったのだから助けてという意味か。恐怖に怯えた表情ではなかったが。だがもし助けを求める家族や友人の名前だったなら?……大切な男性の名前だったなら?

 胸の内で黒く燃える炎が更に勢いを増す。やはり気の迷いではないのか?

 その後は執務の為また彼女が起きるのを待つ羽目になってしまった。一度目を覚ましたのならまた覚ますだろうなんて医師の言葉も執務も無視して彼女を起こしてしまえば良かった。執務なんて全く手につかなかった。




ガロン歴 エリエスの月 森の日


 今日は何から記せば良いか分からない。幼少から日記を記してきて初めての事だ。

 まず、彼女の名前はハルだという事が分かった。ハル……こうして日記に記すだけでも胸が温かくなって落ち着く。やっと、本当にやっと目を覚ました彼女と話す間十ずっと胸が高鳴っていたというのに不思議なものだ。

 やはり私は彼女に落ちているのだろう。

 前日私の顏を見るなり卒倒してしまったハルに再び顏を見せるのは、中々に勇気のいる事だった。

 こんな事に勇気が必要なんて自分でもおかしかったが、私を見て意識を失うなんて反応は初めてだったから仕方ない。常日頃女性から向けられる恋慕や憧憬、誘惑に慣れ過ぎていたようだ。

 だが謎の言葉「シージー」の意味を聞かなければいけない。彼女の素性や目的を聞くのなんて二の次だった。おい領主!と言われても甘んじて受け入れよう。

 結論から言えば「シージー」の意味は分からなかった。彼女とは言葉が通じなかった。

 一瞬落胆したが身振り手振りで必死に意思を伝えようとする姿がとてつもなく可愛らしく、身悶えする程だったから問題なんて無い。心臓がぎゅんとなるこの感情をなんと呼べば良いのだろう。

 辺境とはいえ領主、貴族として様々な人間と関わってきたのだから害意のある人間とそうでない人間くらい見分けられる。それに人を見る力は先代譲りで自信がある。彼女がただただ可愛くて仕方なかった。これを記している今も自分の顔がにやけているのが分かるくらいだ。彼女の前で抑えるのにどれだけ苦労した事か。

 何より感動したのは名前を伝えあった時の事。私がウエーサマオナーリ・ガロン・オヤダカー二だと本来の名前をやや短くして伝えると瞳を輝かせウエサマ!と綺麗に呼んでくれた事だ。

 私自身でもウエ、が言い辛くウェサマーとばかり呼ばれているのに、まさか言葉が通じない彼女が、それも親しげに呼んでくれたら何かもう止まらなかった。

 情けない事だがこんな感情は初めてでどうしたら良いのか分からない。

 ハルは名前以外は何も分からない、得体の知れない人間である事に変わりはなく幾ら無害とはいえ監視は必要だろう。

 だが、監視でなくても。私はもう彼女から目を離す事はできそうにない。

  

ご一読ありがとうございます。

以前書いた小説に評価、お気に入り登録して下さった方がいたのに気づき、舞い上がってつい記憶を掘り起しつつ書いてしまいました。それも短編で収めるには長いからって無謀にも連載…… 頑張って書き上げます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