五
さて、最善解はどっちだろうか。
向かって右側の、森を行く道のほうは暗すぎで先が見えないが、それなりに整備された道のようだ。日頃から人が通っているのだろう。
もう一方は、明らかに人が通るに適していない峠道だ。歩きずらそうだし、なんだか寒々しい感じがした。
森の道はこのまま直進することになるので、村の見えてる方角からはやや逸れる。そうはいっても、今見えてる部分だけが直進しているだけなので、森を行っても村にたどり着くかもしれない。
峠道のほうは、方角的には村の位置にどんぴしゃだ。だがこちらも見えてる部分だけど話なので、このまま村に向かっているとは限らない。
つまり、どっちを選んでも村にたどり着くかもしれないし、着かないかもしれない。
なら、より安全な方を選ぶべきだ。
熾は再び森の道を覗き込んだ。
暗くなり始めた空の下、光の入らない森の中はより一層暗い。
道は整備されているが、森の中には熊や猪なんかが出るかもしれない。
「うん、こっちは危ない」
それならば、と思い熾は反対側に首を捻る。
切りだった峠道のほうは、ぼこぼこしていて足元にたくさんの石が転がっている。
万が一踏み外したらそのまま崖下へ真っ逆さまになる危険があった。
「あれ、こっちも危ない………?」
あれあれ? と首を捻り熾はその場に立ち尽くした。
これは、どうすればいいのか本格的に分からなくなってきた。
救いを求めって濡れた地図を見るが、やはり丁度この先を示す道が滲んでしまっていて、何が書いてあるかわからない。
「んん?」
と思ったら、よく見るとなにか字が書いてある。
久太は意外に、女性のような柔らかくて繊細な文字を書く。
その手弱女のような筆致は滲みながらも、なんとか読み取れる部分があった。
『児玉峠は――であるので―――』
読み取れたのはその数文字だけだ。
後付けなのか、絵の上から注意書きのように書かれたその文は、地図のあちこちに書かれた他の文よりも些か主張が強いように感じられた。
「児玉峠………?」
峠というのは、どう考えても向かって左側の寒々しい道のほうだろう。
なんだ。名前のある峠道だったのか。
なら話は早い。
久太の書いた文は、全部は読み取れなかったが、きっと
『児玉峠は村への近道であるので、こちらを通ると良い』
みたいなことが書いてあるんだろう。
「よし」
小さく声を出した熾は、児玉峠のほうへと踏み出した。




