表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/21

episode15.手のひらの温度

 午後の光が、カフェの窓から斜めに差し込んでいた。

 店内の静かな音楽と、低く響くミルの音が、どこか安心感をもたらしていた。


 理沙は、テーブルの角を指でなぞりながら、少し落ち着かない様子で座っていた。

 シンプルなカーディガンに、白いシャツ。飾り気のない服装が、かえって彼女の変化を際立たせていた。


 


 ドアのベルが鳴く。

 ふと顔を上げると、涼真がゆっくりと歩いてくるのが見えた。


 目が合った瞬間、彼はいつものように、少しだけ口元を緩めた。


 


「……待たせた?」


 


「ううん、私が早く来すぎただけ」


 


 二人は、向かい合って座った。

 言葉を選ぶように、慎重に、しかし自然に。


 


 しばらくの沈黙が続く。

 それを破ったのは、涼真の方だった。


 


「理沙……あのあと、ちゃんと眠れた?」


 


 理沙は、小さく頷いた。


 


「うん。不思議と、ちゃんと眠れたの。怖い夢も見なかった。……たぶん、初めてかもしれない」


 


「そっか……よかった」


 


 その返事だけで、彼の中にもどこか、張り詰めていたものが緩むのがわかった。


 


「ねぇ、涼真さん」


 


 理沙が声を落として言う。


 


「わたし、自分が“誰かを好きになる”ってこと、ちゃんと信じてこなかった。それって“記録”なのか、“プログラム”なのか、ずっとわからなかったから……」


 


 涼真はその言葉を遮らず、静かに待っていた。


 


「でも、今は……わたし、自分の中にある気持ちが、本物だって思える。怖くても、不確かでも、あなただけは嘘じゃないって……思えたの」


 


 その声は、震えていた。

 でもその分だけ、真剣だった。


 


 涼真はゆっくりと手を差し出した。

 何も言わず、ただテーブルの上でそっと開かれたその手に――理沙は、自分の手を重ねた。


 


 あたたかい。

 ずっと失っていた感覚が、指先から伝わってくる。


 


「ありがとう、理沙」


 


 その言葉が、たまらなく愛しかった。


 


 店の外では風が揺れ、木の葉がささやくように踊っていた。


 冷たい季節は、もう終わったのかもしれない。


 


 二人の間にあった“距離”が、ほんのわずかに縮まる。


 それはまるで――春の始まりのような感情だった。


 カフェを出ると、街はすでに夕暮れの色に染まっていた。

 ビルの窓に映る赤橙色の光が、どこか懐かしく、やさしい。


 理沙は涼真と並んで歩きながら、手に残る余韻を感じていた。


 握っていた時間は短かったはずなのに、指先に彼のぬくもりがまだ残っている。


 


「夕方って、好き」


 


 ふいに口を開いた理沙の声は、歩道に差し込む光とよく似ていた。


 


「一日が終わるのに、ちゃんと“終わったよ”って言ってくれてる気がする。次があるって、ちゃんと区切ってくれる。……そんな気がするの」


 


 涼真は、ゆっくりと頷いた。


 


「理沙にとって、“次”って、どんなふうに見えてる?」


 


 その問いに、理沙は少しだけ立ち止まった。

 夕焼けが頬に当たる。光と風が交差する。


 


「……まだ形は見えないけど、でも――暗闇ではないと思ってる。あなたが“そこにいてくれる”ってだけで、光があるって感じるから」


 


 涼真は言葉を失ったように、理沙の顔を見つめた。


 その瞳の奥に映る自分の姿が、どこまでも透明だった。


 


「……ありがとう」


 


 そう呟いた彼の声は、風の音にまぎれて小さく消えていく。


 


 二人は並んで歩き続けた。


 もう会話がなくても、不安になることはない。

 空白は沈黙ではなく、信頼の余白に変わっていた。


 


