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第6話 兄、妹を助ける──阿吽の呼吸

ある日の放課後。


部活終わり、着替えを済ませた俺は、

昇降口で待っている妹・紗良を見つけた。


けれど──その周りには、数人の男女が集まっていた。


「なに調子乗ってんの? 母親が元アイドルだからってさぁ」


「あーわかるー。別に紗良ちゃん本人がすごいわけじゃないのにね」


嫌味まじりの言葉が、ぽつぽつと飛び交う。


(……っ)


心臓がバクバクする。


でも、足は自然と動いていた。


紗良は、にこりともせず、淡々と相手を見ていた。


中身がおっさん──つまり前世の人格のせいで、

理屈では反論できても、女子中学生として「どう対応するべきか」を、

今まさに悩んでいる、そんな表情だった。


(……紗良)


ほんの一瞬、目が合う。


そこで──理解した。


俺は、迷わず一歩前に出た。


「──何してんだ、お前ら」


静かな、けれどはっきりした声で言った。


絡んでいた男女たちは、一瞬ギョッとして振り返った。


「いや、別に……」


「ちょっと話してただけだし」


そんな言い訳を口にしながら、じりじりと後ずさる。


俺は、淡々と続けた。


「ここ、邪魔だから。どいてくれる?」


落ち着いた声。


威圧はしない。

怒鳴りもしない。


ただ、絶対に引かないという意思だけを、

まっすぐにぶつけた。


すると──


絡んでいた連中は、バツが悪そうに顔をそらしながら、

ぱらぱらと散っていった。


(……ふぅ)


内心、手汗びっしょりだったけど、

とにかく、役目は果たした。


 



 


紗良が、ぽつりと呟いた。


「ありがと、奏人」


特別なお礼も、感謝も、求めているわけじゃない。


ただ、俺たちは目を合わせただけで──

自然と、心が通じ合った。


前世で特別な絆があったわけじゃない。

そもそも、互いの存在すら知らなかった。


でも。



同じく、一度人生を失い、後悔を抱えて、

それでももう一度立ち上がろうとしている者同士。


だから、わかる。


──この瞬間、俺たちは同じ方向を向いているんだ、って。


紗良は、ほんの少しだけ肩の力を抜いて、

ふっと、小さく微笑んだ。


それを見て、俺も微かに口元を緩める。


言葉はいらない。

この阿吽の呼吸だけで、十分だった。


 





──そして。


少し離れた場所で、春日井澪かすがい みおが、

そっとその光景を見つめていた。


澪の表情は、どこか嬉しそうで、

どこか寂しそうだった。


(……奏人くん、すごいな)


そんな風に心の中で呟きながら、

澪は静かに、駅へ向かって歩き出した。


(いつか、ちゃんと隣に並べたらいいな──)


澪の小さな決意を、まだ俺たちは知らない。

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