ゴブリン考 「ゴブリンは人間の女性を強姦するのか?」
ゴブリンについて纏めた「ゴブリン考」は全体の三分の一ぐらい。
附記の「妖精類、並びにゴブリン類について」の方が長くなってしまいました。
フェアリー、パック、ピクシー、スプライト、エルフ、ドワーフ、ホビット、レプラコーン、ブラウニー、シルキー、バンシー、コボルト、ノーム、レッドキャップ、トロール、オーガ、オーク、ニンフについて書いています。
「ゴブリンは人間の女性を強姦するのか?」
答えはイエスであり、ノーでもある。
……これこれ、若いの。
ブラウザバックするには、まだちぃと早いぞ。
◎そもそもゴブリンとはどのような生物なのでしょうか?
標題の「ゴブリンは人間の女性を強姦するのか?」の問いに答えるには、まず、ゴブリンとは何であるかを知る必要があります。
日本では主に邪妖精、小鬼などと訳されますが、これは近年のRPG (ロールプレイングゲーム)に因る所が多いと考えます。
小説、漫画、アニメ等、ゴブリンと称される存在は数多く見られますが、そのイメージの原点に、RPGの原典でもあるダンジョン&ドラゴンズ(D&D)があります。
もう一つ、本来、妖精や小人と訳されるべきゴブリンに、邪や鬼に類する悪印象を植え付けた、キリスト教の存在も外せません。
ここでは、キリスト教以前の本来のゴブリン、キリスト教の影響を受けたゴブリン、そして、D&Dにおけるゴブリンについて、私の知る限りを纏めさせていただきました。
○キリスト教以前のゴブリン
本来のゴブリン……、とは言っても、私はゴブリンが実在の生物だと思っている訳ではありません。
古い時代のヨーロッパの伝承、物語に登場する、架空の妖精、小人の呼び名の一つであると認識しています。
goblinの語源はラテン語説、ギリシャ語説などがあり、厳密には不明という事になっています。
私も、どの説が正しいかは判断がつかず、ゴブリン(に類する存在)がいつの頃から語られる様になったのかは判りませんでした。
また、当然の様に物語によって差異があり、「これこそがゴブリン」と呼べる唯一が存在する訳でもありません。
ざっくり纏めると、
ゴブリンとは悪戯好きな不思議な小人(妖精)。
これが、キリスト教以前のゴブリンに対する人々の認識であり、邪悪であるとか、醜いとか特筆される事はありませんでした。
古のゴブリンを語る上でもうひとつ、重要な存在について触れておきます。
ホブゴブリンとは。
ホブの語源に関しても諸説あり、「大きな」、「善良な」、「浮浪者」などと言われますが、どれが正しいかは断定が出来ません。
面白い説では「ロブという人間によく使われていた名前がなまった物」というのもありました。
キリスト教以前のゴブリンが邪悪ではなかったように、ホブゴブリンもまた、邪悪な妖精ではありませんでした。
ゴブリンより人に近く、ブラウニー、シルキーなどと同じく、こっそり家事を済ませたり、家畜の世話をしてくれる(ただし、綺麗な家では逆に散らかしたりする)、ちょっと不思議なありがたい妖精でした。
明らかにゴブリンよりも好意的に語られる事が多く、この点だけ見れば良いゴブリン説を推したくなります。
ただ、前述通り、普通のゴブリンが悪いゴブリンと言う訳ではありません。
ゴブリンもホブゴブリンも、人間とは少し違う価値観を持つ、不思議な隣人であったのです。
ここで標題の「ゴブリンは人間の女性を強姦するのか?」を問い直します。
答えはイエス。
強姦であるかはさておいて。
取り替え子 (チェンジリング)と呼ばれる現象が存在します。
生まれてきた子供が妖精の子供と取り替えられている、と一般的には言われます。
ゴブリンの他、エルフ、フェアリー、トロール、先ほど名を上げたブラウニーなど、多くの妖精と呼ばれる種が、その犯人とされています。
問題なのは、生まれた子が取り替えられるのでは無く、生まれてきた時点で取り替え子であるという点で、「この子は取り替え子である」とする判断の他に、「母親が妖精と密通してできた子である」若しくは「妖精に犯されてできた子である」とも考えられました。
