第1話 兄妹、最強の両親の元に生まれる
目を開けた瞬間、白い天井が目に入った。
そしてすぐに、すべてを思い出した。
(……俺、死んだんだっけ)
頭は驚くほどクリアだった。
前世の記憶も、感情も、全部そのまま。
つまり──転生だ。
しかも、意識アリで。
「かなと〜、起きたのねっ」
横を見ると、隣のベッドに座る若い女性が、心底うれしそうに微笑んでいた。
長い黒髪に、奇跡みたいな美貌。
この人が──母親?
一瞬で理解した。
転生先、チートな美人ママ付き。
いや、待て。
ここ、日本じゃねぇか?
慌てて部屋を見回す。
医療機器、ベビーベッド、窓の外に見える平凡な街並み。
ファンタジー要素、ゼロ。
(……マジかよ)
転生といえば、剣と魔法のファンタジー世界だろ!
異世界チート無双、人生イージーモード、そういう展開じゃないのかよ!!
だが、どこをどう見ても、普通の日本だった。
しかも、ステータス画面も、スキルも、謎の声も──何もない。
(あっ、これ、普通に努力しなきゃいけないやつだ)
落胆しながら、俺は静かに現実を受け入れた。
◇
それから数年。
俺、天城奏人は、順調に成長していった。
──で、成長して気づいた。
この家、すげぇ。
父親、天城 蓮。
元オリンピック三連覇の短距離走者。伝説級。
母親、天城 美咲。
元・国民的アイドルグループのセンター。奇跡の美貌を持つ伝説級。
──親ガチャ、SSR確定。
小学校の授業参観では、父兄席に"父親"たちが大集合。
普段、滅多に学校に来ないような厳つい親父たちが、我先にと教室に詰めかけてきた。
目的?
俺たちの勉強を見るため? 違う違う。
教室の後ろに立ってる、奇跡の美貌ママ──つまり、母・美咲を一目見ようと群がってきたのだ。
(うちの親、バケモンかよ)
と、内心思いながら、俺は微妙な居心地の悪さに身を縮めた。
ただし。
天城家の奇跡は、両親だけじゃなかった。
──妹・紗良。
双子の妹。
俺と同い年で、顔もスタイルも、何もかもが完璧な少女だった。
勉強も運動も、最初から天才的。
小学生にして地域のスター。
俺?
「そこそこ優秀」「まぁ、悪くない」「普通にいい子だよね」
そんな微妙なポジションに収まった。
(……何だよ、この差)
劣等感? あるに決まってる。
だって、隣を歩けば自然に比較されるんだ。
しかも、勝ち目ゼロで。
◇
──そして、中学入学。
俺たちは、家から少し離れた私立中学校に進学した。
理由はシンプル。
両親の素性があまり知られていないから。
地元の有名人の子供として扱われるのは、さすがに面倒だった。
同じ小学校から来たのは、ほんの数人だけ。
これなら、新しい環境で、フラットにやれる……はず。
ピカピカの制服を着て、桜並木の下を歩く。
(よし……ここからだ。今度こそ、本気で生きる)
そう、心に誓った。
もちろん、俺が転生者だなんて、誰も気づいていない。
妹の紗良だって、俺と同じ"普通の双子"だと思ってる──はずだった。
──家に帰るまでは。
◇
入学式を無事に終え、クタクタになりながら帰宅した俺は、制服を脱ぎ、リビングに突っ伏した。
(ふー……やっぱ新生活って疲れるな)
しみじみしていると──
「ねぇ、奏人」
ソファに座っていた紗良が、いきなり声をかけてきた。
そして、信じられないことを口にした。
「転生してるでしょ? 知ってたよ」
「──は?」
脳がフリーズする音が聞こえた。
今、何て言った?
転生? 知ってた??
訳が分からず、俺は間抜けな顔で紗良を見た。
妹はにこにこしながら続ける。
「だって、赤ちゃんの頃からバレバレだったもん。
目つきは妙に達観してるし、泣き方も変だし、ミルク飲むときもやたら冷静だったし」
「いや、そんなのでわかるわけ──」
「あと、寝言で『積んだ……』とか言ってたよ?」
「……っ!!」
思い当たる節がありすぎて、ぐうの音も出なかった。
「……もしかして、紗良も?」
声を絞り出すように問うと、紗良は得意げに胸を張った。
「うん。私も、転生者。
前世は、会社で中間管理職やってたおっさんだ!」
「マジかよ!!」
今度は本当に叫んだ。
転生してたの、俺だけじゃなかったのか。
しかも、こんな身近に──双子の妹として──いたなんて。
信じられない。
けど、紗良の笑顔を見ていると、不思議と納得できてしまう。
あいつ、昔からどこか大人びてた。
子どもらしい無邪気さの奥に、別の何かを感じていた。
そうか、そういうことだったのか──!
「じゃあ、俺たち……」
言葉に詰まる俺に、紗良はやさしく微笑んだ。
「うん。二度目の人生だよ。
──だから、ちゃんと生きようね、奏人」
静かな、でも決定的な言葉だった。
胸の奥が、じわっと熱くなる。
前世でできなかったこと。
叶えられなかった夢。
守れなかったもの。
全部、今度こそ。
「……ああ」
強くうなずいた俺は、まだ見ぬ未来に向かって、拳を握りしめた。
──天城奏人、13歳。
普通よりちょっとだけ不器用な転生者。
──天城紗良、13歳。
天才肌のチート級転生者。
この最強(?)兄妹の、新しい学園生活が、いま動き出す!