終わり
気が付くと目の前には白い天井が広がっていた。
どうやら、病院のようだ。声を出そうとしたが、しゃがれた声しか出ず、身体も動かせなかった。
「初めまして。カルマさん。天宮琴音と言います。いえ、神様と言った方が分かりやすいでしょうか?」
その声に視線を向ける。そこには肩くらいのストレートヘアーの整った顔の女性が座っていた。
「あなたは無事生き返る選択をしました。しかし、元々のあなたの身体は入念に焼かれてしまっていました」
「そこで、うちの科学研究室で作られたシリコン製の肉体に何とか残っていたあなたの脳を移植することで今のあなたは生存しています」
「その身体に移植をしたばかりなので、まだ身体をうまく動かすことはできないでしょう」
どうやら、生き返るには生き返ったようだが、今までの肉体じゃなくなったらしい。
なんとなくそれは察していた。死んだ後に燃やされたと聞いたから肉体は残っていないはずなのだ。
そうなるとやはり、元々の身体をベースとした置き換えの肉体を用意することになるだろう。
まさかシリコンで新しい肉体を作れるとは思っていなかったが、特殊な機関によって私自身が管理されていたのだろうか?
「そういえばお名前はどうしますか?電脳世界で生活していた時はアリスと名乗っていたようですが」
「それは...」
と声が少し出るようになったところで違和感を感じた。明らかに声が高かった。まさか...
「あー...そうですね。たぶん少し身体も馴染んできたと思いますし気付いたかと思いますが...」
そうコトネと名乗った女性が話し始めたとき、外の廊下から騒がしい声が聞こえてきた。
「ねーねー!コトネー!あの子目が覚めたー!?」
やけに若い女性の声だった。そして病室の窓が開くや否や、丈の合わない白衣を着た中学生くらいのツインテールの女の子が入ってきた。
「あーもー!ハルカ!ここには来ちゃダメって言ったでしょ!」
「いーじゃんいーじゃん!だって僕が作った肉体なんだから目が覚めたら見たいにきまってんじゃーん!」
ため息をつくコトネを尻目に、私は今このちっちゃい子が発言したことに気を向けていた。
「僕が作ったって...お前が私を?」
「そうそう!あ!僕はねー、ハルカって言うの!鈴掛晴香ねー!気軽にハルちゃんって呼んでいいよー」
あまりにも場違いな存在に言葉が続かない。
「僕って天才美少女科学者だからさー!君の肉体を作ったのも僕。君が過ごしてた電脳世界を作ったのも僕なんだよ」
「カルマさん...いえ、アリスさんと呼んだ方がいいですね。アリスさん、この子の言うことを聞いてたら混乱するでしょうから、私が一から順を追って説明します」
そして、コトネから説明をもらった。ここは警察の保有している病院兼研究所で私がいたあの世界はこの研究所で作られた犯罪者更生システムの試作品だったこと、このハルカという子供は本当に天才で電脳世界も私の肉体もこの娘が作ったこと、そしてあろうことか(本当に信じられないのだが)この肉体を"メスガキ"っぽい見た目にしやがったのもこのガキの手によることを説明された。
ハルカ曰く、"だってなんかメスガキっぽいじゃーん、見た瞬間素質ある!!って"とのたまっていた。
せっかく生き返ったのにこのお子様(というか、お前の方がメスガキだろ!)のせいで私の考えていた生き返りと想定が異なってしまっていた。
そもそも最初からおかしかったのだ。なぜ新しい世界で"メスガキ"として悩み解決をしなければならなかった?犯罪者更生の一環として悩みを解決することはまだわかる。女性に対する非道を詫びる意味として女性の身体にされたことも分からないことはない。
だが、"メスガキとして"は明らかに更生と何ら関係もないのだ。間違いなくこのワルガキのノリだ。
「おっ!カルマきゅん物分かり良いじゃん!もう見たときから思ってたね!コイツは立派なメスガキになるぞ!糞雑魚メス堕ちチョロインメスガキに間違いなくなれる!ってね!」
さすが私!見る目に間違いなかった!とかほざいているのを見て、怒りを通り越して呆れていた。
だが、残念ながら更生システムとしては確かに機能はしてしまっていた。私は生き返ったら今までひどいことをした女性たちに謝ろうと思っていたのだ。当然許されることではないが、それでも以前の自分だったら思うこともなかっただろう。
しかし、身体が女性(しかも少女と言っていい)で生き返ることは想定していなかった。女性たちに反省をして、そして、きっとこの現実世界にいるであろうジュンヤを探そうと思っていた。すべてが台無しになってしまった。
「あれ、コトネ。ここにいたのか。ちょっとこの前の事件の...ん?君は?」
急に男性の声が聞こえたと思ったら、またも招かれざる客が到来した。更に、不幸ながらもこの声には聞き覚えがあった。
「ジュンヤ!この子はほら、私が紹介した悩み相談のアレ。あの悩み相談を担当していた子の一人よ。たぶん話したことあるんじゃない?」
そうコトネがジュンヤに説明をしていた。私は驚きで口をパクパクさせながら荒ぶるメスガキ、新たな少女の肉体を与えられた自分、淡々と語る自称神を名乗っていた女性に当分先に会うことになるだろう昨日も会話した男性が現れて、どとうの情報量に圧倒されて混乱していた。
「そうなのか!じゃあ君がアリス?君のおかげで無事気持ちが晴れたよ!本当にありがとうね」
"そっかー!そしたら毎日会いにこれるなー"そうやって嬉しさを顔に出すジュンヤに混乱がピークを迎えて顔が真っ赤になった私はこう叫んでしまった。
「そうよ!私が毎日笑顔にするんだから!毎日会いに来ること!分かったわね♡」
眼をキラキラと輝かせている天才科学者を置いておいて、こうしてメスガキAIを演じさせられた私は、新たにメスガキとして現実世界でも生きていくことになった。
終わり