この、最後の「妖精に犯されてできた子である」が「ゴブリン(妖精)は人間の女性を強姦するのか?」の問いに、イエスと答える理由になります。
実際、妖精と密通する、妖精に誘拐される、妖精に強姦されるなどなど、女性が妖精の子を身籠もる話は各地に散在しています。
物語、伝承の内に於いて、妖精が人との間に子をもうける事は、有り得たのです。
※補足、取り替え子について
取り替え子には、色々なパターンがあります。
まず、外見からして人間としてはおかしい場合。
極めて短命であった場合。
極端に知能が低い、或いは高い場合。
よく言われるのが、所謂奇形児や障害児が妖精とされた例で、「この子は妖精であるから」という理由で殺された話まであります。
極めて短命だった場合は、「死んだ子は妖精であり、本物の子供は妖精の国で楽しく生活しているに違いない」と言い、幼い子供を亡くした親の、慰めのような物でした。
また、自閉症児に対する説明付けで、妖精の子であるから普通の子とは違うとのだと判断されました。
それには、一部の高い知能を発揮した自閉症の大人も含まれたようです。
他にも色々な理由で、「正常に成長しない子は妖精である」とされ、その理由付けとして取り替え子の伝承が利用されてきました。
○キリスト教以降のゴブリン
最早説明するまでも無いかも知れませんが、キリスト教によってゴブリンは邪悪な存在とされました。
外見も醜悪であるとされる様になり、邪悪な、悪意を持ったなどの言葉が冠され、明確に人間(敬虔なキリスト教徒)の敵として悪事を働くと語られました。
これが、日本語で邪妖精と呼ばれる原因になります。
同時に、ヨーロッパ各地に伝えられていた様々妖精たちも悪意ある存在とされ、徐々に悪霊やモンスターと化していきます。
このイメージが幾つかの小説、特に『ホビットの冒険』に伝わり、『指輪物語』を経てD&Dへと続いていきます。
○ダンジョン&ドラゴンズにおけるゴブリン
キリスト教以降のゴブリン、特に『ホビットの冒険』の影響を強く受けたとされ、ここにゴブリンは人類に敵対する亜人モンスターとして定着する事になりました。
D&Dにおけるゴブリンは、正確にはゴブリン類というクリーチャー群の一種です。
一匹一匹は非常に弱く、その代わりに数が多く、群れるという特徴を持ち、”かしら”と呼ばれるゴブリンにより統率されています。
ちなみに一匹当たりの脅威度は1/4で、経験値で例えると僅か50XPです。この結果、後のRPGで雑魚モンスターの代表として扱われる事となりました。
ゴブリン類はゴブリンの他、ホブゴブリン、バグベアなどがいます。
バグベアはウェールズに伝わる毛むくじゃらのゴブリンで、D&Dに於いても似た様な扱いです。
脅威度は1。ゴブリンのかしらと同程度ですね。
ホブゴブリンも、やはり邪悪なモンスターとして語られています。
D&Dでは特に好戦的な種族として表現され、自分たちの集団を軍団と呼び、明確な階級の元で行動し、整備された武具を持ち、カタパルトの様な兵器すら運用し、人や亜人の領域に戦争を仕掛けます。
ホブゴブリンの脅威度は1/2。
ですが、隊長クラスで3、将軍で6にもなります。
脅威度6と言えば、ワイバーン、キュプロス、キマイラと同クラス。
これが千のホブゴブリン(とバグベアとゴブリン)の軍勢を率いてくるのだから、人類もうかうかしていられません。
だがしかし、殆どのRPGではゴブリンのちょっと強い奴程度で、やはり雑魚として初心者パーティーの経験値となってしまうのが定めでしょう。
さて、ここでもう一度、標題へと戻ります。
「ゴブリンは人間の女性を強姦するのか?」
答えはノーです。
ゴブリン類が人間と交配するという設定は存在しません。
私が知らないだけかも知れませんが、少なくとも、2017年のD&Dモンスターマニュアルにはそのような記載は確認出来ません。
一般的に、人と交配するとされるのは、エルフ、ライカンスロープ(ワーウルフなど)、インキュバスを含むフィーンド(悪魔)、ドラゴンなどでしょうか。
特筆すべきは、オーガとオークですね。
オーガは人食い鬼です。
体長3mほどで、人間の他、オーク、ホブゴブリン、バグベアと交配します。
エルフ、ハーフリング、ドワーフは食べ物であるので、子作りの相手にはされないらしい。
