博士と私パート4
「君は確か、医者だったよな」
「医学者です」
「どちらでも良い。細かい事は気にするな」
「博士の口からそんな言葉が出てくるとは心外ですね。いつも重箱の隅をプローブで突付いているのに」
「? 重箱をこの研究所に持ってきた記憶は無いが」
「……博士はもう少し、語彙を増やすべきですね」
「そうか」
「はい。…で、なんの用ですか? 体の調子でも悪いんですか?」
「うむ。この頃暑くなったり涼しくなったりするせいなのかもしれんが…」
「風邪なら寝てれば治ります」
「最後まで聞いてくれないか」
「なんです?」
「どうもこのところ、暑い日になると頭がクラクラするんだ」
「クラクラ? そうですか……」
「どう思う?」
「そんな曖昧では。具体的に、どんな感じに?」
「そうだな、クラクラ、と言うよりはボーッとする、と言うべきだろうか。前はこんな事なかったんだが。年だろうか?」
「年だからと言ってボーッとするとは限りませんよ。ボケーッとするのならまだ話は別ですが」
「僕はまだボケていない」
「わかってます。ボケただけです」
「? 君の発言は矛盾している」
「………。冗談を言っただけです」
「そうか」
「で? 頭がボーッとするんですか? それだけですか?」
「あと時々、目の前がチカチカするな」
「どんな感じに? フラッシュをたかれたみたいにパッと明るくなるんですか? あるいは電灯が眩しく感じるんですか?」
「いや違うな。なんていうかこう……目の前を大量の光の粒が通り過ぎると言うか、大量のウミホタルに囲まれたような…。あんな幻想的な色ではないんだが」
「…………。立ちくらみした時みたいに?」
「そうそう! そうだそうだ」
「…なるほど。原因がわかりました」
「お、なにかね?」
「博士。もしかしてまだ液体窒素を部屋にばら撒いてますか?」
「え? ああ、暑い日はね」
「そのせいで、酸素が減って酸欠になってるんですよ」
「………」
「………」
「…いや、だが酸素の絶対量に変化は無いわけで…」
「窒素は空気より重く、部屋の下に溜まるんです。物理学者のくせに、そんなことも知らないんですか?」
「………」
「………」
「…いや、だが」
「とにかく液体窒素を作るのはもう止めてください。電気の無駄ですから」
2007年 夏




