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第11話 期末テストで澪と急接近

六月、梅雨入り直前。

教室には、どんよりとした空気が流れていた。


 


──期末テスト、一週間前。




クラスメイトたちが、

「ヤベェ」「マジ無理」と騒ぎながらプリントにかじりついている中──


俺、天城奏人あまぎ かなとは、

わりと余裕だった。


(……まぁ、これくらいなら大丈夫だろ)


前世、大学まで行っていたからな。


記憶の片隅に、基本的な知識はしっかり残ってる。


特に中学範囲の英語・数学あたりは、

ノー勉でもそこそこいける自信があった。


でも──


(……全力で上位取ると悪目立ちするしな)


陸上でも、すでに少し目立ち始めてる。

さらに成績までぶっちぎったら、

いろいろ面倒くさいことになりそうだ。


だから。


目標は「上の下」。


上位には入るけど、絶対にトップには立たない。


バレない程度に、全力をセーブする。

これが、転生二回目の処世術ってやつだ。



 


一方、妹・紗良。


こいつは、ノーセーブだった。


「勉強って楽しいよね!」


目をキラッキラさせながら、

分厚い参考書をめくっている。


中身は中間管理職歴ありのおっさんだというのに、

「学生生活」を本気で謳歌していた。


 


結果──


 


期末テスト、学年1位。


ぶっちぎりで。


(……すげぇな、おい)


才能も努力も両方揃った天才少女(中身おっさん)が、

完全無欠の成績表を叩き出した。


クラスメイトたちも、

「やっぱ紗良ちゃんすごい!」

「天才すぎ!」

と、素直に尊敬していた。


まぁ、性格がサバサバしてるから、

妬まれないのも紗良の得なところだ。

 




そんな中──


「奏人くん、あの、お願いがあるんだけど……」


ある日の放課後、

澪が、おそるおそる声をかけてきた。



「な、なに?」


「……勉強、教えてほしいなって」



──来た。


心の中で、ガッツポーズ。


(これ……チャンスじゃね!?)


澪ともっと仲良くなれる。

それも自然な流れで。


「もちろん、いいよ」


できるだけさりげなく、

ドヤ顔を隠しながら答える。


澪は、ぱっと顔を輝かせた。


「ありがとう、奏人くん!」

 

その笑顔だけで、

「今回だけは本気でやるか」って、

心から思えた。


──そして、週末。


俺と澪は、近所の図書館で待ち合わせして、

一緒に勉強することになった。


「ここの公式、どう使うんだっけ?」


「うん、ここはね──」


澪は、わからないところがあれば素直に聞いてきて、

教えれば素直に「ありがとう!」と笑ってくれる。


そんなやり取りを繰り返すうちに、

不思議とこっちまでやる気が湧いてきた。


(……こういうの、悪くないな)


前世では、誰かに何かを教える機会なんてほぼなかった。

そもそも、誰かと真剣に向き合うことすらなかった。


でも、今は違う。


今世の俺は──


ちゃんと誰かと向き合えている。


そんな実感が、じんわりと胸に広がった。

 




勉強が一段落したあと。


澪は、参考書を閉じながら、

ふっと小さくため息をついた。


「……奏人くんって、なんでもできるんだね」


「そ、そんなことないって!」


思わず、焦って否定する。


(だって、俺はまだ……全然、普通だ)


でも、澪はにこっと微笑んだ。



「私ね、奏人くんが頑張ってるの、ちゃんと見てたよ」



──その一言で。


胸の奥が、きゅっと締めつけられるような気持ちになった。


誰にも気づかれなくてもいいと思ってた。


努力なんて、見せびらかすものじゃないって思ってた。


でも。


誰かが見ていてくれるって、

こんなにも嬉しいんだなって、初めて知った。

 

「……サンキュ」


小さな声で、そう答えた。


 



 


帰り道、夕暮れの中を並んで歩きながら。


俺は、心の中でそっと誓った。


(次のテストは、ちゃんと頑張ろう)


(陸上も、勉強も──そして、澪との距離も)


少しずつでも、前に進んでいこう。


前世の自分にはできなかったことを、

今世の俺が、一つずつ叶えていくために。

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