第1話
お待たせしました!
リニューアル版『TVスター屋さん』です。リニューアルといってますがそちらを見なくても話はわかります。
芸能界ものですが私も業界人ではありませんので、設定の所々にパラレルが入ってます。苦手な方はご遠慮ください。
巨大な空間に詰め込まれたたくさんの人の熱気や照明により蒸せた空気が全身にまとわりつき、無意識に固く握り締めていた拳を開いてみると汗ばんでいた。
力を抜けば倒れてしまいそうな程に緊張した身体は衣装で身を包んでいる。
今、始まろうとしているずっと思い描いてきた時間に鼓動は高鳴っついた。
舞台袖――
メンバー全員で円陣を組み握り締めた拳を円陣の中心、頭くらいの高さに掲げ軽くぶつけ合う。デビュー当時から気合いを入れたりメンバーの心を一致団結させる為に行うポーズだ。
一人ひとり顔を見合わせ頷き合うと、トレードマークのニット帽を目深に被ったドラム、身軽な足取りで歩くキーボードの順で先に入場していった。
袖に残っているのは長い前髪を後頭部の高い所で縛ったベースに、一番長身で髪の毛の短いギター、そして今にも舞台に飛び出していまいそうなくらいにわくわくし、瞳を輝かせているヴォーカル。
彼らが長年待ち焦がれていたメジャーデビューして初めての、ライヴのステージに今上がろうとしている。
残された3人の位置からは客席は見えていないが、ドラムとキーボードの入場で起こった歓声でかなりのお客が入っていることがわかった。
もう一度顔を見合わせると3人一緒に入場する。彼らの入場で暗転と共にざわついていた会場が一斉にに沸き上がる。
明かりが付いたステージからは暗い客席は見えず、眩しい照明に照らされ視界は少しぼやけて見える。
そんな視界の中ギターやベースより少し後ろにいたヴォーカルは、前に立つ2人の後ろ姿が幼い頃見たあの光景と似ている事に気が付く。
照明や熱気で身体の輪郭は柔らかく蜃気楼でも見ているかの様に映り、会場中の視線を浴びて立っている。
あの頃よりその光景は近く、正面からは見えないが見覚えのあるそのシルエットに確信する。
『あの時焦がれた場所に今、立っている…』
――もう夢ではない。
胸の奥から沸き上がる興奮に思わず武者震いした。
ヴォーカルの準備が出来た事を確認すると一曲目のイントロが流れた。ギターソロから始まる彼らの代表曲に、会場は熱気に包まれた。
――…‥
ケースにしまったギターを右肩にかけ、左手には未来をかけた歌を綴った楽譜。目の前に立ちはだかる建物の一室に青年、藤村聖の明日を左右するオーディション会場がある。
大手レーコード会社G主催のこのオーディション。今回は本格的なバンドグループをデビューさせるのを目的としており、アマチュア出身のバンドマン達や聖みたいにギターを片手に一人で来てる青年もいる。
オーディション参加者に割り振られた控え室には、たくさんの人であふれていた。オーディションを目前にそれぞれ最後のチューニングに入り、あるグループは軽い音合わせをしていた。
「〜♪」
当然歌を歌ってる参加者もいる。
「俺もうかうかしてらんないな…」
ケースからギターを取り出しチューニングを済ませると、軽くストロークしてみる。
ギターは楽器だけありきちんと手順を踏めば綺麗な音を奏でるが、実は聖は自分自身ギターは上手くないと思っていた。
自他共に認める程歌は上手いが、ギターのテクニックは並かそのちょっと下というか、自分の演奏は心に響いてくるものではない。幼い頃からの夢、“人の心に何か残る音楽を生み出すミュージシャン”になるために、相棒もいない聖は自分の力でなんとかやるしかなかった。
しばらく最後の確認をしていると、ある音が耳に入ってくる。耳をすまして聞いているとその音を作り出している人も聖と同じく、一人でオーディションに参加しているとわかったが…
「…歌、へったくそだな」
お世辞にも歌は上手くなかった。上手くないというか周りの歌につられて、自分の音が取れず音程が不安定になっている。しばらく聞いているとその音の主は歌うのを諦め、今度はギターのみの演奏をしていた。
聖は耳を疑った。さっきは上手いと言えなかった演奏が、ギターだけになった途端にプロに近い演奏になっている。