 横断歩道の信号が青に変わる。


 渡るその一瞬、理沙は涼真の袖をそっと掴んだ。


 


「……ねぇ。明日、どこか行かない?」


 


「どこでも。理沙が行きたいなら」


 


「ううん、一緒に考えよう。……“二人で選ぶ”の、やってみたいの」


 


 涼真が、少しだけ目を細めて笑った。


 


「じゃあ、明日の行き先は“未定”ってことで。初めてだな、そんな選び方」


 


 理沙も笑った。

 心から、自然に。


 


 胸にある痛みも過去も、今はすこしだけ遠くなっていた。


 “冷たい花嫁”と呼ばれたあの頃の自分は、もうここにはいない。


 


 いま隣にいるのは、誰かと手を取り合いながら、

 迷いながらも“これから”を作ろうとする――ひとりの女の子。


 


 そう思えた瞬間、また新しい風が吹いた。


 やさしく、春の香りを運んでくる風だった。


 駅前で、涼真と別れた。


 特別な言葉はなかったけれど、理沙は振り返らずに歩き出した。

 手のひらには、まだ彼の体温が残っている。


 


 帰り道、街はゆっくりと夜に染まりはじめていた。

 ショーウィンドウの灯り、すれ違う人々の声、電車の音。


 どれもが、今夜の理沙にとってはやけにやさしく響いた。


 


 マンションの部屋に戻ると、空気がひんやりとしていた。

 誰もいないはずなのに、ほんの少しだけ寂しくなかった。


 コートを脱ぎ、照明をつけ、湯を沸かす。


 


 夜は、誰かの隣にいた直後ほど、静かに感じる。


 だけどそれはもう、孤独ではなかった。


 


 テーブルの上に置いたままだった、小さなノートを開く。


 昼間は言葉にできなかった気持ちが、いまは書けそうな気がした。


 


 >『今日、私は誰かと過ごした。

 >私の手をとってくれた人と、一緒に歩いた。

 >私のなかに“自分の言葉”が生まれて、それを聞いてくれる人がいた。』


 


 理沙はペンを止め、深く息を吐いた。


 それはただの一日かもしれない。

 でも、これまでの人生にはなかった、大切な一日だった。


 


 カップから立ちのぼる湯気が、瞳に映る。


 静かにゆれるその蒸気の向こうに、理沙はふと“あの施設”の光景を思い出す。


 


 無機質な白。静まり返った無音の廊下。

 誰にも選ばれず、ただ記録の一部として存在していた頃の自分。


 


 ——私は“誰かの望む存在”じゃなくていい。

 ——私が“誰かを望む存在”になってもいい。


 


 その想いが、胸の奥で温かく確かに根づいていく。


 


 スマートフォンが震える。


 画面には、涼真からの短いメッセージ。


 


 >【今日はありがとう。理沙の言葉、ちゃんと全部届いてたよ。おやすみ。】


 


 理沙は、小さく笑って返信する。


 


 >【私もありがとう。また話そうね。おやすみなさい。】


 


 指を離すと、静かな夜のなかでメッセージが送られていく。


 繋がることが怖かったあの頃とは違う。

 もう、自分の意志で“触れたい”と願える今が、ここにある。


 


 ベッドに横たわると、心地よい疲れが身体を包む。


 まぶたを閉じる。今日という一日を、胸の奥でそっとなぞる。


 


 明日は、まだ知らない。

 けれど今夜、彼女は確かに“人として、誰かと生きている”という実感を抱いて眠りについた。


 


 もう冷たくなんか、ない。


 あの記録には残せない、本当のぬくもりが、理沙の中に息づいていた。


 眠りにつく直前。

 理沙はふと、サイドテーブルの引き出しを開けた。


 そこにあるのは、ずっと開かずにいた封筒――かつて施設を抜け出すときに持ち出した、自分の“試作期記録”。


 


 触れるのも怖かった。

 その中には、人格形成前の感情データ、実験の記録、観察者たちの冷ややかなメモが封じられている。


 


