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くちなしの乙女 ~あやかし里の怪異譚~  作者: 風助
一 夜を食む
12/72

 十三

梔乃しの


 云いかけた琉霞の言葉を、清風のような涼やかな声が遮った。

 突然声のした方を振り向くと、そこには琉霞の同年代くらいの少年が立っている。


弥彦やひこ


 梔乃が少年の方を振り向いてそう呼んだ。どうやら知己らしい。


「お帰り、梔乃。その子たちは友達?」


 そう云って微笑んだ少年の顔をまじまじと見て、琉霞は絶句した。

 琉霞は己の容姿を美しいと思っている。なぜなら、周囲の人間が琉霞の見目をそう評してきたからだ。琉霞もそれが誇りであったし、己の個性であり、長所であると信じて疑わなかった。

 しかし、目の前の少年は。

 完璧に整った容貌は、神々しさすら感じさせた。

白菊のような優雅な顔立ちには、寸分の翳りもない宝石のような藍色が閉じ込められ、その微笑みには誰もをひざまずかせるような耽美たんびな魅力がある。

 白くまろい頬は未だに幼さを残すものの、纏っている雰囲気には不思議な婀娜あだっぽさがあった。

 艶やかな長い髪は頭の下で緩く編まれており、ゆったりとした余裕のある印象を与える。

 唖然と口を開けて固まる琉霞を、秀麗な少年が不思議そうに見つめていた。


「友達じゃない」


 不満げに梔子が云う。


「おや、そうなの? じゃあ恋人?」

弥彦やひこ

「怖い怖い。そう睨まないでよ。いつからこんな怒りっぽい子になっちゃったんだか」


 呵責する梔乃をおどけた調子でいなしてから、少年は琉霞に向き直った。


「梔乃と仲良くしてくれたんだね。ありがとう。この子、気難しいところがあるけど、根っこは優しい子だから、これからも仲良くしてあげて欲しいな」

「あの……あなたは」


 ようやく絞り出た声は掠れていて、琉霞は自分が相当に気後れしていたことに気が付く。

 だがしかし、目の前の少年は琉霞にとってそれほどに脅威であった。

 ………なんでそう思うのかは、琉霞自身にも判然としないが。


「俺は弥彦。何者って訊かれたら、そうだなぁ…………」


 ふむ、と顎下に手を添え、逡巡する素振りを見せた後に、少年は蠱惑的こわくてきに笑った。



「梔乃のととさま、かな」



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