プロローグ『限りなく無に近い白』
あるところに少女がいた。
運命に酷く嫌われた少女がいた。
その少女は世界の東の端。『極東』と呼ばれる場所の生まれだった。
極東に住う人々は皆美しい黒髪を有していたが、その少女は産まれながらに白かった。
肌や眼、髪も全てが美しく純白な少女は、産まれて間もないにも関わらず、忌子として迫害を受けることとなる。
なぜなら極東では産まれながら白い子は災いをもたらすと言われていたからだ。
そしてその忌子は捨て子として国の機関に引き取られ、人知れず戦争の兵器として育てあげられた。
そこに人権はなく、市民でも兵士でもなく、人を殺める為だけのただの機械として扱われた。
時に極東という国は、良くも悪くも度々隣国と戦争を起こす国だった。
その度、その白い少女は幼いながらも戦場へ駆り出され、人を屍へと作り替える。
一切の感情は無かった。
だがそんな地獄のような日々は、ある日を境に戦争が終結したことでついに終わりを告げることとなった。
事実として、白い少女はもう人を殺さなくてもよくなったのだ。
しかしだ。
元より忌子として迫害を受けていたことに加え、戦争の道具という存在理由を無くしたうえに、人間をただの兵器として扱うという卑劣な計画の生き証拠であった少女は、証拠隠滅の為に、よりによって祖国に命を狙われるようになってしまった。
だから、理不尽な運命からただ逃れるようにして少女は祖国に背を向けた。
そして逃避の最中。皮肉にも人を殺める為の技術が少女を生かし、沢山の人間を亡き者にした自分を守るために一人が命を散らした。
故に白い少女は生き延びた。生き延びれたのだ。
して、一時的とはいえ追手から逃げ切った白い少女は疲労に震える足を一旦は止め、自らの命を救ってくれた恩師の言葉をふと思い出す。
「あなたの想いを愛しなさい」
その言葉を胸に、自分というモノを知りたくて少女は再び前を向き、歩を進めた。
そしていつの日か、白紙の本を手に旅を始める。
そんな純白の少女の名前は、メメントモリ。
意味は————
『死を忘るなかれ』
まずはじめに、読んでいただきありがとうございます。
一応、初めてになります。
ここでは明言しませんが、某『喋るバイクと中性的な容姿の少女の旅物語』が好きで、自分もロードノベルを書きたいと常々思っていました。
それで今回、行動に移した結果がこれになります。
今後も読み続けてもらって面白いと感じていただけると幸いです。
P.S.
ちなみに、今回の題名である『メメントモリ・マニュスクリプト』ですが、
メメントモリは主人公の名前。
マニュスクリプトとは『手稿』のことです。
題名を何も考えずに日本語で直訳すると、
『メメントモリ手稿』
となります(多分)。
なんのこっちゃ、と思われるでしょうが、以後そのことに触れていきますのでご心配なく。