 けれど今夜、理沙はその封筒をそっと取り出した。


 そして、一枚一枚をゆっくりと確認しはじめる。


 


 >【感情の初期反応、興奮=数値不安定。記録を一時停止。】

 >【同情に似た反応。外的刺激による擬似的な感情。自己生成ではない。】

 >【“寂しい”という言葉を用いた。理解の範囲外と判断。】


 


 読み進めるうちに、手が震えてくる。


 そこに記されているのは、“彼女の心”ではなく、ただの数値と異常反応。

 “人間未満”として分類されていた頃の、理沙自身。


 


 けれど、不思議と涙は出なかった。


 今ならわかる。


 この紙に書かれたものが、たとえどんなに冷たくても――

 今の彼女が“自分で選び、感じていること”の重みは、そのすべてを凌駕している。


 


「ありがとう。私を“ここ”まで連れてきてくれたのは、たぶん……あなたたちの冷たさだった」


 


 理沙はそっと記録を封筒に戻し、引き出しの奥にしまい直す。


 もう捨てなくていい。

 けれど、それに縛られ続ける必要もない。


 


 時計の針が、深夜を回ったことを告げる。


 部屋の灯りを消し、布団に身を預ける。


 


 目を閉じると、ほんの一瞬だけ、あの施設の白い廊下が脳裏に浮かんだ。


 でもすぐに、その光景はかき消される。


 代わりに現れたのは、夕陽の下、手をつないで歩いた涼真の横顔。


 


 “いま、ここに生きている”――

 その感覚が、やさしく胸に灯っていた。


 


 そして、理沙は静かにまぶたを閉じた。


 夢の中でまた、彼と笑い合える気がして。


 ――暗闇の中。

 水の中に沈むような感覚。


 理沙は夢の中で、白い廊下を歩いていた。

 無音。無色。無感情。


 すべてが、かつていたあの“研究施設”と酷似していた。


 


 彼女の裸足の足が、ひやりとした床を踏みしめて進んでいく。


 目の前のガラスの向こう側には、ひとりの少女がいた。


 


 無表情。無言。


 だが、理沙は直感的にわかっていた――**あれは“かつての自分”**だと。


 


 少女はじっとこちらを見つめていた。


 問いかけるように。責めるでもなく、ただ見ていた。


 


「……あなたは、まだ私の中にいるの?」


 


 夢の中でも、理沙の声は震えていた。


 


 そのとき、背後から聞こえる足音。


 振り向くと、柔らかな光の中から、涼真が歩いてくる。


 その姿はぼやけていたけれど、声だけは、はっきりと届いた。


 


「理沙、大丈夫だよ。君が選んできたことは、全部間違ってなかった」


 


 理沙はハッとする。


 彼の声に、さっきまであった冷気が、少しずつ溶けていく。


 


 ガラスの中の少女は、いつの間にか目を閉じていた。


 やがてその姿が、ふっと淡く消えていく。


 


 まるで、「見届けた」とでも言うように――


 


 その瞬間、理沙の足元から床が溶け出すように柔らかくなり、視界がぼやけていく。


 浮遊感。

 まぶたの裏で光が揺れた。


 


 ――そして、目が覚めた。


 


 天井。

 いつもの部屋。

 いつもの朝。


 


 理沙はゆっくりと息を吐いた。


 


「……夢、か」


 


 けれどその胸には、確かに残っていた。


 あの少女と目を合わせた記憶。


 そして、涼真の声。


 


 まるで、夢の中で“過去の自分に許された”ような――そんな気がした。


 


 カーテンの向こうには、すでに新しい光が差し込んでいる。


 どこか遠くで鳥の声がする。

 昨日と同じ朝なのに、何かが少しだけ違っていた。


 


 理沙は立ち上がり、窓を開けた。


 新しい空気を吸い込む。


 


