成功
「へいへい!くよくよしてんじゃないよ!」
「もー!おにいたんったら!あたしのゆうこときいてよね!」
「やれやれ...この程度で悩んでいたのかい」
---
その後、何度か挑戦したが、結果は同じだった。
数十回挑戦した後、いささかうまくいかないため、一旦気分転換をすることにした。
島にはいくつかの娯楽施設があり、ゲーセンや映画館などもあったが、これらの施設はさすがに有料のようだった。
仕方なしに適当に歩いていると、色んな人とすれ違う。端々に聞こえる会話から皆それぞれの課題を抱えていることが伺えた。
しかし、不思議と課題に悩まされているというより、仕事の話をするかのような世間話の話題がほとんどだった。
課題完了後もこの世界に残った人がいるのもうなずけるほど、この世界は過ごしやすい空間に思えた。
悪くない。そう感じていたが、俺にはこの世界に何か思惑があると感じずにはいられなかった。
当然だ。あまりにも整いすぎている。そうこうしているうちに島の端に到着した。
島の端は青々とした海をイメージした青の空間が広がっていた。砂浜のような場所も用意されているが、残念ながらこの青空間では泳げないようである。
水着の人はいなく、青い空間を歩いてる人がいるのを見ると、さすがに海ではないようだった。
島の娯楽施設は今利用できないため、仕方なしに砂浜の一部に座り、目の前の青空間を眺めていた。
「ねえ、キミ新しくこの世界に来たばっかりでしょ?」
突然声を掛けられ、振り返るとそこにはボーイッシュで元気はつらつな印象の少女が手を後ろに回してやや上体を前に傾けながら立っていた。
「...誰だ?」
「初めまして!ミカって言います。キミの相談、見てたよ!」
(見られてた...?)
当然だが仕切りもない場所で会話をしているから見られているのもおかしくはない。
ただ、あの姿を見られたというのを改めて言及されるとやや恥ずかしい気持ちになった。
「何度も失敗してるの見てたからね!なかなか失敗する人って少ないから珍しいなって思って!ちょっと声かけてみようと思ったんだ!」
正直お節介だと感じた。
「あはは!いきなりこんなこと言われると失礼だよね!ごめんごめん!ただ、僕こう見えてこの世界の古参なんだー」
「ほとんどの人はその人に見合った課題が与えられるんだけど、たまに変な課題を与えられる人がいるんだよ」
「もしかして君もそうかなって思って。可愛らしい見た目だしつい声かけちゃった」
不機嫌そうなこちらの空気を察したのだろう、口早に説明が述べられる。
おそらくこいつも前世では別の生活をしていたのだろうことがこのやや芝居かかった話し方で察する。
不快感は強かったが、このミカの言う通りおそらく俺は変な課題を与えられた人に該当することは当たっていた。
渡りに船というわけではないが、どうやら話をする価値はありそうだ。
「そうか。で、何の用だ?」
「おっ!良かった!ぜひお話聞かせてよ!」
ややかみ合わない返事をもらいながら、しぶしぶ自分の課題について俺はミカに説明した。
---
「キミさ、メスガキの意味分かってる?」
ミカは俺の横に体育座りで座っていた。
「生意気な女の子だろ?」
「全然違うよ!メスガキはメスガキってジャンルなの!」
ミカは目を見開いて声を張り上げる。突然の大声に戸惑いながらもなぜここまでメスガキについて熱弁してるのか滑稽に思えて薄ら笑いを浮かべてしまう。
「はーっ...まさか現代人でメスガキを知らない人がいるとは...」
「メスガキってそんな有名なモノだったか...?」
「当たり前じゃん!一大ジャンルを築き上げてきたものなんだから一般人は皆知ってるよ!」
いや一般人全員知ってるものじゃないだろ...と内心呆れながらもあまりにも知ってて当然という風に話すミカの姿はとてもおかしくて顔を緩めてしまう。
最初警戒してたのがバカらしくなるほどミカは情熱的に"メスガキ"なるものをご高説してくれた。
「まずメスガキって言うのは、常に上から目線で相手を小バカにするの」
ミカは実演してくれる。
「もう!こんなこともできないの?♡だめじゃん♡ざーこざーこ♡」
