表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

さっそくの大チャンス




********




明日香と学校に着いて、いつものように靴を履き替えようと昇降口に来た。その時、朝から昇降口に響き渡る女子の大きな声が聞こえてきた。


「れんれんおはようーー!」


「おはよ」


女子の声に続き、落ち着いたトーンでおはようを返す彼の声が聞こえてきた。その声に、一瞬胸がドキンとする。


(私も言わなきゃ…)


分かっているのに、モタモタしているうちに足音が遠ざかっていく。


「明日香ごめん!先行くね!」


そう言って、彼の後を追いかけた。彼が歩くのが速いのか、私が向かうのが遅かったのか分からないが、彼の姿が見えないほど距離が離れてしまっている。


(追いつかなきゃ…)


必死に後を追いかけて、やっと彼の姿が見える所まで来た。


「黒崎くん!待って!」


勢いのまま言った私の声は、息が切れてほんの少しだけ荒い。


「ん?」


こちらを振り返って不思議そうな顔をしている彼の横まで追いついた私は、緊張を隠すように無理やり明るく言い放った。


「おはよう…!」


私の声を聞いた彼は、さらにわからないといった表情になって言った。


「おはよう。…って、それを言うだけのためにこんなに走ってきたのか?」


(たしかに、おかしいか…)


彼に言われて今更気がついたが、今から後戻りも出来ないと思い仕方なく返す。


「うん、、」


まさか本当に「うん」と返ってくるとは思っていなかったのか、彼は一瞬戸惑ったような表情をしたが、すぐにいつもの表情になった。


「やっぱ星宮って、変な奴だな」


「え?そうかな…」


この言葉をもう何度も聞いた気がするが、とにかく話しかけることができた。それに、さっき彼を呼び止める時に名前を読んで、思わぬ形でミッションを2つもクリアすることができた。


「ま、いいや。早く教室向かおーぜ」


「あ、うん」


私たちはそのまま、廊下を一緒に歩き始めた。


(そういえば私、さっき名前呼んでもらった…!また1つクリアしちゃった!)


そう気づいて、思わずガッツポーズをしてしまいそうになるくらいの気持ちだったが、心の中に留めた。


「……」

「……」


お互い、何も喋ることなく無言の時間になる。


(気まずい!何喋ればいいの!)


朝早くで廊下にはほとんど誰もいない。その時、沈黙を破るように彼が口を開いた。


「今日の1限目ってなんだっけ」


「えっと、国語だったかな」


気まずい空気を誤魔化すため、話を広げようと私も必死に話題を探す。


「そういえば、国語の長谷川先生って、『〜ですなあ』ってよく言うよね」


「あーたしかにクセ強いよな」


彼が私の話に共感してくれたので、ここからさらに話を広げようと頭をフル回転させるが、頭が真っ白になって何も出てこない。


「今日は皆さん眠たそうですなあ〜。 どう?似てる?」


「あははっ!すごい、似てる!」


彼がいきなり先生のものまねを始めて、そのクオリティに思わず大きな声をたてて笑った。私の大きな笑い声が、人気のない静かな廊下に響き渡る。


「そんなに似てたか?」


彼も、私につられてゲラゲラと笑っている。

その時、ある人の声が私たちの耳に入ってきた。


「朝からそんな騒いで元気ですなあ〜。職員室まで笑い声が響いていましたけど。黒崎君と星宮さん、おはようございます〜」


職員室の横を通っていると、中から突然長谷川先生が目の前に現れた。


「お、おはようございます!」

「あ、おはようございます!」


突然の先生に動揺しながらも、2人で元気に挨拶を返す。先生は何事も無かったように去っていった。



「あっぶね〜、こんなタイミングで来ることあるかよ」


「噂をすれば…だね、多分聞こえてなかったはず」



2人でほっと胸を撫で下ろす。そう話しているうちに、あっという間に教室に着いた。教室には、まだ誰も来ていない。


「黒崎くん、いつもこんな朝早くに登校してるの?」


「ん、まあな。家いてもする事ないし」


それぞれ、自分の席へ向かいながら話を続ける。


「すごいなあー。私は朝起きるの苦手だから、こんな時間に学校きたの初めてだよ」


彼と話すことへの緊張感が少しづつ薄れていき、自然に会話が出来ている。


「昨日もギリギリだったもんな」


「昨日は寝坊しちゃって…」


私はうつむきながら言った。


「まあ、遅刻さえしなかったら大丈夫だろ」


そう言いながら席に着いて荷物の整理をしている彼の横顔に、うっとり見入ってしまう。



「ん?どうかした?」


「あーううん!何でもない!」



彼がいきなりこちらを向いてきたので、慌てて視線を逸らした。



「蓮おはよーー、相変わらず今日も早いなー」


彼の隣の席の、林君が教室に入ってきた。


「おはよー、昨日欠席してたけど大丈夫だったか?」


「あー昨日はちょっと体調悪かっただけだからもう大丈夫」


「そっか、ならよかった」


2人が会話を始め出して、私との会話が自然に途絶えた。


「はい、これ昨日の分のノート。とっといたから写していいよ」


「おーーさんきゅ!助かるーーさすが蓮!」


彼の気遣いが見えて、また1つ彼の魅力を実感する。

そうしているうちに、他のクラスメイト達が続々と登校してきた。私はバッグから画用紙を取り出して、ミッションのチェック欄に3つチェックをつけた。


(とりあえず、もう3つもクリア出来ちゃったし今日はご褒美におやつでも買ってかろうかな!)


そんなことを考えていると、8時30分のチャイムがなった。


「みんなおはようーー、今日は欠席いるかー?」


よく通った声を出しながら、山本先生が入ってきた。


「あれ、夢咲は今日も欠席かー」


先生が教室を見渡しながら言った。


(ほんとだ、今日も鈴華きてない…)


鈴華の席を横目で確認して、少し心配になる。


(ん…?黒崎くん、今鈴華の席見た…?)


気のせいかもしれないが、一瞬、彼が鈴華の席をチラッと見たように見えた。


「じゃあみんな、授業の準備始めて今日も頑張ろうなー」


そう言って、山本先生が教室を出ていった。




********




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