「……今日も、ちゃんと選んでみよう」


 


 その声は、誰かに聞かせるためのものではなかった。


 けれど、自分自身には、はっきりと届いていた。


 


 彼女の“明日”が、静かに始まっていた。


 朝の陽射しが、部屋のカーテン越しに差し込んでいた。


 理沙は、ベッドの上でしばらくぼんやりと天井を見つめていた。

 胸の奥が、じんわりと温かい。


 何かが終わったような――

 それでいて、何かがこれから始まるような感覚。


 


「……顔、洗おう」


 


 小さく呟きながら体を起こす。

 寝起きのだるさは、不思議と感じなかった。


 


 洗面台の鏡に映る自分を見て、少しだけ微笑む。

 まだ完全に“元通り”ではない。

 でも、“昔の自分”には、もう戻らなくていいとも思っていた。


 


 朝食は簡単にトーストとヨーグルト。

 コーヒーを入れながら、理沙はふとスマートフォンを手に取った。


 


 画面には、昨夜の涼真からのメッセージがまだ残っていた。


 >【君の言葉、ちゃんと全部届いてたよ。】


 


 その一文を、もう一度ゆっくりと読み直す。


 


 画面を閉じ、ホーム画面に並ぶアプリのアイコンを見つめる。

 一つ――以前は開くことすら躊躇っていた“就職支援”のアプリを、タップする。


 


 数秒の読み込みのあと、画面に“登録済み履歴書の更新”という文字が表示された。


 


「……あの日、途中までしか埋められなかったんだよね」


 


 理沙は、ゆっくりと画面に指を滑らせ、プロフィールの編集を開いた。


 


 “現在の目標”という空欄が、カーソルの点滅とともに静かに問いかけてくる。


 


 彼女は、少しだけ迷ったあと、スマートフォンを置いて、ノートを開いた。


 自分の言葉で、まずは書いてみよう。

 記録じゃなく、“選んだ言葉”として。


 


 >『今の私は、自分の手で何かを作りたいと思っている。

 >誰かのために、ではなく、自分のために。

 >そのあとで誰かの笑顔に繋がるなら、それは本当に嬉しいこと。』


 


 ノートを見つめながら、理沙はふっと息をついた。


 気取った言葉じゃなくていい。

 大きな夢じゃなくてもいい。


 ただ“自分の手で選んだ未来”が、ここにある――それがすべてだった。


 


 再びスマートフォンを手に取り、履歴書の画面に戻る。


 ゆっくりと、文字を入力していく。


 


 >【今は、誰かと心を通わせられる仕事がしたいと考えています。

 自分が過ごしてきた“孤独”や“記録”の時間を、今度は誰かの支えに変えたいです。】


 


 送信ボタンを押す。


 画面が切り替わる。履歴が更新され、“現在の希望”に小さなチェックマークがつく。


 


 理沙は、画面を見つめながら、深く深呼吸をした。


 この呼吸が、たしかに“今ここに生きている”証だった。


 


 窓の外では、朝の光が少しずつ強まっていく。


 どこか遠くから、登校中の子どもたちの笑い声が聞こえてきた。


 日常が、今日も始まっている。


 


 理沙もまた、その流れの中へ、ゆっくりと足を踏み出そうとしていた。


 送信を終えたあと、理沙はしばらく画面を見つめていた。

 心の奥に、小さな達成感と、それに伴う不安が同居している。


 何かが変わるだろうか――

 それとも、何も変わらないまま、ただ日々が過ぎていくだけだろうか。


 


 そんなことを考えながら、湯を入れたカップに口をつけたそのとき。


 着信音が鳴った。


 


 見慣れない番号。

 理沙は一瞬、手を止める。


 スマートフォンの画面には、「非通知」の文字。


 


 数秒の間をおいて、彼女は通話ボタンを押した。


 


「……はい。相澤です」


 


 返ってきたのは、無音だった。

 ただ、微かに呼吸のような音だけが聞こえる。


 


