突然のメッセージ
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学校が終わって、家に帰った。黒崎蓮に助けられて以降の授業は、気が散ってしまっていたのか、なんだかあっという間に終わったような気がした。というよりも、学校自体があっという間に終わってしまったような…
「ただいまー」
玄関のドアを閉め、靴を脱いだ。
「おかえり結衣ーー」
お母さんの声が、キッチンの方から聞こえた。夕飯を作っているのだろう。
「はぁ…」
リビングに入る前に、ため息をついた。お母さんの前でこんなに大きなため息をつくと、過保護なお母さんは心配して色々聞いてくるに決まっているからだ。私は、今日一日中ずっと上の空であったことの原因が彼であるという事実に気づきたくなかったのだ。しかし、それは紛れもない事実だった。私は、成績優秀な明日香とは違って、やっとの思いで南ヶ丘高校に入学した。ただでさえ去年は単位がギリギリだったというのに、初日から授業を寝てしまうなんて、私は何をしているんだろう。
「あれ、結衣そんなところで何してるの?早く入りなさい」
中々リビングに来ない私を心配して、お母さんがドアを開けて見に来た。
「あ、いい匂いがするから今日の晩御飯はなんだろうって考えてたの。今入ろうと思ってた」
咄嗟によく分からない言い訳をしてしまったが、お母さんは何も気にしている様子はない。
「夕飯、7時くらいにはできるからね」
「うん、わかった」
時計を見ると、もう6時前だった。考え事をして、ぼーっと帰っていたら遅い時間になってしまった。
(とりあえず、今日の授業の復習しなきゃ)
そう決めると、手を洗って、自分の部屋に向かった。
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「はあーー疲れた…」
私は、部屋に入るなりベッドに倒れ込んでしまった。今日は久しぶりの学校というのもあって、すごく疲れてしまったからだ。
「うぅ…眠い……けど、復習しなきゃ……」
そんなことを呟きながら、机に今日の授業のノートを開いた。
『ピロン♪』
シャーペンを手に取った瞬間、インスタの通知音が鳴った。なんだろう?スマホを開いてみると、見覚えのないアカウントからフォローリクエストが送られている。とりあえず、アカウントを開いた。
「誰だろう……kurosaki…黒崎蓮!?」
スマホの画面には、ローマ字でたしかにそう書いてあった。
「どうして?どうして私にフォロー送ってきてるの!?」
私は、小声でそう叫んだ。近所迷惑になるから、大声を出してはいけない。無意識にそれを実行できてはいるものの、私の頭の中は、かなりパニックになっていた。
一旦、冷静になるため深呼吸をした。
「フゥーーー・・・」
何度か繰り返し、少しずつ興奮が収まってきた。冷静に考えると、そんなに驚くことでもないような気がしてきた。私たち、同じクラスになったんだし。
「フォロー、返しちゃっていいんだよね」
不安を残しながら、緊張する指先でフォローリクエストを承認した。
「よし!」
私は自分で自分の頬を叩いた。また、こんなことに気を取られている場合ではない。私は、今から授業の復習をしようとしていたんだった。
(お母さんが晩御飯を作り終える前に、早く復習終わらせなきゃ)
そう思って、再びシャーペンを手に取った。
『ピロン♪』
ペンを持つやいなやまた通知音が鳴った。
「今度はなに…」
せっかく気持ちを切り替えた所だというのに、また気が散ってしまった。私は少しイライラしながらまた携帯の画面に目を向けた。
「えっ…!!?」
驚きすぎて、思わず大きな声を出してしまった。
『星宮だよな?』
何度目を擦っても、間違いなくそう書いてある。彼からメッセージが来たのだ。彼からメッセージが来たという事だけでも驚くのに、どうして私の名前を知っているのだろう。私とは一切面識がなかったはずだ。
「なんて返信しよう…」
嬉しくて、早く返信したい気持ちと、緊張して中々返そうとは思えない気持ちに挟まれながら、とりあえず返信画面を開いた。
「はい、でいいのかな。いや、同級生なのに敬語も変だし、うん、の方が良いのかな…」
打っては消してを一人で何度も繰り返し、時計を見たらもう6時半になっていた。
「やばいやばい!私ひとつ返信するのにどんだけ時間かかってんの!」
時間を無駄にしてしまった焦りとイライラで、ひたすら画面をポチポチタップしまくっていたら、誤って送信ボタンを押してしまった。
『うん、星宮です』
初対面なのにいきなりタメ口を使うのもどうかと思ったが、同級生なのに敬語を使うのも変だと思って、迷っている途中の変な文章を送ってしまった。最悪だ。
「やばい!とりあえず早く送信取り消ししなきゃ!」
慌てて取り消そうとしたが、見た時には既に既読になってしまっていた。
「どうしよう!絶対変な人って思われたよね…」
スマホの画面を確認したが、既読になっているのに、まだ彼からの返信はない。きっと、おかしな人だと思われたに違いない。
「はぁ…もう最悪…」
私はがっくり肩を落とした。
「でも…済んだことは仕方ないし、今度こそ復習に戻らなきゃ」
本当は、ショックな気持ちでいっぱいだったが、このまま落ち込んでいる訳にもいかないため、無理やり気持ちを切り替えて再びシャーペンを握った。
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