1.息子が魔王?!
「危ない!!」
長男にすごい勢いで向かっていくトラックを目の端に捉えて我を忘れて走り出した。
長男を右腕で思いっきり突き飛ばしたその瞬間目の前が真っ白になり何も考えられなくなった………
「………いたく…ない…」
ふと目を覚ますと天井が明るくぼぉっと白く光っていた。
ゆっくり体を起こすとトラックに衝突したはずなのに一切痛みがない。
周りを見渡しても天井も床も一面白く少し光っていて明るいがここはどこなのか見当がつかなかった
「…は!京斗!!」
抱っこ紐で抱いていた四男を探すといない。
どこ?!と周りを見渡してもどこまでも真っ白な空間が広がっていて自分一人他の気配がまるでなかった。
「はーい、息子ちゃんはこっちで寝てるわよぉ〜」
突然背後から声をかけられ驚いて振り向くと、さっきまで何もなかったところに白いテーブルと椅子、大きめなベビーベッドが突然現れた
白い椅子には白に近いプラチナブランドが胸元ぐらいまでのさらっとしたストレートヘアに、宝石のような金眼を髪の色と同じ色で長いまつ毛に縁取られた瞳、目鼻立ちのバランスはとても良く一目見るだけで美人なことがわかるが、何かこの世のものではないような綺麗さに思わずゾクッとしてしまう。
「……あの…」
びっくりしすぎて言葉が出てこない私に気がついた彼女が
「あら?びっくりしちゃったぁ?とりあえず息子ちゃんはここでスヤスヤよく寝てるわよ〜」
「え?!京斗!!」
急いで立ち上がり若干ふらつきながらもベビーベッドに走る。
中を覗き込むと指をしゃぶりながらすやすやと眠る我が子がいた。頬に涙の跡がうっすらあり泣きつかれたのであろうことがわかる。
ほっと安心に胸を撫で下ろす。
「泣き疲れて眠っちゃったみたい、まだ起きそうもないしあなたはこちらで座ってお茶でもどう?」
さっきの綺麗な女性がとても澄んだ優しい声で椅子に座るよう促す。
さっきまで何もなかったはずのテーブルには温かい紅茶と美味しそうなお茶菓子まで用意されてる。
「え?!いつのまに?!」
「まあまあ!いいから座って座って〜」
意外と力強いなと思いながら女性に肩を押されながら席に座る。
「はい!どうぞー落ち着くわよ〜」
「あ、ありがとうございます。」
渡されたカップには花の香りのする温かい紅茶が入っていて一口飲むと一気に安堵の息が漏れる。
「……晃介…晃介!長男は?!ここにいるんですか?!」
そうだ突き飛ばしはしたから大丈夫だったと思うけど、でも絶対怪我はしているはず。
「あーあの男の子ね。生きてはいるわ!大丈夫!でもちょーーっと面倒なことになっちゃっててね。」
そう綺麗な顔が困ったような表情になり目を泳がせる
「生きてはいる?じゃあ無事なんですね…良かった、今どこにいるんですか?」
「ちょ、ちょっとまって!まず自己紹介させて!それと今のあなたの現状の話とか色々するから!まずは黙ってお話を聞いてちょうだい。紅茶でも飲みながらね!」
「あ、はい。すみません。いただきます…」
よし、と女性は軽く頷くと咳払いして話し始めた。
「まず、……僕は神です。」
「………神?!え?僕??え?男性??…え、で神様?!」
「落ち着いてー、そうよー神であり性別を言うなら男性よぉ〜。まぁ僕は綺麗すぎるから間違えるのはしょうがないけどぉ!」
と頬を赤らめながら誇らしげに話し始めたが、いや、口調がという言葉は言わない方がいい気がして飲み込んだ。
「なにかしら?なんか言いたそうだけど…まぁいいわ!とりあえず長男くんは今別のとこにいてね、これがちょーっと面倒なところなのよねぇ。」
「……どういうことですか?」
「んーっとねぇ」
神様は困った顔をしながら分かりやすく説明をしてくれた。
