第3話
かなり久しぶりの更新となってしまいました(汗)
「聖さん、葉瑠さん!デビューの日にちが決まりましたよ!」
例の如く事務所の一室で曲作りをしていた2人の元に、慌てた様子でマネージャーがドアを開けて入ってきた。
彼は2人よりも少し年上で名を志水真幸といい、オーディション会場で2人をプロデューサーの元へ連れて行った本人だった。志水がマネージャーだと知った2人は変な偶然に驚いたが、いざ付き合ってみれば誰よりも2人を応援してくれているので単なる偶然ではなかったのかもしれないと思っていた。
「んあっ?」
志水の言う内容がいつもの様に食堂のメニューや朝の占いの良し悪しではなかったため、いつもは無視するかのようにギターに夢中な葉瑠も変な声をあげて志水を見る。葉瑠とは反対にきちんと志水の相手をする聖も、今回は口を半分開いた状態で固まっていた。
2人ともかなりのマヌケな表情である。
「んあっ?じゃないですよ!デビューの日にちが決まりました!」
「おっ…おぉ」
「葉瑠さん、かなりおバカな反応は辞めて下さい。いい男台無しですよ。聖さんそんなぽかぁ〜んとしてたら、その口にゴボウ入れますよ」
本当にゴボウを口に入れられても嫌なので、慌てて口を塞ぐ聖。
2人をマネージメントする立場でありながら下からも上からもものを言わずに対等でいようとする彼と、そんな彼を時には兄のように慕い時にはついついこき使ってしまう2人。ただのいい兄ちゃんに思われがちな志水だが実はしっかりもので、きちんと時と場合を心得ている為に2人の好き勝手にやらせることはなく、そんな厳しい一面も2人は好きだった。
「お二人ともしっかりしてくださいよ。デビューですよ、デビュー!この間完成した曲をプロデューサーがいいっていってくれてから、すんなりと日程が決まったんですよ!」
まるで自分の事のように喜ぶ志水。オーディションの時に二人と出会ってからいつも近くで雑用をこなし、自分の仕事は終わっても
「聖さんや葉瑠さんが困るといけませんから」
といって遅くまで残り夜食の手配をしたり。
志水も二人が表舞台に立つのを夢見てきた一人であり、いなくてはならない二人のチームの一員でもあった。
志水が二人に説明したデビューの日程はこうだった。
まずは事務所の先輩であるLACKSが司会をつとめる歌番組に出演し、LACKSの後輩として紹介をしてもらい曲とメンバーの披露し宣伝させてもらい、さらにその後同事務所の先輩のニューシングルと後輩のデビューシングルの同日リリースを話題として売りだそうということだった。
「僕はデビューシングルを事務所でも人気のあるLACKSのニューシングルと同じ日にリリースしたら出だしから良くないのではと思いましたが、社長の意見なので…」
「事務所の先輩と同じ日にリリースしたところで、わしらには何にも不都合はないよな」
「そうそう、せっかくLACKSに推してもらえるいい機会なんだし、志水さんが気にすることはないですよ。売れることよりまずは、名前くらい覚えてもらえば上等!」
「初めから一番じゃ面白味がないですって」
志水もマネージャーをやってあるだけあり、事務所の人気のある先輩グループと同日にリリースすれば聖達の曲は彼らを上回ることはないだろう…と心配をしていたが、二人はそのことより
「自分達の曲が世の中に売り出せる」という事実の方が嬉しいようだ。
「やったな!ついにリリースか。長かったな」
「あぁ!確かLACKSの番組といえば生放送だったよな?わし、ちゃんとギター弾けるかな…」
ようやく決まったデビュー曲リリースと生放送番組出演に早くもわくわくとする二人。
最初は聖達の曲の売り出しの心配をしていたが、徐々に事務所の思惑通りにはいかない気がしてきた志水はそんな二人を見ながら二人の今後を思った。
『果たして社長の考えは上手く行くのだろうか…。プロデューサーや僕の感覚が確かならば…』