「相手をバカにしていいのか?」
「当然だよ!メスガキは小バカにしてるけど裏を返せば相手をよく見てるってこと!だから実は気遣い屋さんなんだよ!」
小バカにする気遣い屋...一見矛盾するようだがよくよく考えると...やはり矛盾している。
メスガキって言うのはとても高度なモノなんだなぁ。
「もしかしてバカにしてる?相手のことを想うがあまり素直に表現できない感じ。だからつい小バカにしちゃうんだけど本当に言っちゃいけないことは言わない絶妙なさじ加減で気遣ってあげるの」
「こんな感じか?」
そう言って一呼吸置いた後、言われた表現を試す。
「まったく!そんなだらしないから仕事ができないんじゃない♡もー!私がいないとダメダメなんだから♡やり方全部教えてあげるわよ♡」
「そうそうそれそれ!うまいじゃん!メスガキの見込みあるよ!」
コツが分かれば習得するのは簡単だ。矛盾した内容でもイメージができれば実演することができる。
そういう意味ではミカの説明は上手かったのかもしれない。
そのままの流れで数時間ほどのミカの"メスガキ"トレーニングの手ほどきを受けることになった。
---
手ほどきの後、俺は再度空に浮かぶ窓に向かった。
画面の向こうに現れたのは、やややつれた顔の若そうに見えるが疲れのせいで老けて見える20代くらいの男性だった。
「えっと...メスガキっぽくお願いします」
「あらあら♡そんな疲れた顔してどうしたのかしら♡ちゃんと栄養のある物食べてないんじゃないのー?♡」
「いつも仕事が忙しくて...あまり食事もちゃんととれてない...です」
「えっ!仕事長くやってるの!?それってもっと効率的にしないとダメなんじゃないのー?♡」
画面の向こう側で少し不機嫌そうになってる空気を感じる。少し煽りすぎたか...?
「分かってるけど...こっちだってできる限り効率的に仕事してるつもりなんだけど...」
「なるほどね。でもさ、効率的かどうかなんて自分じゃ分かんないんじゃないのー?ちゃんと上司に相談してる?」
男性は口をつぐんだ後、恐る恐る言葉にした。
「それは...上司なんかいつも怒ってそうで怖いし...」
「あーあ!怒ってそうで怖いなんてよく言えるわね!上司からしたら声もかけてこないで黙々と仕事してる部下の方が怖いんじゃないの?あたしだったら自分の状況をちゃんと把握してくれない方が怖いからなるべく上司に状況を逐一報告するけどね?♡」
「それは君が美少女だから...俺みたいな見た目のやつに話しかけられたくないでしょ...」
「んもーっ!じれったいなぁ!見た目で尻込みしちゃうんだったら見た目変えたらいいじゃん!それこそあたしみたいな美少女になったらいくらでも話しかけられるでしょ?本当はそれもただ上司と話したくないだけの言い訳の材料にしてるだけなんじゃないの?」
「そりゃ...そうだけど...」
「いい?あんたは控えめな自分に酔ってるだけ。普通に考えて上司が怖そうだから話しかけられないなんて思ってる人がこんなあたしみたいなメスガキに悩み相談したいなんて思わないでしょ?本当の理由は何なの?ちゃんと教えてくれたらあたしがちゃんとその悩みを解決してあげちゃうから♡」
男性のすごい驚いた顔で数秒の沈黙。内心こんな話し方で本当に良いのか?と感じながらもこの沈黙は手ごたえのある沈黙だった。
「なんというか...よくわかるね君」
「当たり前でしょ!♡あたしはメスガキなんだからあんたのこと一目で分かるに決まってんじゃん♡それも分からなかったのかしら?ざーこ♡」
「ハハハ...実はその上司がすごい美人で...」
...
その後数度の会話を得て男性は満足した顔で窓が消えた。最後にありがとうって言ってたな。
別の画面が現れて「1人目達成」の文字が表示される。
報酬として、この世界で使えるポイントがもらえた。これで施設を楽しめるらしい。
ミカがこちらにやってくる。
「見てたよ。上手だったね」
「ありがとう。ミカのおかげだよ」
「僕はただ君にメスガキって何かを教えただけだよ。できたのは君自身の力さ」
こうして、俺は初めての悩み解決を達成するのだった。