生まれる子は単純にハーフオーガですが、オーガとオークの間に生まれた者のみオグリロンと呼ばれます。
オークは豚人間とも言われますが、どちらかと言えば猪人間ですね。
繁殖力が強く、先で上げたオーガ、人間の他、ドワーフなどと交配します。
生まれてくる子供はハーフオークかオークになります。オーガとの間だけオグリロン。
あと、オニはD&Dではデーモンめいたオーガなので、恐らく人間と交配するでしょう。
人間に化けますしね。
結論。
古の物語に登場するゴブリンは、人間の女性を強姦する事も有り得る。
現代のファンタジーRPGの世界に於いては、有り得ない。
よって、イエスであり、ノーでもある。
ただし、創作物に於いては作者の判断が優先されるので、その辺りは適当に、ですね。
○附、妖精類、並びにゴブリン類について
フェアリー
エルフと並び、日本語で”妖精”と表記される種の代表的な存在。エルフ類と区別する為に小妖精とも書きます。
フェアリーの語源がラテン語のfata(運命)に由来する事は、皆さんご存じだと思います。
キリスト教の影響下では、元々は天使であったが降格されたとも言われているらしい(堕天ではない)。
一般的な日本人が”妖精”と言われて思い浮かべる、昆虫の羽根を生やした小人の姿をしているとされ、少なくとも外見は愛らし、美しいと、好意的に表現されます。
他の妖精たちと同じように気まぐれで悪戯好きだとされますが、臆病であまり姿を現さない、姿を消す事が出来るとも言われています。
英雄を導くフェイもフェアリーだと思われます。現在に至るまで、妖精たちは様々な物語でその役割を果たしています。
D&Dにおいて、フェイは種族では無く、種別。
ピクシーやスプライトなどがこれに分類されます。
パック
本来はイギリスの妖精。ケルト神話のプーカが変化した物。
ウェールズではピスカ、プカ、ドイツではポーク、アイスランドではプカなど、広域に広がると共に様々な呼び名に変わっていきました。
ロビン・グッドフェロー、そしてホブゴブリンと同一視されています。
他の妖精たちと同じく悪戯好きとされ、反面、人助けをしたりもします。
外見は多様で、赤子の様な姿の他、毛深い小柄な人、下半身がヤギになっている人間など、地域や物語によって変化し、それが原因か、この妖精は優れた変身能力を持っているとされます。
ピクシー
上記のパックに愛称語尾のsyが付いてパクシーとなり、その後ピクシーに変化しました。
闇に光る目、赤い髪、尖った耳に緑色の服、とんがり帽子と、日本に伝わる”妖精的な小人”のイメージのほとんどがピクシーから来ているのでは無いかと思います。
ストーンサークルや古代の塚、洞窟などに住み、ご多分に洩れず悪戯をする事もあれば、人助けをする事もあります。
森の中で輪を作りダンスしているのも彼らで、人間がその輪に加わってしまうと、ふと気付けば数年が過ぎ去っていると言われます。
キリスト教の影響下、洗礼を受けずに死んだ子供の魂がピクシーになると言われる様になったそうです。
D&Dでは、30cm足らずのエルフによく似た姿に、昆虫の羽根を持つ妖精として登場します。
好奇心は強いが、それ以上に争いを嫌い、臆病であるので姿を現す事は滅多に無く、そもそも、不可視の能力持ちで、自分が見せたいと思わない限り見えません。
ただ、飛行するとキラキラ光る粉が舞い散るので判ってしまうという。
ちなみに、ヒットポイントは1。若しくは1d4-1、つまり1から3。
スプライト
言葉から想像できるとおり、スピリット(霊、魂、精神)に近い存在。
フェアリーと同じイメージで語られる事もあれば、亡霊のように扱われる事もあります。
また、風の精霊や水の精霊と同一視される事もあり、現在、一般的なRPGに出現するシルフの外見はスプライトと似通っています。
D&Dではピクシーと大差無い小型妖精ですが、こちらはクソ真面目で、相手の感情と心の善悪を読み取る能力があり、悪意ある者には自慢の武器をもって戦います。
毒と薬の作り手であり、森の守護者。侵入者が邪悪で無いなら、脅すか、睡眠毒くらいで勘弁して貰えるでしょう。
エルフ
