初恋
――春になると思い出す。
甘酸っぱい思い出。
ボクの……初恋の話です。
え……?
聞きたくない?!
むむう…
ま。聞かなくても話しますが。
――あれは小学6年生のとき。
小学生のとき。
僕はいじめられっこだった。
毎日毎日学校でいじめられて泣きまくり。
泣かない日の方が少なかったっけ。
上履きや体操着を隠されたり、陰で殴られたり、からかわれることなんて、しょっちゅうだった。
だから、泣かなかった日は……
「今日は、僕、泣かなかったよ!」
なんて、母さんに自慢するくらいだった。
……あ、
「情けないヤツだ。」
なんて言わないでくださいね。
これでも本人は毎日を乗り越えることに精一杯、とてもとても必死だったのです。
――それは秋の日のことでした。
やっぱり今日もいじめられて、小学6年生の僕は机に伏せて泣いていたのです。
そんな時、誰かがボクの肩を
――トントン
叩いたのです。
そっと顔をあげると、そこにはクラスメイトの玲子ちゃんがニッコリ微笑んで立っていた。
「ねぇー? サクちゃんさ? 顔を上げて笑ってごらんよ? そしたら、世界が変わって見えるかもよ?」
玲子ちゃんは、首を傾げて満面の笑顔で僕に言ったんだ。その笑みはヒマワリみたいに綺麗で、そして輝いていた。
僕が返す言葉を見つけられずにいると、玲子ちゃんは何も言わずに振り返って友達のトコロへ戻っていったんだ。今思えば、それは口ベタの僕に対する優しさだったのかなとも思う。
――何気ない一言。
――時間にしてホンの数秒。
……けれど、そのコトバは、当時の僕のココロに電撃が走るくらいに響いたんだ。
そして、その日を境に僕はどんなにイジメられても歯を食いしばって笑った。
……うん。笑ったんだ。
――どんなにバカにされてもなじられても。
辛かったけど、こんなの大したことじゃないって、ムリヤリ思い込むようにしたんだ。
――イジメられても。
――バカにされても。
『そんなの平気だよ♪』
いじめっこ達に笑ってみせた。
驚いてたね。いじめっこ。
そりゃそうさ。
今までいじめたら面白いほど泣いていた僕が、ヘラヘラ笑ってるのだから。
そして……
そんないじめっこ達も、いつの日かボクのことをいじめなくなったんだ。
――それどころか。
「サクー? ちょっと来いよー! ドッヂボールやらねー?」
「んー。今行くー。」
ん。
変わったんだ。
『いじめっこ』から『友達』に。
毎日辛かった学校生活が、楽しみなものに変わっていた。
玲子ちゃんからの、たった一言で変わったんだ。
たった一言で。
でも……
でも、トキと言うのは時には残酷で……
楽しいトキは風の様に過ぎて行った。
いじめられてる時は、あんなに待ち遠しかったのに。
ついに、『卒業』のときがきた。
今となっては寂しくてしょうがない。けれど、その時は容赦なくやってきて、そして過ぎ去っていく。
卒業式が終わり、グランドから校舎を名残惜しく眺めてると……
――トントン
誰かが後ろからボクの肩を叩いた。
そっと振り向くと、そこには、あの時と同じように玲子ちゃんがニッコリ微笑んで立っていた。
「サクー? やればできるじゃん♪」
あの時と同じように首を傾げ、満面の笑みで僕に優しく言葉を掛けたんだ。
……うん。
あの時と同じように。
「あ、ありがと……」
やっとのことで声を絞り出した僕に玲子ちゃんは、太陽のように輝いた笑顔で満足気にコクンとうなずき、タタタッと友達のトコロへ戻っていった。
そう……。
僕が教室で泣いていたあの時のように、玲子ちゃんは笑顔で走り去っていった。
玲子ちゃんからのコトバを聞いた途端。僕の目からは涙がボロボロ落ちていったんだ。
そして耐えきれなくなって、大声でワンワン泣いたんだ。
「サクー……? どうしたー?」
『元』ボクのいじめっこだった『親友』たちが、心配そうにボクの顔をのぞき込む。それを知り目にボクはワンワン大声で泣いたんだ。
うん。
前とは違う。悲しくて泣いたのではない、それは嬉し涙。
嬉し涙なんて生まれて初めてじゃないだろうか。
玲子ちゃんのあの一言があったから、ボクは変われたんだ。
『ねぇー? サクちゃんさ? 顔を上げて笑ってごらんよ? そしたら、世界が変わって見えるかもよ?』
あのコトバが無かったら、今でも僕は、イジメられてたことは間違いない。
あの頃は分からなかったけれど、今思えば、あれが初恋だったのかな。
そんな思い出。
おしまい。
☆声優さんによる朗読はこちら
YouTube たゆくらチャンネル
【朗読/声劇】「初恋」揺蕩海月~たゆたふくらげ~【癒し系ボイスブック】
https://youtu.be/M0rOq_djVIg
イラスト:あゆくま☆、ボイス:文月水咲、ライター:二区9