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Emotional Colors  作者: 上川 千尋
第1章
6/12

3.

 服屋はショッピングモールの3階をメインに固まっている。東館が男物、西館が女物に分かれており、初めて来たときもそこまで迷わなかった記憶がある。それほど塔屋ショッピングモールは来客万歳、高い満足度をお客様に提供するという強い使命感を感じさせる。

 3階の西館と言ってもかなりの広さを誇っており、各店舗にお邪魔し、気になる服を見つけては試着という流れを全10店舗で繰り返していたため、時刻はとうに16時を回っていた。無論、全ての店舗で購入するというわけではないため、私も二人もそれぞれ片手で数えれる数しか購入していないが、いろいろ口を出させられていた本郷は店の前に置かれたベンチで燃え尽きたようにうなだれていた。

 彼にとっては女子の買い物に付き添うのは初めてであり、半分の店舗を終えた後に、まだ買うのかと顔に出ていたのを思い出し、少し笑ってしまう。

 買い忘れたと言った蓮花が今の店で美鈴と買い物をしているが、私はすでに買い終えてしまった。流石の私も長時間、自分の興味との戦いに疲れてしまったため、休むことにする。本郷と二人分ほど距離を置き、ベンチに座った後、店の方を見ながら疲弊しきった本郷に話しかける。

「大丈夫か、本郷」

「ああ、まさか2時間も買い物をすることになるとは思わなかったよ。買い物になると女子はすごいな。正直甘く見てた」

 本郷は下を向いたまま答えた。相当疲れたのだろう、蓮花に連れられ選んだ服の色を決める際も、ぎこちない返答ばかりしていたのだから普段から服選びにこだわりを持っていないことは容易に想像できる。

 慣れていることを長時間するより、不慣れなことを短時間する方が疲れを感じやすいことをここで彼は見事に証明したのだ。彼の犠牲を無駄にしないためにも私は今後気を付けることにする

「人混みは辛くないか?…特にここはショッピングモールだしな」

「ああ、平日だからか、そこまで人は多くないから平気だよ。正門に集合していた新入生たちの方が応えたかな。ショッピングモールは、…まあ、もう昔のことだし」

 体力面ではなく、体調面の心配について聞きたかった旨を察し、本郷は答えた。その言葉にきっと嘘はないのだろう。

 だが蓮花たちがいないこの瞬間の彼の瞳には、普段とは異なるどす黒い闇が秘められていた。出口のない無限の闇を見続けている、そんな目をしていた彼を見て、咄嗟にだが、と心配の言葉をかけた。しかし本郷はそういえば、と口調強めに話題の転換を行った。その反応に私は続けて言葉を発することが出来なかった、本郷がその話題を強く拒絶していることを感じてしまったから。

「Rainの件はいつも申し訳ない。なぜか本当に気が付かないんだ」

 私の方を見て、本郷はそう告げる。

 この本郷優という男はいろいろもったいない男だと私は感じている。顔立ちは悪くないくせに、服装にこだわりを持とうとしない、コミュニケーションはとれる方なのに、進んで友達を作ろうとしない、優しい性格なくせに、それを全面的に押し出そうとしない、己の欲望のための行動力を行使しない男なのだ。

 1年の付き合いでは分からないことが多いが、一つ分かったことがある。それはどんな時でも他者のために全力を尽くすということだ。今回の不慣れな口出しでも、全力で考え、アドバイスを送ろうと必死になっていたし、今回のRainの件でもしっかりと謝っている。そんな彼の姿勢のせいか、許さざるを得ない気持ちになってしまう。

「いつものことすぎて慣れてしまった。だが、私が慣れたから今回も許されるというわけではないことを伝える必要があるからな、だからあんな態度をとらせてもらった」

 謝って許されることと許されないことがあることを伝えるために、少し意地の悪いことを言った。本郷は仕事に関しては複雑な心境で臨んでいるが、決して仕事に出たくないから電話に出ないわけではないことは知っている。なぜか私が仕事の連絡をするときに限って、極めて間が悪いのだ。

「そうだな、ちゃんとスマホのマナーモードを切っておくよ。次はちゃんと出れるようにしておく」

 ちゃんと出れるようにする、そんな言葉をこの一年で何度聞いたのだろうと感じたのは本郷には秘密だ。店で蓮花と美鈴の買い物がもう少し長引きそうだと判断し、店の方を向いたまま、本題を投げかける。

「本郷、仕事の話だ」

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