七
出るや否や、琉霞は地団太を踏んで、なにかを発散するように怒気を荒げる。
「信っじられない! あんな人居ますか!? もうこうなったら村に戻ってあることないこと喧伝して回ってやりますよ!」
「琉霞」
「楝の久太っていう町医者は、性格も態度も最悪で、体中から悪臭を漂わせていて、おまけに出べそだって!」
「こら」
今にも憤死しそうな勢いで捲し立てていた琉霞だが、梔乃にこつんと額を小突かれると、しゅんと肩を落とした。
「……すみません、ついかっとなって」
「うん」
「僕、こういうとこあるんです」
「うん」
「…………母上が、病で亡くなってるんです。だから、病気で苦しんでるのに、それを放って置くのが見過ごせなくて……」
「分かるよ」
琉霞が一生懸命なのは、見てれば分かるよ。
そう云った梔乃の顔には、微かに暖かな笑みが浮かんでいる。
「真白のときも、必死だったもんね」
ずっと寝る間も惜しんで真白の為にあれこれ動いていたのは、目の下に浮かんでい
た隈を見れば明らかだった。
病に伏せて、日増しに細くなっていく真白の姿が、母親に重なっていたのかもしれない。
「でも怒ってばっかりいても、なにも進んでいかない」
「はい、その通りです。………………………………いえ……でも……やはり、あいつはちょっとくらい懲らしめてやる必要が」
「こら」
聞き分けの無い子供のように言い募る琉霞を、梔乃は呆れたように見つめた。
「多分、琉霞が思ってるような人でもないと思うよ」
「? それはどういう」
「あの!」
訝し気に問いかけた琉霞の声を遮って、よく通る少年の声が響いた。
見ると、いつの間に現われたのか、すぐ傍に十二、三歳程の少年が立っている。
まるで声をかけた自分自身に戸惑っているような顔をした少年は、しばしの沈黙の後、意を決したように口を開いた。
「あの、今そこの家から出てこられましたよね?」
「そうですが」
「久太さんに、お会いになりましたか?」
どこか焦った様子の少年の勢いに、ちょっと押されながら琉霞は「会いましたよ」と答えた。
「あの、その僕。僕も久太さんに会いに来たんですけど、その」
容量を得ない少年の話し方に、琉霞は「ああ」と合点がいったように口を開く。
「あの男に診てもらうって来たなら、残念ですが無駄足ですよ。少し時間がかかって
もいいなら、僕が信頼できる医師を手配しても」
「違うんです!!」
突然、大声を上げた少年に、琉霞も梔乃もびくりと肩を揺らした。
「あ、いえ、すみません。驚かせてしまって…。でも違うんです。僕、診察のお願いに来たんじゃなくて。僕、謝りに来たんです」
「?」
「久太さんが、あんな風になってしまったのは、僕たちのせいだから」
少年のその言葉に、琉霞と梔乃は不思議そうな顔を見合わせた。