時の精霊の悪戯で本来私達はあの事故に遭うはずではなかった為、神様が拾い上げて事故が起こる前の時間軸に戻そうとした。
私と四男は神様が回収出来たが長男だけ時の精霊の悪戯で、ある世界のある場所に落とされてしまったと。
そこは魔法のある世界で人族と魔族が暮らす世界。
昔から国同士での争いが絶えず、魔族には魔王がいて人族はその魔王を倒そうと聖女や勇者が召喚されている。
そして長男はあろうことかその魔族側に転移し髪の色や目の色が黒なこと、なぜか先代魔王にに似ていることから魔王に担がれているのだという…
「………あ………あほかーーー!!」
「きゃ!ちょっと急に大きな声上げてどうしたのよ!びっくりするじゃないのもぉ…」
大人しく話を聞いていた私が急に立ち上がり机をバン!と大きな音を立てて叩きながら叫んだので、雄弁を語っていた神様が顔を歪めながら同じく大きな声で抗議する。
「髪の色と目の色は日本人なんだから黒いのなんて当たり前だし顔が似てるのは…たまたまだろうけどそれで急に魔王って!!魔族あほなの?!」
「ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ!しょうがないのよ…魔族とはいえヒト族と変わらないし、ただ髪や目が黒みがかっていて魔法の属性が闇属性なだけだからなんだかんだでそういうことになっちゃったんでしょ、きっと!
しかも先代魔王がちょうど人族の勇者にやられちゃってその葬儀の際に転移したもんだから…そんな感じ?」
「そんなかんじ?じゃないですよ!あの子はまだ13歳なんですよ?!子供なんですよ!それなのに………え?!先代魔王って勇者に倒されちゃったんですか?!」
「そうよぉー他の民には手を出させないって魔王が一騎討ちを申し込んでねぇーでも世の理で"光あるところに闇生まれし"って感じでどうしても光属性の方が有利なのよぉー、それで負けちゃって…先代魔王とても素敵な男性だったのに残念だわぁ〜」
先代魔王が亡くなったことをさらっと流すあたりこの人は神様で人間とは感覚が少し違うんだなとゾクっとした。
「…え?!じゃあ息子もその勇者にやられちゃうんですか?!」
そんな強い勇者にただの子供の京斗が敵うわけがない。
今すぐにでも助けに行かなきゃと不安に駆られていると神様がふふふと綺麗な声で笑いながら話し始めた。
「だぁ〜いじょうぶ!勇者も召喚者だから任務が終わって元の世界に戻ったから今すぐどうこうってわけじゃないわ!」
「そうなんですね…よかっ…………え?!もどった?!勇者は元の世界に戻ったんですか?!」
てっきり一方通行なのかと思っていたので戻れるという単語にくいついてしまった。
「そうよぉーまあこのままここにいたい人はそのままの場合もあるけど、殆どは元の世界に帰って行くわねぇ〜。
だから何度も勇者や聖女の召喚が繰り返されるのよぉ〜、その度に仕事しなきゃだからやんなっちゃうわぁ〜」
と不満げに顔を歪ませる神様に身を乗り出しながら質問する。
「では息子も元の世界に戻すことは可能なんですか?」
「可能よ〜」
よかった…ほっと息を吐き椅子にゆっくり座り込む。
「でも今のままじゃ無理なのよぉー」
「え?!」
安心したのも束の間に顔をあげ神様のほうに目をやると困った顔の神様と目があった。
「"任務が終われば元の世界に帰す"っていう条件で僕が動けるんだけど、そうじゃないと僕が干渉する事は禁止されてるのよねぇ〜」
「そんな……」
助ける手立てはあるのに手を出せないなんて、と膝に視線を落とし溢れる涙がポタポタと膝を濡らしていく。
「だーかーら!貴方も行ってくれる?」
「………へ?」
突然肩をポンと叩かれ顔を上げると綺麗な顔でにっこり笑う神様がいた。
はじめまして、拙い文ではありますが宜しくお願いします。