第四話・快感を得る少女(健全)
「肩の感じ、どうですか?」
世間話が数秒途切れた時、優君が私にたずねた。
「うん、軽くなった気がするよ」
そう答えながら、肩を回してみせる。
「わ、そうですか」
優君がニコニコしている。
そんなに喜んで貰えて、私も嬉しい。
どうも優君は、ウズウズしているようだった。
「次、ドコをマッサージしますか? 肩以外に気になる場所あります?」
と、マッサージャーを持ち直す優君。
「うーん。肩以外だと、あんまり気になった事はないかも……」
「そういえば、さっきも肩以外への使い道を思い付かなかったですもんね、先輩」
「う、うん」
本当は、思い付かなかったワケじゃないんだよね……。
私はあれから、なんだかずっと後ろめたいです。
「とりあえず、腰が痛くないって聞けて安心しました」
優君が爽やかに笑った。
「先輩、中腰のままでボクにパソコン教えてくれる時も多いじゃないですか。ちょっと心配してたんですよ。
もし先輩の腰が痛くなったら、言って下さいね。マッサージしますから」
「うん。ありがとう」
気持ちはありがたいけど、腰はなあ。どうしてもウエストに視線が刺さるだろうし、恥ずかしい。
……少し体験してみたいけど。
「腰って、友達にも揉んで貰った事ないけど、気持ち良いのかな?」
「腰痛じゃなくても気持ち良いみたいですよ。やってみましょうか?」
「ううん、今は大丈夫」
背中側は、まだ汗が気になって怖いのです。
「腰も良さそうかも、って思っただけ」
「腰以外にも、ふくらはぎとか足の裏も良いみたいです。お姉ちゃんの友達に、わりと頼まれます。
自分で足の方をやろうとすると、つりそうになるらしくて」
「足の裏!?」
オイオイ。なんて場所をマッサージさせてるんだ、女子高生。足くらい、女同士でやるべきじゃないの?
――あ、でも……。
「そういえば、ウチに足ツボ用のトゲトゲの踏むやつあるんだけど、アレすごく気持ち良いなあ」
なんか好きだわ、アレ。足の裏のマッサージは良いかもしれない。
「じゃあ、足やってみますか?」
と、優君。
私は顔をブンブン振った。
「やらなくて良いよ、私の足とか汚いもん!」
「防水加工だから洗えるので、大丈夫ですよ。どうせもう洗ってからお姉ちゃんに返しますし」
「ええー……」
優君に洗われるって、それはそれで恥ずかしいんですけど。
「まあ、良かったらですけどね。せっかく持って来たので、遠慮はしないで下さい」
「じゃ、じゃあ……ちょっとだけ試してみようかな」
「はい!」
優君が、ホッとしたように微笑んだ。
「じゃあ、上履き脱いじゃって下さい。靴下はどっちでも良いみたいです」
「あ、うん」
素足はとても見せられないので、上履きだけ脱いだ。私が上履きを椅子の横に置くと、優君は私の太ももの前にペタンとあぐらをかいた。
えっ! 床に座っちゃうの!?
ええっ!! 足を持つの!?
「痛かったら言って下さいね」
優君は私の返事を待たず、躊躇せずに足のマッサージを始めた。
優君は、純粋に親切でマッサージをしてくれた。だから、変な声を出したりしてはいけない。優君を緊張させてしまう。
私が妙な反応をしたら、優君がまた恥ずかしくなって、マッサージをしにくくなってしまう。そうなったらきっと、この前みたいに、優君はションボリしちゃうから。だからダメ。
そう思って、肩の時みたいに我慢するつもりだった。だけど、足の前に座られたのは予想外で。一度ビクつくと、全然我慢が出来なくなった。優君に足の震えを伝えないようにと、そう思えば思うほど、気持ち良い時にピクリと足が震えてしまう。
私の足を掴んでいる優君は、私の足が動いている事は絶対に分かっているハズ。靴下だから、足の指先が震えている事も分かっているかも。すごく恥ずかしい、頼むんじゃかった。
反応してはいけないのに、肩の時よりもゾワゾワする。私、足の方が弱いのかな?
優君、足をバタバタさせてごめんね……。
「――んんっ!?」
「あ、ごめんなさい。痛かったですか?」
優君が、思わず私の足から手を離した。
「だ、大丈夫。気持ち良かっただけ。優君、足、すごい上手だね……」
「本当ですか!?」
優君は、私を見上げて満面の笑みを浮かべた。
「足の事、思い出して良かったです。どの辺りが良いですか? この辺りですか?」
私を見つめたまま、足の裏をマッサージャーでなでる。
「んう、そこ……」
「ここですか?」
「うん……」
私の今の顔って、大丈夫なのだろうか。
なるべく吐息を出さないように、口を噛み締めた。
「先輩、他にはマッサージして欲しいトコロありませんか?
そういえばココ、みたいなトコロ。ふくらはぎや太ももは血流に良いらしいですよ」
ふくらはぎや太ももも、すごく気持ち良さそうで気になるけど……。
「スカートだから、その辺はちょっと止めとく」
「ご、ごめんなさい! そうですよね、スカートじゃ良くないですよね」
優君は、大慌てで謝った。
「優君がスカート見たりしない人って事は、分かってるんだけどね」
「そんな事ないです。
今、失礼にならないように足の先しか絶対に見ないようにしないとって思ってたのに、先輩に上手って言われた時、嬉しくてつい先輩の顔を見ちゃって。その時に、スカートもちょっと見ちゃいました。ごめんなさい」
スカート、だけだよね?
「そんなの、気にする事ないよ。顔を見てお話してくれて、嬉しいよ?
それに、ずっと下を向いてたら首とか疲れちゃうでしょ?」
「中腰でパソコンを教えてくれる先輩に比べたら、こんなのなんて事ないです」
うう、優君はなんて優しいの?
「でも私、優君の肩が凝ったら嫌だよ?」
「この前、先輩が肩を揉んでくれたから平気です」
「本当? 優君の肩が凝ってないか、後で揉んでチェックしなきゃ」
「ええ!?
そんなコトを先に言われたら、チェックまでに緊張してカチカチになっちゃいますよ!」
優君の可愛すぎる抗議に、つい私は笑ってしまった。