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希望という名の一本毛『幸子』別れ編

 これを読む前に、前作、希望という名の一本毛幸子を読むとより一層楽しめます。


別れ編『幸子との別れ』


 ここに一人の中学生がいる。彼の名前は頭雅とうが半家はんけ。平均的な身長に平均的な体重、平均的な学校の成績を持ち合わせたごくごく平均的な中学生だ。だが、彼には一つだけ平均的ではない部分があった。それは中学生ですでに頭がつるっぱげという事だった。たった一本の髪の毛を残して……。


カーテンの隙間から光が差し込み、薄暗い部屋を微かに照らす。

「う、う~ん」

 布団の中で、ハゲは背伸びをする。壁に掛けられいる時計は、午前六時半を指している。

ジリリリ、ジリリリと※携帯電話のアラームが鳴る。ハゲは携帯アラームを目覚ましにしていた。


 ※携帯電話のアラーム;作者は一時期、携帯電話の目覚まし機能を萌えボイスで「もう、早く起きないと遅刻するわよ」という恥ずかしいモノにしていた事がある。


 ハゲはゆっくりと布団から起き上がり、洗面台へと向かう。まだ眠たそうな顔をしながら、※歯磨きを始める。


 ※歯磨き:電動ハブラシというモノがあるが、実はあれ、あまり良くないというのを知っていただろうか。自分の手で磨く、これ以上の効果を得られる電動ハブラシは今の所まだ存在していないらしい。ソースは通っている歯医者さん。


 歯磨きを終え、冷たい水で顔を洗い頭皮と同じようにさっぱりとするハゲ。タオルで顔を拭き終え、凛々しい自分の顔を鏡で確認する。と……。

「――え?」

 ハゲは、あるはずのモノが存在していない事に気付いた。

「う、※嘘だっ!!」


 ※嘘だっ!!:某超人気アイドルグループの一人が全裸で暴れて逮捕されたという速報を見た時、私はそう叫んでいた。


 ハゲにとって非現実的な光景。それは、ハゲの頭に存在するはずの一本毛、幸子の不在であった。

「さ、幸子っ!!」

 ハゲは顔面蒼白になりながら、さっきまで寝ていた布団に駆け寄った。

「あ、あぁっ……」

 幸子はいた。まだ買ったばかりの頭皮に良いと噂の薬草枕に力なく縮れて倒れていた。

「い、嫌だっ! 幸子、嘘だよね? ねぇ! 嘘だと言ってよ!」

 幸子を親指と一指し指で摘んで、涙ながらに訴えかけるハゲ。だが、幸子は何も応えない。

「ねぇ……これからじゃないか。これから、僕たちは沢山の思い出を作っていって、それで一緒に

成長して行こうって、そう約束したじゃないかっ! なのに、なのになんでっ! う、うぅっ……」

 幸子を抱きながらハゲは涙を流す。今までの幸子との思い出が走馬灯のように浮かぶ。

「半家ー、さっさと学校に行く支度しなさいよ。遅れるわよ」

 ハゲの母が台所からハゲに声を掛ける。だが、そんな言葉は今のハゲには届かない。届く筈がない。共に生きてきた、愛していた幸子が亡くなってしまったのだから。

「うぅ……」

 ハゲは幸子を手に抱きながら、着替えを済ませ家を出た。学校へ行く為じゃない、愛し続けた幸子を大地に眠らせる為に……。


 ゆっくりと外を歩くハゲ。外は黒い雲で覆われ今にも雨が降りそうな天気だった。

「幸子……、うぅ……、幸子ぉ……」

 涙をぼろぼろと流しながらハゲは、幸子の墓とする場所を探していた。よろよろと今にも死にそうな老人のように歩くハゲの姿はあまりにも無様だった。

「あっ! おまえっ!」

 不意にハゲを呼ぶ声。ハゲがゆっくりと絶望しきった顔を上げると、そこにはいつしか出会った不良三人組がいた。不良達はハゲに近寄ると、真っ先にハゲの頭皮に目を向けた。

「なっ!?」

「えっ!?」

「ま、マジかよ……」

 三人はハゲのハゲにすぐに気付いた。完全なつるっぱげ。髪の毛一本存在しない頭皮。ハゲのシンボルマーク。ハゲの個性。ハゲの生きる道。ハゲの存在価値。ハゲの命。ハゲそのもの。それが消えていた。三人はハゲを哀れむ。そしてそれぞれがハゲの肩を軽く叩いて言葉を掛けた。

「別れる事がなければ出会う事もないんだ。きっとまた出会える。新たなお前のベストフレンドに」

「太陽が輝き続ける限り、希望もまた輝き続けるぜ」

「諦めたらそこで試合終了だぞ」

 三人の不良達は、大きな背中を見せながら颯爽と去っていく。

「うぅ、幸子……」

 だが、ハゲの耳には全く入っていなかった。


 ハゲは良い土のある公園を見つけ、そこに幸子を埋めた。裾で涙を拭い、ハゲは呟いた。

「今までありがとう幸子。僕は……きっと幸子の死を乗り越えてみせるよ。

幸子に誇れる強い男になる。だから、また会おう。さよならっ!」

 ハゲは走り去った。涙を堪えながら。


 頑張れハゲ。強く生きろハゲ。君の明日はきっと明るい。君の頭皮のように。


 その後ハゲは再び幸子と出会い、毛生え薬を完成させノーベル賞を受賞する事になるのだが、それはまた別のお話。

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