第11話 期末テストで澪と急接近
六月、梅雨入り直前。
教室には、どんよりとした空気が流れていた。
──期末テスト、一週間前。
クラスメイトたちが、
「ヤベェ」「マジ無理」と騒ぎながらプリントにかじりついている中──
俺、天城奏人は、
わりと余裕だった。
(……まぁ、これくらいなら大丈夫だろ)
前世、大学まで行っていたからな。
記憶の片隅に、基本的な知識はしっかり残ってる。
特に中学範囲の英語・数学あたりは、
ノー勉でもそこそこいける自信があった。
でも──
(……全力で上位取ると悪目立ちするしな)
陸上でも、すでに少し目立ち始めてる。
さらに成績までぶっちぎったら、
いろいろ面倒くさいことになりそうだ。
だから。
目標は「上の下」。
上位には入るけど、絶対にトップには立たない。
バレない程度に、全力をセーブする。
これが、転生二回目の処世術ってやつだ。
◇
一方、妹・紗良。
こいつは、ノーセーブだった。
「勉強って楽しいよね!」
目をキラッキラさせながら、
分厚い参考書をめくっている。
中身は中間管理職歴ありのおっさんだというのに、
「学生生活」を本気で謳歌していた。
結果──
期末テスト、学年1位。
ぶっちぎりで。
(……すげぇな、おい)
才能も努力も両方揃った天才少女(中身おっさん)が、
完全無欠の成績表を叩き出した。
クラスメイトたちも、
「やっぱ紗良ちゃんすごい!」
「天才すぎ!」
と、素直に尊敬していた。
まぁ、性格がサバサバしてるから、
妬まれないのも紗良の得なところだ。
◇
そんな中──
「奏人くん、あの、お願いがあるんだけど……」
ある日の放課後、
澪が、おそるおそる声をかけてきた。
「な、なに?」
「……勉強、教えてほしいなって」
──来た。
心の中で、ガッツポーズ。
(これ……チャンスじゃね!?)
澪ともっと仲良くなれる。
それも自然な流れで。
「もちろん、いいよ」
できるだけさりげなく、
ドヤ顔を隠しながら答える。
澪は、ぱっと顔を輝かせた。
「ありがとう、奏人くん!」
その笑顔だけで、
「今回だけは本気でやるか」って、
心から思えた。
──そして、週末。
俺と澪は、近所の図書館で待ち合わせして、
一緒に勉強することになった。
「ここの公式、どう使うんだっけ?」
「うん、ここはね──」
澪は、わからないところがあれば素直に聞いてきて、
教えれば素直に「ありがとう!」と笑ってくれる。
そんなやり取りを繰り返すうちに、
不思議とこっちまでやる気が湧いてきた。
(……こういうの、悪くないな)
前世では、誰かに何かを教える機会なんてほぼなかった。
そもそも、誰かと真剣に向き合うことすらなかった。
でも、今は違う。
今世の俺は──
ちゃんと誰かと向き合えている。
そんな実感が、じんわりと胸に広がった。
◇
勉強が一段落したあと。
澪は、参考書を閉じながら、
ふっと小さくため息をついた。
「……奏人くんって、なんでもできるんだね」
「そ、そんなことないって!」
思わず、焦って否定する。
(だって、俺はまだ……全然、普通だ)
でも、澪はにこっと微笑んだ。
「私ね、奏人くんが頑張ってるの、ちゃんと見てたよ」
──その一言で。
胸の奥が、きゅっと締めつけられるような気持ちになった。
誰にも気づかれなくてもいいと思ってた。
努力なんて、見せびらかすものじゃないって思ってた。
でも。
誰かが見ていてくれるって、
こんなにも嬉しいんだなって、初めて知った。
「……サンキュ」
小さな声で、そう答えた。
◇
帰り道、夕暮れの中を並んで歩きながら。
俺は、心の中でそっと誓った。
(次のテストは、ちゃんと頑張ろう)
(陸上も、勉強も──そして、澪との距離も)
少しずつでも、前に進んでいこう。
前世の自分にはできなかったことを、
今世の俺が、一つずつ叶えていくために。