RPGの普及や、それに続く小説、漫画、アニメの影響により、広く知られる様になった人間サイズの妖精。
場合によっては亜人に分類されるかもです。
不老長寿で非常に美しく、背が高く細身、高い知能と魔法の力を持ち、反面、筋力は劣る。また、弓の名手であるけれど、肉は食べないとされている事が多いです。
元々は北欧神話に登場し、アールヴと呼ばれていました。
おそらく、妖精と言うより半神であり、強い力を持つ美しい存在として信仰の対象となっていました。
また、古くから光エルフ(リョースアールヴ)と闇エルフ(デックアールヴ)、若しくは黒エルフ(スヴァルトアールヴ)に別けられていたらしいです。
ちなみに、『スノッリのエッダ』で有名な詩人スノッリ・ストゥルルソンは、ドヴェルグ(ドワーフ)を闇エルフとしています。
現在でもエルフとドワーフは仲が悪いとされていますが、起源はこの辺りにあるのでしょう。
余談ではありますが、『ニーベルンゲンの歌』に出てくるドワーフのアルベリッヒ(Alberich)の名は、エルフ王という意味だそうです。
他にも『真夏の夜の夢』に出てくるオベロン(Oberon)もエルフ王という意味。
フランスにもAlberonという妖精王が出てくる物語があるらしい。
古い時代のエルフに関しては、エッダの他、数多くのサガに伝えられており、中には人間との混血が何例かあります。
ハーフエルフも、この時代から既に存在していたようですね。
キリスト教が広まると、エルフは他の妖精と混雑します。
俗化し、男を誘惑したり、悪戯をするともされました。また、疫病と関連付けられ、人や家畜を病気にし、悪夢を見せると言われる様になります。
取り替え子で、替えられた子供をエルフチャイルドと呼ぶ場合もあります。
ゲーテの『魔王(Der Erlkonig)』もエルフ王ですね。
ピクシーと同じく、森の中で輪舞し、通りすがりの人を誘う話があります。
もちろん、踊りの輪から抜けた頃には、数年から数十年経っているというお約束付きですが、面白い話として、このエルフの輪舞の跡には、踏みならされた草が円を描いており、ここで小便をすると性病にかかると言われているそうです。
大きさに対する認識にも変化があって、イギリスでは羽根の無い小さな妖精として書かれた物語もあります。
特にシェイクスピア以降は顕著らしい。
また、アンデルセンの『The Elf of the Rose(バラの花の精)』には、花の中に住めるほど小さく、羽を生やした妖精が登場しています。
こうした影響か、今でも羽の生えた小さな妖精をエルフとしている作品も多いですね。
エルフのイメージを古来の半神的妖精に立ち返らせたのはトールキンの『指輪物語』で違いないでしょう。
人間サイズで尖った耳を持ち、不老長寿。知能が高く、魔法を使う。
これを引き継いだのがD&Dです。
D&Dのエルフは現在の一般的なエルフの基礎となっていますが、多少の相違点があります。
人間より背が低く痩せている。またユーモアのセンスがあると言うのも、今時の真面目なエルフ像とは異なるかも知れません。
ご存じの方も居るかも知れませんが、『ロードス島戦記』のディードリットも登場時は少女と間違われる様な身長でした。いつの間にやら大きくなりましたが。
あと、男女とも基本的に細身で、当然、巨乳のエルフなどいません。
何故だか最近の作品には、妙に豊満なエルフが多い様な気もします。
「オークと巨乳エルフ」とか、そんなのも多いです。
だがしかし、敢えてもう一度言いますが。
巨乳のエルフなどいない。
そもそも、乳房に性的興奮を覚えるのは人間の男性だけです。
エルフを含め、他の亜人や類人猿に至るまで、授乳期でも無いのに乳房の膨れた生物など存在しません。
セイレーンとか、ハーピーとか、マーメイドとか、あからさまに大きな乳房を晒しているモンスターは、餌である人間の雄を誘う為に大きな乳房を付けているだけです。あれはある意味、擬態。
雌しかいない様に書かれてるモンスターなんか、女性に擬態してるだけで、多分、雄でも乳房が大きいんですよ。
ラミアとか、多分、半分は雄。
話が逸れました。
巨乳のエルフなどいない。
理解しましたか?