「誰かわかんないけど、このギターとだったら夢も叶うかもしれない…」
そのギターは自分にはない“心に響く”ものがあり、周りに色んなバンドがいる中で、聖はその音に聞き魅っていた。
――…‥
出番も無事に終わり、まだ出番を待つ参加者のいる控え室でペットボトルの温いお茶を一口飲みひと息をつく。自分の中ではなかなかの演奏が出来たと思う。他の参加者はというと聖と同じように力を出しきり満足した表情の者もいれば、失敗してしまったのか悔しそうに拳を握り締めうつ向いてる者もいる。でも自分以外はライバルであり、最高の演奏が出来なかったらそれまでという事だと言い聞かせ彼らを見ないようにする。
――…‥
オーディション最終組が終わったらしく控室の行き来がなくなった。出番の終わった者が集まる室内は少しだけ安堵した空気が漂う。
しばらくたつと控え室にスーツを着た男性が入ってきた。参加者にはスーツを来た人間はいなかったので、遂に結果発表なのだろうかと緊張感でまた周りはしんとなる。
「あぁ、ごめんねちょっと呼び出しに来ただけなんだ」
スーツの男は室内が静かになった理由を察したのか、気をつかってくれた。結果発表ではないとわかると室内が一斉にに安堵したのがわかる。
「えっと56番の藤村くんと65番の松谷くん、ちょっとこっちに来てくれるかな?」
普段は落ち着きがないと母親にも叱られる聖はこの建物に入ってからは大人しく振る舞っていたので、何か悪い事をして呼び出される覚えはなく首をかしげながらスーツの人についていった。
――…‥
前を歩く“65番松谷くん”に聖は驚いていた。
驚いたというか男の聖からみても男前だったため、呆気にとられていた。
すらっとした手足に高い身長、整った顔立ちにちょっと洒落た髪型。
「あんたモデルやった方がいいよーっ」
普段の聖ならこう叫んでいたかもしれない。ちなみに聖による聖自身の評価は“中のそこそこ”。唯一の自慢は目元のみ。目元だけが自慢じゃあ男前には敵わないと変な張り合いに肩を落とした。
「なぁなぁ、なんでわしらが呼ばれたんだと思う?」
「さぁ、なんでじゃろうね…、俺にも覚えはないっす。」
「わしと君、今日初めてあったよね?」
「うん、間違いないべ。俺の知り合いには“わし”っていう奴おらへん……って…わし!?」
きょとんとした表情で見つめる“男前松谷くん”に、その表情も素敵ね…なんて見とれてる場合ではないと首を振る。
「?わしの話聞いてた?」
男前なのに自分の事わしと呼ぶところや声と見た目のギャップのせいか、無意識に会話をしていた聖も思わず変な方言が混ざってしまった。
「聞いてましたよ。俺もまったく覚えがないです」
「だよね〜。わしもさっぱり」
あっ、この人笑うとまた印象が違う。と恋する女の子のように思ってしまいまた首を激しく振る。
――…‥
「失礼します、お二人を連れてきました」
スーツの人に連れられて別室にやって来た聖と男前。スーツの人にならって失礼しますと頭を下げ部屋に入ると、正面にはさっきオーディション会場にいた審査員がいた。
男前となんだろ?と顔を見合わせる。
「あぁ、志水くんご苦労様」
「いえ、藤村聖くんと松谷葉瑠くんです」
男前は松谷葉瑠と言うらしい。歩いているときにも高いと思っていたが横に立った葉瑠は、やっぱり背が高い。
「藤村くん、松谷くんオーディションお疲れ様。とりあえずそこに座ってくれ」
2人は言われた通り正面の椅子に座るがますます呼ばれた理由がわからない。
「藤村くん、何で自分がここにいるかわからないって顔してるね」
「はい…」
「賢そうな松谷くんは、ここに入ったら何となく理由はわかったみたいだよ?」
「そうなの?」
「まぁ、何となくですが…」
審査員の真ん中に座るプロデューサーは、書類に一度目を通すと前を向き言った。
「おめでとう。君たちはオーディション合格だ」
てっきり合格発表ではないと思っていた聖は、いきなりの合格の通知に目を丸くして驚く事しかできなかった。
いかがでしたか?TVスター屋さんとはちょっとだけしか似てないかと思います。私の根気次第ですが今考えてる感じでは、このお話とはかなり長い付き合いになりそうです。
これからもよろしくお願いします。ここまで読んで下さりありがとうございました!