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第18話 地域の収穫祭、紗良は全国区へ

秋晴れの昼下がり。


地元の広場では、「収穫祭」と称したイベントが開催されていた。


フリーマーケット。

農家直送の格安野菜販売。

手作り雑貨の店。


屋台からは、焼きそばや唐揚げの匂いが漂ってきて、

子どもたちの笑い声があちこちから聞こえてくる。


(──いい雰囲気だな)


俺、天城奏人あまぎ かなとは、

父と並んで会場を歩きながら、そんなことを思っていた。

 

今日の一番の目玉は、なんといっても──



「天城紗良+元トップアイドルメンバーによるスペシャルステージ」



夏祭りで味をしめたのか、

母・美咲は現役時代のグループ仲間だった二人を誘い、

紗良を加えた四人で出演申し込みをしていた。


現場の混乱を懸念した実行委員会は、

「観覧費無料 市民限定の事前抽選制」という形に切り替えた。


倍率は──100倍とも、200倍とも噂されていた。


もちろん、俺と父は"家族枠"でチケットを確保できたけど。


(ありがたいけど……すごいな、ほんと)


 



 


ステージ開始30分前。


紗良たちは、簡単な音合わせとリハーサルを済ませ、

舞台裏でスタンバイしていた。


一方、俺と父は観客席に陣取った。


父は、すでにハチマキまで巻いて、

テンションマックスだった。


「っしゃあああ!! 今日も全力応援だ!!」


(お前、毎日家で顔合わせてるだろ……)


思わず心の中でツッコミを入れた。


けど、まあ、そんな父のハイテンションも、

今日だけは許してやろうと思った。


だって──今日の紗良は、違ったから。


軽快なイントロが流れ、

司会者の紹介を受けながら、紗良たち四人がステージに現れた。


会場から、割れんばかりの歓声。


母・美咲に、元メンバーたち──

そして、その中で紗良は、まったく引けを取っていなかった。


 


白いシャツにデニムのシンプルな衣装。

それだけなのに、堂々とした立ち姿。


(──すげぇ)


心の底から、そう思った。


あの夏祭りとは比べ物にならない完成度。

動きに無駄がなく、表情にも余裕がある。


一曲目、二曲目と、

テンポよくダンスナンバーが続く。


そして──


三曲目のラスト。


紗良は、ステージの中央に一歩進み出た。


マイクを持ち、観客席をまっすぐ見つめる。


そして、力強く、

けれどどこか温かい声で歌い出した。


それは、前世ではパッとしなかった人生を、

今世で──本気で変えようとしている、

そんな魂の叫びに聞こえた。


(……本気なんだな)


汗を飛ばしながら踊り、

声を枯らしながら歌い、

目の前の一人ひとりに届けるように、紗良はパフォーマンスを続けた。


紗良自身が、

今ここに生きていることを、

全力で証明していた。


20分間のステージが、

夢みたいなスピードで過ぎていった。


最後の決めポーズを取った瞬間、

会場中から、雷のような拍手と歓声が巻き起こった。


父は、全力で拍手しながら、

「ブラボー!!」と叫んでいた。


(……マジで、自分の妻に恥ずかしげもなく……)


心の中で、またツッコミながらも──

俺も、全力で手を叩いた。

 





だが、驚くのはここからだった。


どうやら、どこかから話が広まったらしい。


全国ネットのテレビ局まで取材に来ていたのだ。


夕方のニュース。


「地域の収穫祭に、かつてのトップアイドルと奇跡の新星登場!」


そんな見出しと共に、

紗良たちのステージの様子が、全国に流れた。


SNSでも、即座にバズった。


「天才すぎる中学生」「可愛すぎる親子」「奇跡の血筋」


そんなタグが並び、

拡散に拡散を重ね──


一晩で、紗良は"地元のスター"から、

"全国区の注目株"へと変わってしまった。


翌朝、スマホを開いた俺は、

思わず、固まった。


(……すげぇけど……なんか、遠いな)


誇らしさと、

ほんの少しの寂しさ。


二つの感情が、心の中で交錯した。


(──でも、いいよな)


紗良が、本気で輝く道を見つけたなら。


きっと、俺も負けていられない。


そんなことを思いながら、

スマホの画面をそっと閉じた。

 




 


全国ネットのニュースで取り上げられ、

SNSでもバズりまくった翌日。


家の中は──


思った以上に、平常運転だった。


紗良は、リビングで鼻歌を歌いながら

アイス片手にゴロゴロしていた。


「ら〜ら〜ら〜♪ アイスうま〜い♪」


(……お前、昨日スター扱いされてた自覚ある?)


突っ込みたくなるけど、

その無邪気さが紗良らしいとも思った。


母・美咲も、興奮冷めやらぬ様子で、

ソファに座りながらスマホをスクロールしていた。


「ほら、ほら奏人くん!

“奇跡の美少女親子デュオ!”だって!」


目を輝かせながら画面を見せてくる母。


(……母さんも結構ノリノリじゃねーか)

 


そして、極めつけは──父。



「俺、ネットでバズってるっぽい」


得意げな顔でスマホを見せてきた。


画面には──


【謎のガチ応援おじさん】

【あのブラボー親父は何者!?】



そんな記事が、拡散されまくっていた。

 

「いや、なんで父さんまでバズってんだよ!!」


思わずツッコミを入れる。


「いいだろ! 家族が有名になるってのはこういうことだ!」


「いや、違うだろ……!」


家族全員が妙な方向にテンション高い中──


それでも、

なんだかんだ、温かい空気が流れていた。


紗良はスターになっても、紗良のままで。


母は相変わらず、世界一マイペースで。


父は……まぁ、うるさいけど、どこまでも家族思いで。


この家族の中で育っていることを、

改めて、心から誇りに思った。


(……よし、俺も負けてらんねぇな)


心の奥で、そっと拳を握った。

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