では、次に行きます。
そうそう、エルフの種類。
最近の作品には普通のエルフの他に、ハイエルフとダークエルフが存在するのが一般的だと思います。
ですが、D&Dではハイエルフこそが普通のエルフでした。
その他にウッドエルフやドラウ(ダークエルフ)を始め、様々な亜種族が存在します。
D&Dの中でも版によって、また世界によって呼び名が変わる物があり、私も正しく把握している訳ではありませんが、サンエルフ(ゴールドエルフ、サンライズエルフ)、ムーンエルフ(シルヴァーエルフ、グレイエルフ)、ワイルドエルフ、グリーンエルフ、フォレストエルフ、ヴァレーエルフ、アクアティックエルフ、などなど。
AD&Dの頃はグレイエルフとハイエルフは別だったはずなのに、D&D第五版ではハイエルフの内、ムーンエルフの別名と言う事になってたりして、最早、訳が判らない。
実際、他の作品に引き継がれていないエルフたちに関しては、言われてもピンとこないのではないでしょうか。
そんなのもある、もしくはあった、程度に考えてください。
ちなみに、ディードリットもハイエルフ。
『ロードス島戦記』では、後にハイエルフはエルフの上位種とされ、ソードワールドRPGではそれが正式な設定となったはずです。
先の、最近の作品云々は、寧ろD&Dよりソードワールドの設定に沿っているのかも知れません。
今の時代、作品を作る側の人間の多くが『ロードス島戦記』や、ソードワールドを参考にしているのだと思います。
肉を食べない設定もソードワールドだったかな?
少なくともD&Dでは普通に狩りをして食べてたし、そもそものアールヴには生け贄を捧げる風習がありました。
最後に、私自身の考えですが。
ライトエルフは恵みをもたらす豊かな森を象徴する妖精。
ダークエルフは鬱蒼と繁る恐ろしき暗い森を象徴する妖精なんだと思います。
エルフだけ、極端に長くなってしまいました、すみません。
ドワーフ
RPGではエルフと並ぶ代表的な妖精にして亜人種。
日本語訳としては、妖精よりも小人とされる事が多く、『白雪姫』の七人の小人はドワーフです。
背が低く、筋骨隆々。岩山や地下に住み、鍛冶と金属細工が非常に得意。
最大の特徴は立派な髭で、髭小人ととも呼ばれ、女性でも髭が生えてると言われます。
エルフとは逆に魔法適性は極端に低いのも、妖精らしく感じない原因ですね。
エルフの項目でも書いた通り、北欧神話のドヴェルグが元であり、巨人ユミルの死体から湧いたウジが人に似た姿と知性を与えられたのだと伝えられています。
思いっきり闇妖精で、以後も暗闇を好んで地下に暮らしたとされています。
そこから鉱山、坑道の妖精となり、魔力を帯びた武具や宝物を作るようになっていきます。
状況が一変したのは、又してもトールキンの『指輪物語』。
背が低くて頑丈で、女性でも髭を生やし、大酒飲み。腕力に長けると共に手先が器用で職人気質、鍛冶や細工師、石工として高い技能を発揮する。
基本的な所は変わらないですが、闇属性は一気に取り払われました。
そして、優れた戦士としても活躍する様になります。
D&Dではエルフと共に基本種族として加わり、以降のRPGでも人間、エルフ、ドワーフは標準的なプレイヤーキャラクターとなります。
また、ダークエルフ的な存在としてドゥエルガルがいます。
その肌の色からグレイドワーフとも呼ばれ、何故か女性でも頭に毛が無いらしい。
通常のドワーフより暗闇に適応しており、暗視能力はドワーフの二倍。その代わり、日の光の下では眩しすぎてよく見えない。
最大の特徴は、僅か一分間だけではありますが、オーガ並みの巨体に膨れ上がる事。もちろん力も増大します。
逆に一時間にも及ぶ不可視化能力もあります。
ホビット
名前を呼んではいけない妖精。
その理由は、著作権という物が存在するから。
トールキンの『ホビットの冒険』『指輪物語』で登場した小人で、トールキン自身の創作物。
人間からは小さい人 (ハーフリング)とも呼ばれています。
変な言い方ですが、一般的な小人のイメージで作られたとしか言い様がなく、特徴としては60~120cm位の身長、やや尖った耳、足の裏が毛に覆われていて靴を履かない、たばこが好きで自分たちで栽培している、くらいでしょうか?
例の指輪にある程度抵抗出来る綺麗な心の持ち主、と言うのも、特徴と言えば特徴か。
D&Dではその名前を使う事が出来ず、ハーフリングという種族が存在しています。
ソードワールドでは同じくグラスランナーがその役を担っています。
どちらもプレイヤーキャラクターとして選択でき、素早さと器用さに秀でたシーフ系の職業に向いた種族となっています。
現在でもホビットによく似た種族は多くの作品に登場していますが、その役職柄か、トールキンの描いたホビットの純粋さは随分薄れ、スリや詐欺を働く輩が多い様に感じます。
レプラコーン
靴屋の妖精。アイルランドの民話に登場します。
正しくはレプラホーンか?
