星を喰らう竜
深い森の奥、光を拒むように生い茂る木々の下に、小さな村があった。
その村には、夜空に星が現れることがほとんどなかった。理由はただ一つ――星を喰らう竜が、天空に棲んでいたからだ。
竜は夜ごと現れては、瞬く星々を一つ、また一つと飲み込み、黒い空に沈黙を残して去っていく。
星を失った空は、村人にとって絶望の象徴だった。
だが、村の少女リアナだけは違った。
「星は、竜に食べられたんじゃない。あの竜は、星を守っているの」
幼い頃から彼女だけが、竜の瞳に映る優しさを見抜いていた。
ある夜、リアナは決心して森を抜け、竜の棲む山へと向かった。
冷たい風が吹き荒れる頂で、彼女はついに星を喰らう竜と対峙する。
「竜よ、なぜ星を奪うの?」
震える声で問いかけると、竜は静かに目を細め、声ではなく心に響く囁きで答えた。
――空の星は、やがて墜ちて地を焼く。私はその火を飲み込み、あなたたちを守っている。
リアナの目から涙がこぼれた。
村人たちが恐れていた「脅威」は、実はずっと「守護」だったのだ。
その夜から、リアナだけは知っていた。
竜が空を渡るたびに消える星は、滅びを防ぐ祈りであることを。
そして彼女は胸に誓った――いつの日か、この真実を村に伝え、竜と人を繋ぐ架け橋になる、と。
夜空に、竜の大きな影が流れていく。
星を奪うたびに、少女の心にはひとつ、希望が灯っていった。