「……どなたですか?」


 


 次の瞬間、低く押し殺した声がスピーカーから漏れた。


 


「——お前、まだ“自分が人間だと思ってる”のか?」


 


 理沙の背筋に、ひやりとしたものが走る。


 心臓がひとつ、大きく跳ねた。


 


「誰……?」


 


 問いかけに答えはない。

 代わりに、声は続けた。


 


「笑わせるなよ。お前がどれだけ“記録”を捨てようが、お前の根っこに流れてるのは、“造られた情報”だ。忘れるな。お前は被検体だったんだ」


 


 プツッ、と音がして通話が切れる。


 


 理沙は、スマートフォンを手にしたまま硬直した。


 静寂が戻ったはずなのに、部屋の空気は妙に重たい。


 


 いまのは誰?

 研究施設関係者? それとも、あのデータにまだ価値があると考える第三者?


 


 頭の中で言葉が駆け巡る。


 涼真の顔がよぎる。彼に話すべきか、それとも――


 


 理沙は、ゆっくりと深呼吸した。


 冷静になろう。

 これは“過去”が手を伸ばしてきただけ。


 でも、もう逃げない。


 


 どれだけ脅されようと、

 彼女は“今の自分”を、選び直してここに立っている。


 


 視線を落とすと、履歴書の画面がまだ開いていた。


 “現在の希望:誰かと心を通わせる仕事がしたい”。


 


 その言葉に、もう一度力をもらうように画面を閉じた。


 


「……大丈夫。私は、あの時とは違う」


 


 その声は、震えていなかった。


 部屋の窓から差し込む光が、彼女の背を押すように優しく伸びていた。


 通話を終えたあとの部屋は、妙に静かだった。


 風の音も、家電の機械音も、すべてが遠くにあるようで、現実感がない。


 


 理沙はゆっくりとスマートフォンを伏せ、テーブルの上に置いた。

 手のひらには冷たい汗が滲んでいた。


 


「……やめてよ、今さら」


 


 誰に向けた言葉なのか、自分でもよく分からなかった。


 ただ、このまま黙っていれば、また過去に押し戻される気がして。


 


 そのときだった。

 スマートフォンが、短く震えた。


 理沙は一瞬、再び“あの声”かと身構えた。


 けれど表示されたのは――涼真からのメッセージだった。


 


 >【今、そっちどう? 少し時間できたから、顔見に行こうか?】


 


 何でもない文面。


 けれどその一文が、ひどく温かかった。


 


 まるで、彼にはすべてが分かっていたような、そんなタイミングだった。


 理沙は、自分の中で何かが緩むのを感じた。


 


 ほんの数分前、冷たい声が心を揺さぶった。

 “人間ではない”と、また誰かに告げられた。


 けれど。


 それでも。


「……私は、今ここに生きてる」


 


 理沙は、小さく息を吐いたあと、返信を打った。


 


 >【今は大丈夫。でも、夜に少しだけ会えたら嬉しい。】


 


 すぐに既読がつき、

 間もなく返信が返ってくる。


 


 >【うん、分かった。無理はしないで。会えるの楽しみにしてる】


 


 その言葉に、理沙は思わず微笑んだ。


 さっきまで凍りついていた感情が、

 じんわりと体温を取り戻していく。


 


 “過去”と“未来”の狭間に立たされる今。


 それでも、誰かがそばにいてくれるなら。


 


「……ちゃんと、話そう。今度は私から」


 


 言葉にすることは、怖い。

 でも、もう一度誰かと生きるためには、逃げたくない。


 


 窓の外では、空がゆっくりと雲間を明けていた。


 その先にあるのは、まだ不確かな“明日”。


 けれど理沙は、もう視線をそらさない。


 


 たとえ“冷たい過去”がまた手を伸ばしてきたとしても――

 彼女の手は、もう誰かのぬくもりを知っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