これも妖精と言うよりは小人のイメージで語られ、先のホビットの元となった一つではないかと思います。
革のエプロンを着け、木槌で靴を修理する働き者。ただし1日に片方の靴しか作業しない。
働く妖精でしたが、ご多分に洩れず悪戯好きとされ、アイルランドには今でも「レプラコーンに注意」と書かれた看板が存在します。
また、クルラホーンは泥酔したレプラコーンで、全くの同種。
ブラウニー
イングランドやスコットランドで語られる、家事をしてくれる妖精。
前述通り、ゴブリンやホブゴブリンであるとも言われます。
身長は1m弱で茶色い服を身に着けている事から、茶色い奴と言う意味でブラウニーと呼ばれています。
お礼として部屋の隅に食べ物などを”さりげなく”お供えしなくてならず、あからさまにお礼をすると怒って出て行くそうです。
後にキリスト教、と言うか、キリスト教的民間信仰であるクリスマスのサンタクロースと関連付き、サンタクロースの弟子であるとか、年を取ったブラウニーがサンタクロースに成るとか言われています。
シルキー
イングランドの妖精。その性質はブラウニーとほぼ同じ。
ただ、その名が表す様に白いシルクのドレスを身に着けており、動いた時にシルクの擦れる音が聞こえると言われます。
そのせいか美しい女性のイメージをもち、『魔法使いの嫁』では「銀の君」と呼ばれる美少女として描かれ、主人公たちの身の回りの世話をしています。
一説には旧家に現れる亡霊とも言われ、ある意味座敷童にも近いかも知れません。
バンシー
アイルランドからスコットランドにかけて伝わる妖精。老婆であるとも、美少女であるとも言われます。
日本では泣き女と訳されますが、泣くのではなく、叫ぶが正しいです。
本来、近いうちに死ぬ者があれば、その家族にバンシーの叫び声が聞こえる、という伝承でした。
妖精と言うより、死霊に近く、シルキーと同様に旧家に憑いて、遠く離れて暮らす家族に身内の死を知らせる役割を持っていたと思われます。
転じて、バンシーの叫びを聞いてしまうと、身内に死人が出ると言われる様になり、この設定がRPGにも流用されて、その叫びを聞くと”即死する”または”精神力にダメージを受ける”等の特殊能力をもった、厄介なモンスターとなりました。
D&Dではエルフの死霊とされ、アンデットに分類されます。非常に恐ろしい外見をしており、その姿を見ただけで恐慌状態に陥る可能性があります。
さらに、前述通りの広範囲即死攻撃を持ち、抵抗に失敗すればHPが即0に、成功しても3d6(3~18)ダメージという鬼畜具合。効果範囲内の一般人は殆どの場合全滅してしまいます。
救いとなるかは知りませんが、この”慟哭”は1日に一度しか使えません。
コボルト
PRGにおける雑魚モンスターの一種。
ドイツの民間伝承に語られ、ドイツ語の意味は邪な精霊。
英語だとゴブリンと訳される事が多いですが、近年は別のモンスターとして認識されている様です、主にゲームで。
本来の伝承ではブラウニーに近い。
ですが、一方で鉱山に住み、銀などの希少な金属を持ち去って、代わりに役に立たない金属を置いて行くとも言われます。
この役に立たない金属が、後にコボルトの名を取ってコバルトと呼ばれる様になりました。
D&Dではその外見に関して大きく変質し、今で言うリザードマンに近い姿で描かれました。
厳密にはドラゴンに近い存在で、頭には角が生えています。
ただし、雑魚である事は当時から変わっていません、脅威度1/8で、ゴブリン以下です。
D&Dではコボルトの上位種としてウィングド・コボルトがいます。
その名の通り、翼を持つコボルトで、よりドラゴンに近い姿をしています。
ただ、普通のコボルトはその姿を妬むそうで、仲は良くないらしく、ウィングド・コボルトは高い岩棚などに自分たちだけで暮らしています。
その後、他のRPGでもコボルトは登場しますが、このドラゴンの様な姿は継承されず、特に日本に於いては『Wizardry』の犬の頭を持つ亜人が一般化しました。
何故、ゴブリンに近かったコボルトが、ドラゴンや犬の特徴を受ける様になったのか、その理由は判りませんでした。
ノーム
土の妖精。ギリシャ語のゲノーモス(地中に住む者)が語源。
派手な色の衣装ととんがり帽子を身に付けた、12cmほどの妖精。
個人的なイメージは『とんがり帽子のメモル』です。
手先が器用で細工物を得意としていました。
