第18話 地域の収穫祭、紗良は全国区へ
秋晴れの昼下がり。
地元の広場では、「収穫祭」と称したイベントが開催されていた。
フリーマーケット。
農家直送の格安野菜販売。
手作り雑貨の店。
屋台からは、焼きそばや唐揚げの匂いが漂ってきて、
子どもたちの笑い声があちこちから聞こえてくる。
(──いい雰囲気だな)
俺、天城奏人は、
父と並んで会場を歩きながら、そんなことを思っていた。
今日の一番の目玉は、なんといっても──
「天城紗良+元トップアイドルメンバーによるスペシャルステージ」
夏祭りで味をしめたのか、
母・美咲は現役時代のグループ仲間だった二人を誘い、
紗良を加えた四人で出演申し込みをしていた。
現場の混乱を懸念した実行委員会は、
「観覧費無料 市民限定の事前抽選制」という形に切り替えた。
倍率は──100倍とも、200倍とも噂されていた。
もちろん、俺と父は"家族枠"でチケットを確保できたけど。
(ありがたいけど……すごいな、ほんと)
◇
ステージ開始30分前。
紗良たちは、簡単な音合わせとリハーサルを済ませ、
舞台裏でスタンバイしていた。
一方、俺と父は観客席に陣取った。
父は、すでにハチマキまで巻いて、
テンションマックスだった。
「っしゃあああ!! 今日も全力応援だ!!」
(お前、毎日家で顔合わせてるだろ……)
思わず心の中でツッコミを入れた。
けど、まあ、そんな父のハイテンションも、
今日だけは許してやろうと思った。
だって──今日の紗良は、違ったから。
軽快なイントロが流れ、
司会者の紹介を受けながら、紗良たち四人がステージに現れた。
会場から、割れんばかりの歓声。
母・美咲に、元メンバーたち──
そして、その中で紗良は、まったく引けを取っていなかった。
白いシャツにデニムのシンプルな衣装。
それだけなのに、堂々とした立ち姿。
(──すげぇ)
心の底から、そう思った。
あの夏祭りとは比べ物にならない完成度。
動きに無駄がなく、表情にも余裕がある。
一曲目、二曲目と、
テンポよくダンスナンバーが続く。
そして──
三曲目のラスト。
紗良は、ステージの中央に一歩進み出た。
マイクを持ち、観客席をまっすぐ見つめる。
そして、力強く、
けれどどこか温かい声で歌い出した。
それは、前世ではパッとしなかった人生を、
今世で──本気で変えようとしている、
そんな魂の叫びに聞こえた。
(……本気なんだな)
汗を飛ばしながら踊り、
声を枯らしながら歌い、
目の前の一人ひとりに届けるように、紗良はパフォーマンスを続けた。
紗良自身が、
今ここに生きていることを、
全力で証明していた。
20分間のステージが、
夢みたいなスピードで過ぎていった。
最後の決めポーズを取った瞬間、
会場中から、雷のような拍手と歓声が巻き起こった。
父は、全力で拍手しながら、
「ブラボー!!」と叫んでいた。
(……マジで、自分の妻に恥ずかしげもなく……)
心の中で、またツッコミながらも──
俺も、全力で手を叩いた。
◇
だが、驚くのはここからだった。
どうやら、どこかから話が広まったらしい。
全国ネットのテレビ局まで取材に来ていたのだ。
夕方のニュース。
「地域の収穫祭に、かつてのトップアイドルと奇跡の新星登場!」
そんな見出しと共に、
紗良たちのステージの様子が、全国に流れた。
SNSでも、即座にバズった。
「天才すぎる中学生」「可愛すぎる親子」「奇跡の血筋」
そんなタグが並び、
拡散に拡散を重ね──
一晩で、紗良は"地元のスター"から、
"全国区の注目株"へと変わってしまった。
翌朝、スマホを開いた俺は、
思わず、固まった。
(……すげぇけど……なんか、遠いな)
誇らしさと、
ほんの少しの寂しさ。
二つの感情が、心の中で交錯した。
(──でも、いいよな)
紗良が、本気で輝く道を見つけたなら。
きっと、俺も負けていられない。
そんなことを思いながら、
スマホの画面をそっと閉じた。
◇
全国ネットのニュースで取り上げられ、
SNSでもバズりまくった翌日。
家の中は──
思った以上に、平常運転だった。
紗良は、リビングで鼻歌を歌いながら
アイス片手にゴロゴロしていた。
「ら〜ら〜ら〜♪ アイスうま〜い♪」
(……お前、昨日スター扱いされてた自覚ある?)
突っ込みたくなるけど、
その無邪気さが紗良らしいとも思った。
母・美咲も、興奮冷めやらぬ様子で、
ソファに座りながらスマホをスクロールしていた。
「ほら、ほら奏人くん!
“奇跡の美少女親子デュオ!”だって!」
目を輝かせながら画面を見せてくる母。
(……母さんも結構ノリノリじゃねーか)
そして、極めつけは──父。
「俺、ネットでバズってるっぽい」
得意げな顔でスマホを見せてきた。
画面には──
【謎のガチ応援おじさん】
【あのブラボー親父は何者!?】
そんな記事が、拡散されまくっていた。
「いや、なんで父さんまでバズってんだよ!!」
思わずツッコミを入れる。
「いいだろ! 家族が有名になるってのはこういうことだ!」
「いや、違うだろ……!」
家族全員が妙な方向にテンション高い中──
それでも、
なんだかんだ、温かい空気が流れていた。
紗良はスターになっても、紗良のままで。
母は相変わらず、世界一マイペースで。
父は……まぁ、うるさいけど、どこまでも家族思いで。
この家族の中で育っていることを、
改めて、心から誇りに思った。
(……よし、俺も負けてらんねぇな)
心の奥で、そっと拳を握った。




