博士と私パート2
「博士。ちょっとよろしいでしょうか」
「なにかね」
「研究所の電気代なんですが、今月はいつもより十万近く増えていまして」
「ふむ。何故だろうな」
「これから夏になったら、さらに冷房代までプラスされるんですよ。
なにが原因で電気代が増えたのか、早めに調べておいた方が…」
「原因はわからんが、冷房代に関しては心配ないだろう」
「何故ですか?」
「君は『冷たい熱エネルギー』というのを知っているかね」
「は?」
「知ってるのかね、知らないのかね」
「知らないと答えるのが不本意なので、少し考えさせてください」
「意外に可愛いところがあるな」
「別に可愛くはありません」
「いやいや可愛いぞ」
「黙ってください」
「わかったから顕微鏡を振り回さないでくれ」
「で、冷たい熱エネルギーですか」
「そうだ」
「普通熱エネルギーといえば、温度が高くなると大きくなりますよね。冷たいのなら、エネルギーは低い事になる」
「高校物理だな。その通り。だがその低いエネルギーが今、環境問題の観点から注目されている」
「低エネルギーが? なにに使うんですか?」
「降参か」
「……で?」
「冷たい熱エネルギーと言うのは、雪や氷の事だ」
「は?」
「いや、本当だ。冬の間、北海道や東北地方などに降り積もった雪を巨大な魔法瓶に入れて取っておき、
それを夏になったら使おう、と言う案だ」
「ああ、なるほど」
「そうすると、いままで捨てる場所に困っていた雪を集める場所が作れるうえ、
夏にそれを利用する事で省エネになり、一石二鳥なのだ」
「それは知りませんでした」
「それで話を戻すと」
「何の話でしたっけ。――電気代の話でしたね」
「ああ。この部屋は涼しいと思わないか」
「冷房つけてるんじゃないんですか?」
「いや。そんな事をしたら電気代がかかるし、省エネにもならない」
「それじゃぁ、冷たい熱エネルギーを?」
「その通りだ」
「でも、この辺、冬に雪なんて降りましたっけ? 東北から輸入したんですか?」
「まさか。作ったんだよ。それも、雪より冷たいやつを」
「は?」
「見たまえ、この水槽一杯の液体窒素を! これを先ほど、部屋全体に撒いたのだ。
コップに移して部屋中に置くだけでも、随分涼しくなるはずだ」
「……これを作ったって、どこで?」
「あれ、知らなかったかね。うちの研究所には液体窒素製造機があるのだ。
まぁ、ここ最近使ってなかったから知らないのも無理ないかもしれないが」
「博士」
「なにかね」
「今月の電気代が跳ね上がった理由、それです」
2007年 初夏