その性質からドワーフとの関係性が言われたり、また、やはりゴブリンの一種であるとも言われました。
錬金術師パラケルススが四大精霊論を提唱し、ノームは土を司る精霊とされるようになりました。現在でもこちらのイメージで登場する作品も多いです。
余談ですが、四大精霊は他に、火のサラマンダー、水のウンディーネ、風のシルフがいます。
サラマンダーは火トカゲですが、ウンディーネ、シルフは本来ニンフの一種ではないかと思われます。
D&Dのノームは身長90cm程の小人で、希少種族ではありますがプレイヤーキャラクターにも成ります。
後のRPGでも亜人として描かれる時は、このD&Dのイメージを踏襲しているのではないでしょうか。
普通のノームであるロックノームと、森の奥に住むフォレストノームの他、エルフやドワーフと同様に、闇のノームとも言うべきディープノーム、別名スヴァーフネブリンも存在します。
このディープノームは、ちょっと強い地底のゴブリン程度で、他の作品に登場する事は無かったと思います。
レッドキャップ
イングランドとスコットランドの国境付近に出没すると言う妖精。
外見的にはレプラコーンやホビット系に近い、普通の小人の様に思われますが、珍しい事に、完全に悪に属する妖精です。
その名を表す赤い帽子と、鉄の長靴、長い杖を持ち、人間を見かけると斧を振りかざして襲いかかってきます。
そして被害者の血で帽子を更に赤く染める事を、最大の喜びとしている伝えられます。
国境付近の他、古戦場、廃墟、墓地、そして凄惨な殺人事件があった場所に現れると言われ、人間自身の殺害行為がその存在に大きく関わっていると思われます。
キリスト教の下では、十字架や聖書の文句で撃退出来るとされているそうです。
トロール
トロールと言えばムーミントロール、若しくは再生能力のある醜い巨人種。
ここをご覧の方は、後者を想像する方が多いかも知れません。
本来は確かに毛むくじゃらの巨人でしたが、やがて小人へと変化していきました。
この、小人型のトロールは単純に悪戯好きの妖精で、外見も伝播するに従って様々変化しており、それこそムーミンの様なものからゴブリンの様なものまであります。
また、ノルウェー辺りではトロール人形と呼ばれる小人の人形が存在します。
一度消えた醜悪な巨人であるトロールを復活させたのは、またしてもトールキン、『ホビットの冒険』です。
ここではエント模した魔法生物で、通常の武器が効かないほど堅いが、日の光を浴びると石化してしまう弱点を持っていました。その後の『指輪物語』には上位種のオログ=ハイが登場し、弱点の太陽を克服し、巨大な剣を振り回して暴れ回りました。
D&Dでは巨人の下等種として、より凶悪になって登場しました。
低知能、大食い、怪力、そして再生能力という、今に続くモンスターとしてのトロールはここで完成したと思って間違いありません。
特に再生能力については特筆されており、皮膚を切り裂き、骨を抜いても意味は無い。切り落とされた腕を拾って傷口に押し当てると、元通りにくっつく。挙げ句、首を切り落としても動く。
弱点、と言うより僅かな対処法として、傷口を焼くか酸をかける事により再生を防げますが、もちろん、それを行った者は優先的に狙われます。
前述通り、後のRPGの他、小説や漫画、アニメ等に登場する際は、程度の差こそあれ、D&Dのトロールがモデルとなっています。
オーガ
妖精でも無ければ、ゴブリン類でも無い、巨人に類するモンスターですが、オマケとして加えておきます。
日本では人食い鬼と訳される事も多いですが、まさにそういう存在です。
主に北ヨーロッパで伝わっており、大きな宮殿や城、若しくは地下に住まいし、人を襲って食べるとされていました。
子供向けの小説では、”お姫様を攫って騎士に倒される役どころ”として活躍しているそうです。
D&D以降も、倒されるべき恐ろしい敵として登場します。
乱暴者で怒りやすく、大食らい、そして、ほとんどの作品では頭が悪いとされています。
D&Dでは、指は十本あるが、十まで数えられるオーガは殆どいない、と表現されています。
ただ、力は強い。
最近の作品では”ちょっと強い雑魚”といった程度の認識で、主人公があっさり倒して、周りの人間が「なんだとっ!?」と驚いたり、「さすが○○様!!」と褒め称えたりするのに役立っていますね。
オーク
豚人間、若しくは猪人間。一応、亜人?
