第10話 兄、妹はおっさん疑惑を口滑らす
六月中旬、期末テスト直前の微妙な時期。
クラスは、勉強に飽きた生徒たちの雑談でにぎわっていた。
俺も、珍しく男子たちに混ざってしゃべっていた。
「いやー、紗良ちゃんマジ天才だよなー」
「可愛いし、成績いいし、運動できるし、無敵じゃね?」
隣の席の近藤圭吾が、感心したように言った。
「確かに、紗良ちゃんって隙ないよねー」
女子たちも、割と素直に認めている様子。
(まぁ、実際すげぇからな)
そんな中、ふと、俺の口からポロッと出た。
「──ま、中身おっさんだからな」
──静寂。
一瞬、空気が止まった。
次の瞬間──
「「「ぶははははは!!」」」
教室中、大爆笑。
「中身おっさんって何それwww」
「いやわかるわ、たまに妙に達観してるときある!」
「紗良ちゃん、リアルで"人生二周目"説あるな!」
男子も女子も、涙を流して笑っている。
当の紗良はというと──
「……まぁ、否定はしないけどね?」
苦笑いしながら肩をすくめた。
(ご、ごめん……!)
内心、全力で土下座したかった。
でも、紗良は意外と冷静だった。
「おっさんでも、優秀なら問題ないっしょ?」
さらりと言ってのけるあたり、
やっぱりただ者じゃない。
とはいえ。
放課後、帰り道で。
「……奏人」
紗良がじとっとした目で俺を見た。
「今度から、"おっさん"って言ったら罰金ね?」
「ええええぇぇっ!!?」
「一回千円で」
「強欲すぎるだろ!!!」
そんなやり取りをしながら、
俺たちは夕陽の中を並んで歩いた。
◇
──ちなみに。
この「紗良=中身おっさん説」は、
この日を境にクラス内で公認設定となった。
本人は苦笑いしつつも、
内心ちょっとだけムキになっていることを、
俺だけはちゃんと知っている。
(……ま、ドンマイ、紗良)
こっそり心の中でフォローしておいた。




