パパなんて大嫌い
パパなんて、いなくなっちゃえばいいのに!
きっとママだって、言わないだけで私と同じことを思ってる。
家に居る時は、いっつもゴロゴロしていて、テレビを見ているか、スマホいじりをしているところしか見たことが無い。
ママだけ、昼はパートで、夜は家事をしているの。もう、ママって業種を作っても良いのじゃないかしら?……と思うくらい。
だって、不公平だと思わない?
パパは、いつも言い訳ばかり。
「仕事で疲れてる」
ママだって働いているし!
「飲み会は付き合いだから仕方がない」
休みの日くらいママを手伝いなさい!
「たまの休みくらいゆっくりさせてくれ。」
ママの方が休みなく働いているし!
何で娘が父親のこと嫌いになるかわかってる?
そう言う、パパの自分勝手なところを見ているからだよ!
たまに父親面して「学校楽しいか」なんて言われても、私は無視して自分の部屋に入るんだ。
パパと話す……顔を見るのも嫌なの、存在さえ感じたくない、うんざりする。もう消えてほしい。
大きなお腹を気にしているけれど、いっつもお酒飲んでゴロゴロしてるからでしょ?自業自得だよ。
何でママは平気なのか、不思議で仕方がない。いつも「しょうがないわね」ってニコニコ笑ってる。
ママはパパに甘いんだよ!
だからパパもつけあがるんだ。
パパはママに、私のことを「俺のことを嫌ってるのかな」なんて言っているみたいだけれど、何で嫌われているのか、少し考えたらわからないのかな。
何でママはパパのことが好きになったのかな?
「パパだって昔は格好良かったんだから」
なんてママは言うけれど、信じられない。
平日のある日、コロナウィルス感染防止の影響で、パパが家で仕事をすることになった。
全く、迷惑な話、私も学校休みだし、家から出られないし、一日中、パパと同じ空間にいるなんて気が狂いそうだ……
家で仕事と言ったって、どうせ家でゴロゴロするんでしょ?考えただけでもイライラするわ。
リビングに向かう途中、パパの部屋から声が漏れ聞こえる。
「表示いたしましたグラフから、昨年度同時期と比較して、約60%の減収減益となっていることがわかります。このため……」
いつものパパの頼りない声とは違う声が聞こえた。
そっとパパの部屋のドアを開けてみたら、パソコンに向かってヘッドセットをつけたパパの姿が見えた。
「ですから、今後の方針としては……」
パソコンに向かって、堂々と話し続けている。こんな真剣な顔をしたパパを見たのは初めてだった。
いつもは情けない顔をしているくせに、何だか別人みたい。
パソコンの中の人たちも「ふむふむ」、「なるほど」って、相づちをうっている。みんなパパの意見に賛同しているみたい。
ふむ……
パパって偉いのか。
ほんのちょっぴり、すこーーーーーしだけパパのこと見直したかも。
お仕事中のパパは何だか格好いいな。
そーっと部屋のドアを閉めて、ママの居るリビングに移動する。
パパのことをママに伝えたら、ママは嬉しそうに、そして少し恥ずかしそうに笑って言ったんだ。
「ねえ、知ってる……?雄ライオンは、いつもはノンビリしているのだけれど、自分の群れを守るために命をかけて必死に戦うの。パパもライオンと一緒で、ママたちを守ってくれてるのよ。そう考えたら格好いいでしょ?」
ちょっと照れたママ、可愛かったな。
そうか、パパはライオンかあ……
はあ……
納得できないところは、いくつか、たくさんあるけれど、まあ、今日のところはママに免じて許してあげる。
パパ、これからも私たちを守ってね。
ママのこと泣かせたら私が承知しないんだから!
おしまい。
☆声優さんによる朗読はこちら
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【朗読/声劇】「パパなんて大嫌い(修正版)」揺蕩海月~たゆたふくらげ~【癒し系ボイスブック】
https://youtu.be/M46jaaqKggo
イラスト:あゆくま☆、ボイス:文月水咲、ライター:二区9