実はホビットと同じく、トールキンの創作です。
著作権、仕事しろ。
……嘘です、止めてください。
オークの著作権が主張されたら大変な事になります、ホントに。
ちなみに、著作権は著者の死亡後五十年間存続するそうで、厳密には、”ホビット””オーク”の他、魔法銀”ミスリル”なども使用不可です。
誰も気にしていませんが。
さて。
オークは元々ゴブリンでした。
『ホビットの冒険』ではゴブリンだったものを『指輪物語』ではオークに変えたのです。
この時点ではオークとゴブリンは同じ存在で、『指輪物語』発表後、『ホビットの冒険』の「ゴブリン」は「オーク」の翻訳(おそらくホビット語)と言う事になったらしいです。
オークが豚顔になったのはD&Dに登場してからです。
その原因はアイルランド語の豚がorcであったからだとか。
オークはホブゴブリンたちと並ぶ野蛮な侵略者で、D&Dでは「疫病の如き部族」と表現されています。
暴食、何でも食べる。そして食べ尽くしたら次の地に移る。
自らが滅ぼした人の村や廃墟、洞窟などを砦化し、人類の反撃にもそなえる彼らは、冒険者が狩る対象としては、少々手強いでしょう。
ただ、テレビゲームではゴブリン並みの雑魚だったりします。
D&Dでは、特に知能の高いオークをオログとしています。
同じ種族でありながら、上位種とも言える彼らは、他の作品には登場していないようです。
ニンフ
妖精を語る上で外す事の出来ない、男性を誘惑する非常に美しい人間サイズの妖精の、根源的とも言える存在です。
ただ、種族とすべきかどうかは判断に迷いました。
その名は古代ギリシャのニュンペーが英語化したもの。
古代エルフ、アールヴと同じく半神と呼ぶべき存在です。
不老長寿で全員が美しい女性。
絵画では全裸で描かれる事が多く、纏っていても薄布一枚がほとんど。
元はそれぞれ泉や庭園、家畜などの守り神でしたが、やはり若い男を誘惑する者としても伝わっています。
過剰性欲を意味するニンフォマニアは、このニンフから取られています。
種族とするべきか否かを迷う理由は、住まう場所によって様々なニンフがいるためで、それぞれが別種族とも言えると思います。
以下にそれらを列挙します。
オレイアス
山精。代表的なニンフの一種。オレアードとも呼ばれる。
アルテミスと共に山を駆け回り、狩りをする少女たち。
エコーやカリストーもこれに属します。
ナイアス
水精。オレイアスと並ぶ代表的ニンフ。ナイアド、ナイアデスとも。
泉や川の精霊でその守り神。
男を誘惑する代表みたいなニンフで、伝承には多くの名が残っています。
また、おそらく、ウンディーネはこのニンフのイメージが元になっています。
ネレイス
海精。英名のネレイドの方が有名でしょうか。
鰭の付いた馬に乗って海中を駆け回り、船乗りを誘惑しますが、同じくギリシャの海の誘惑者、セイレーンとは全くの別物です。
ポセイドンの妻、アムピトリテはネレイス。他にもアキレウスの母テティスなどが神話に登場します。
ドリュアス
木精。英名でドライアド、仏名でドリアードとも。日本ではこれらの方が一般的。
他のニンフと違い、自分が宿る木が枯れると死んでしまいます。よって、木を傷つける者、森を荒らす者に対しては恐ろしいモンスターと化すでしょう。
また、このニンフに誘い込まれると木の中で一晩を共に過ごす事になりますが、その後、解放されると、木の中の一夜は外界の数十年から数百年だったというオチ。
アルセイス
森精。アルセイド。
森に住むニンフ。ドリュアスと違い一本の木に依存しいてる訳では無く、エルフに最も近い存在です。
むしろ、男性を誘惑する裸のエルフ。ある意味強敵。
ナパイアー
谷精。ナパイアイ。
谷間の森に住むニンフ。アルセイスとの違いが判りません。
何でしょう、薄暗いという意味で、ダークエルフに近いのでしょうか?
それともシルフィード?
ランパス
冥精。
冥府のニンフであり、冥府の乙女とも呼ばれています。
彼女たちに誘惑されても命の危険はありません。彼女たちと出会う時、貴方はもう死んでいます。