短編 明々後日
いつもの如く、お題ジェネレーターで作成した3つのお題で書きます!
その交通事故の映像は今でも忘れることが出来ない。明々後日に迫るデートでどんな所を回るか、事前にお店の予約をしたり寄りたい所を決めて、当日にさらっと決めたように見せかけるつもりだった。
きっとそれすらもバレていて、知らないフリをして合わせてくれるんだと思っていた。巻き込まれた人の名前は、僕の恋人の名前と全く同じだった。
あれから食事は喉を通らない。脳は空腹を訴えていたが、胃袋の方が受け付けていなかった。このまま部屋に閉じこもっていても何も変わらない、せめて君の近くへ行こうと、僕は部屋を後にした。
目的が合っての行動だったら最短距離で行けるのに、僕に目指す場所は無かった。事故現場の事を思い出すだけで、君の声をもう聞くことが出来ないんだと再認識してしまう。
デートスポットの噴水で投げるためにわざわざ財布から分けておいた100円玉――二人の生まれ年の硬貨が、コートのポケットに入れたままだったことをすっかり忘れていた。僕と同じ体温の、冷たい金属。
どのくらい歩いていたのだろうか。昼過ぎに家を出て、今はもう真っ暗で。街灯が点いていることにすら気付かなかった。そして、目の前に電話ボックスがあることにも興味はなかった。でも、君の声が聞けるかもしれない機械に、最後の望みを託してみたくなった。
二人が幸せでありますように、と祈りを込めたその硬貨を、静かに投入口へ滑らせる。受話器を取り、君の番号をプッシュした。
スマホで確認する必要なんてない。着信音とその番号は目に焼き付いているから。コール音、君が出てくれるのを待つ合図。
繋がった。
「ごめんね、ちょっと行けそうにないの」
「わかってる」
「一人にしてごめんね」
「わかってるし、謝らなくていいよ」
「ずっと好きだから」
「わかってるってば」
通話終了を知らせる機械音が鼓膜にこびりつく。
受話器を置くことも出来ないまま、僕は凍りついてゆく。
もう会うことの出来ない相手への、恋の病。
お題:明々後日・電話ボックス・病む