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第2話

第1話からだいぶ遅くなってしまいました。続きです。

今から12年前の7月の暑い日、都内某所にあるアリーナ。海外で人気のある日本でも有名なアーティストが初めて日本でのライヴを1日だけやることになった。


会場は日本でも大規模なアリーナが選ばれた。そのアーティストは日本でも大人気のためチケット発売開始から数秒で売り切れるという状態だった。

そのアーティストの熱狂的ファンだった父親がチケットを幸運にも手にいれ、当時8歳だった聖は父親に手を引かれライヴへ行った。まだ幼い聖は家でアニメを見る方がよかったが、何事にもあまり熱くならない父親が子どものように目を輝かせそのアーティストについて語りだし、どうしてもというので一緒についていったのだ。ところがライヴが始まると聖は彼に釘付けになる。


決して狭くない会場なのに狭く感じてしまうほどにぎゅうぎゅうに入った人達で蒸せ返った空間に、スポットライトを浴び観客の視線を集めステージの真ん中でギターをかき鳴らして歌っているアーティスト。違う国の言葉で歌う彼の歌は幼い聖には理解できなかったが、その作り出す音と光景に胸をうたれた。


普段聞くことのないような大音量で流れる音楽に聖自身の胸の鼓動も同じビートを刻み、盛り上がった観客による振動と高く突き上げられた拳、そして熱気とスポットライトによってなのか少し輪郭がボヤけて見えるアーティスト。


そのすべてが聖の目と耳に焼き付き盛り上がる会場の中、一人だけ取り残されたような錯覚を覚えただ立ち尽くしてステージを見ていた。 



――…‥



突然の合格発表から数日後、聖はまた事務所を訪ねていた。

プロデューサーから与えられた一室に籠り曲作りの真っ最中で、隣にはあの時に一緒に合格した男前、葉瑠がいる。


バンドをデビューさせるつもりだったプロデューサーだが、聖の歌と葉瑠のギターに惚れこの2人でユニットを組ませる事にしたのだ。プロデューサー曰く、

 

『今日オーディションに来ていたどのバンドより、君たち2人を組ませた方が実力がある』

 

らしい。

偶然なのか運命なのか、聖が控室で聞いた“心に響くギター”を奏でていたのは葉瑠だったのだ。あの時のギターを弾いていたのが葉瑠であったことにはじめは驚いたものの、葉瑠とだったら夢が現実となるのも遅くはないと確信した聖。

自分がギターが下手なら葉瑠が、葉瑠の歌が下手なら自分がカバーしあえばどんなバンドにも負ける気がしない。聖も葉瑠も考えが一緒だったし、2人共バンドにこだわっていた。


『今は2人だけどいつかはわしらとベースとドラムとキーボード入れて、日本一のバンドになろうな』


オーディションの後の葉瑠はそういった。聖も同じ事を思っていたため、葉瑠がそういってくれて嬉しかった。

同じ夢を志す者同士、ちょっと時間が経てば仲良くなるのも簡単であった。



聖は詩を考え葉瑠はギターをポロリポロリと弾いているが、耳を澄まして聞いてみるとどこかで聞いたメロディである事に気が付く。


「なぁ、葉瑠」


「ん?」


「その曲って…」


「ハプニング娘、」


ハプニング娘、とは10代から20代の女の子が何人かで構成されたアイドルグループで、30代前後のお兄さん達に人気があった。まさか葉瑠もファンのお兄さんの1人なのだろうか?


「…曲考えてるんじゃなかった?」


「いや、この“愛機械”のコード進行が弾いてて楽しくってさ、なんかヒントにならないかなって」


“愛機械”とはヘビーな名前だが彼女らの名前を世に知らせた代表作だ。ファンという訳ではないようだが、彼がハプニング娘、を譜面なしで弾いてしまうことに軽く驚く。葉瑠の見た目だとロックだとかビジュアル系の曲を好んでそうなのだ。それを本人に聞くと、


「邦楽は割りとなんでも好きだよ。ハプニング娘、もだけどカッツンとかのジョニさん系も好きだし、和田アキラとか西島さぶも。最近のヒットは浜田かな」


アイドルから演歌まで大丈夫らしい。


「でもわしの本命はあの人かな」


「あの人?」


「そう。」

葉瑠は脇に置いてあったスタンドにギターを立て掛けると、一度座り直す。


「昔姉ちゃんに連れられて海外の有名なアーティストのライヴ行ってさ。もの凄い衝撃を受けたんだ。わしはちっさかったから名前も顔も覚えてないんだけど、その人が一番かな。今この道に進んでるのもあの人に憧れてなんだ」

 

葉瑠はその時の事を思い出しているらしく、目がキラキラと輝いていた。

 

「ライヴの日本公演はその一回きりで、次のチャンスを待ってたらその人引退しちゃって名前も顔も覚えずにだったけどな」


「なんか俺と似てるかも…」


「似てる?」


ゆっくりとした動きで首をかしげる葉瑠。


「そう。俺も葉瑠と一緒で確か8歳だったかな、そんくらいの時に親父に連れられて海外アーティストの一回限りの日本公演にいったんだ。そしたらさその光景に身体が動けなくなっちゃって、いつの間にかこの道を選んでた」

「へぇ…なんかあまりにも境遇が似すぎてるな」


「もしかしたら同じ会場にいたのかもな」


2人はまさかな〜と笑いあうが、実はそのまさかで2人共同じアーティストの同じライヴで衝撃を受けていたのだった。

2人がそれを知るのはもう少し後になる。


――…‥ 


曲作り開始から数ヵ月が経ち、相変わらず2人は事務所の一室で頭をかかえていた。なかなか満足のできる曲が出来上がらないのだ。ミュージシャンとしてデビューするからには、自分達の満足出来る仕上がりのものを世に送りだしたかった。デビューするからには一発屋なんてなりたくない。ものすごい人気はなくても世の中に認められる様な、そんなミュージシャンになる。


2人の気持ちは一緒だった。思い通りにいかないもどかしさはあったものの、よく話し合っては曲を書き直しまた聞きなおす。その繰り返しだった。


そうしているうちに、事務所の後輩のデビューが決まった。事務所との契約は聖達の方が早いが、彼ら“LACKS”はインディーズとして活躍していた頃から実力派バンドとして注目されていて契約は遅いものの、メジャーデビューは聖達よりも先輩となる。歳も近いこともあり、聖達は曲作りの合間に彼らと交流する機会があった。


「俺達なんてラッキーっすよ。プロデューサーの娘さんがファンらしくって、俺らを押してくれたんです」


リーダー格でヴォーカルをつとめる智尋がある日そんな事をいった。


「コネを使うっていうんですかね…。でもこれからは実力で上がってやりますよ!」


デビューのきっかけはコネでも、それから先は自分達次第といった彼ら。しかしそれは聖達のデビューと同時に思わぬ展開へと転がってしまうのだった。

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