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「ゴキ進化」シリーズ

姫様を見て一目惚れした男達が、試験をしながら、婚約成立を目指す師走の小噺

※この物語は2019年12月現在連載中の小説『転生したらゴキブリになっていた主人公が、進化をしながら、魔王討伐を目指す過酷な物語』(略して、「ゴキ進化」)のスピンオフ作品です。本編をお読みでない方は是非、下記のURLよりお読みになってください。


本編はコチラから→https://ncode.syosetu.com/n8522er/

 その日、中央国家モナルキーアの第三皇女デイジー・マリア・モナルキーアは若干の護衛の騎士を連れて城を抜け出していた。贅沢というのも過ぎると地獄のようなもので、そんな城の中に嫌気が指していたのである。護衛を連れているだけ賢明で良かったのかもしれない。

 「ふぅ...やはり外の空気とは良いものですね、エドモンド?」

デイジーは幼少の頃からの付き合いである銀髪隻眼の副騎士長エドモンド・リンク・ガリアードに言葉を投げる。

「え、えぇ。しかし...姫様。こんな夜遅くにこれっぽちの護衛だけで外を出歩くのは...。」

「大丈夫よ、エドモンド。あなたの隊は精鋭揃いなのでしょう?それなら、これぐらいでも十分だわ。それにあまり護衛を連れているとお父様に勘づかれてしまいます。」

「それはそうかもしれませんが...しかし...。」

「それより見て、あの青白い月。あの日と同じよね。」

そんな遣り取りの末、デイジーとエドモンドはかつてのことを思い出す。


 彼らはその昔、それもまだ10歳も行かぬ頃、城の庭で同じような青白い月を見たのであった。本日12月17日ではなく25日、つまりクリスマスの日に。


 「そうですね姫様...。」

エドモンドもあのことを思い出しつつつ感慨に耽る。

「さて、そろそろ帰りましょうか。お父様に勘づかれる前に!エドモンド、明日も城抜け出すわよ。」

そんな彼を他所にデイジーは走っていってしまった。

 「えっ...あっ、お待ちください、姫様!」

しばらく呆然としながらもエドモンドは急いで護衛を向かわせ自分も走って彼女を追いかけるのだった。

 月が上っているとはいえ時間はまだ9時頃。まだ眠っていない者も多い。

「な、なんて美しい方なんだ。」

「あれって第三皇女のデイジー様だよな。しばらくお見えにならない間にお美しくなられて...。」

だとか、

「可愛いかったな、あの子...。」

「おい、彼女は第三皇女のデイジー様だぞ!?」

「そんなこと言われても可愛いものは可愛いとしか...。」

だとかの遣り取りが各々の家で行われた。

 そう、彼女はとても美しい風貌をしているのである。サラサラの金髪ロングに碧と蒼のオッドアイ。薄く淡い唇と程よく膨らみのある胸元。最後のは美しさに関係はないかもだが。

 おそらく、第一皇女のエミリア・ソフィー・モナルキーアや第二皇女のエルシー・シャイン・モナルキーアよりもよっぽど美しかったろう。


 そして、次の日の早朝。

 「第三皇女デイジー様に...!」

「お美しいあの方に!」

「お願いします、騎士長様!お通しくださいっ!少しで良いので!」

「一目拝見させていただくだけでよろしいので!」

騎士たちはデイジーに一目惚れしてしまった男達のべ100人近くを押し返すのに必死になっていた。

 「何事ですか!?」

その騒ぎにまず第一皇女のエミリアが駆けつける。

「エミリア様!是非、あなたの妹君に!お美しいデイジー様にお会いさせてください!」

そんな彼女に1人の男は言う。

「デイジーに会わせてほしいですって?どういう意味かわからないわね。何であなた達に家のデイジーを会わせなければならないのですか?お引き取りください。」

だが、気の強い彼女はそう答えるのみであった。 

 「そこを何とか!少しで宜しいのでっ!」

「なりません。」

「お願いします。」

「なりません。」

「一目だけで...。」

「お帰りください。」

男達の言葉を頑なに断り続けるエミリア。

 そんな中、デイジーが護衛を連れて現れた。

「デイジー、出てきてはダメじゃない!」

「すみません、御姉様。ですが、私が出なければ引き下がらなかったでしょう?」

「そうだけど...。」

デイジーの言にはエミリアも渋々納得。

 「皆さん、お聞きください。私は現在婚約相手を探しております。そこで、今ここで募りたいと思っております。」

続いて、とんでもないこどで言い始める。

「何を言っているの、デイジー?この人たちはあなたの美しさ以外何も知らない人たちなのよ?」

エミリアは言うも、デイジーの意思は固い。

「そうですが、本当に婚約相手は探していましたし...。」

「わ、分かったわ。好きにしなさい。」

その決心を感じたか先にエミリアが引き下がる。


 「さて、婚約相手を募ると言いましたがもちろんただでというわけにもいきません。只今より計三回の選抜試験を行います。その全てに合格をした者とお付き合いしましょう。」

デイジーはそう言い、騎士を下がらせる。それから、

「まずは第一試験です。私はお力のある殿方をお慕いします。ですから、私との生活を望むのなら力を示してください。」

と続ける。

 「力を示せとは具体的には?」

1人が相槌を打つと、デイジーは

「簡単です。殺し合いをすればいいのですよ。」

とニヤリと笑む。それは別に悪巧みをしているという感じは無くて、むしろ何かを見透かしているかのようであった。

 「そんなこと出来ねぇよっ!」

「フンッ、これは第一試験合格だな。」

「絶対に受かってやるぞ!」

刹那、あちこちでガヤガヤとざわつく。そんな騒がしさの中、デイジーは

「参加不参加は自由です。が、不参加のものは私とお付き合いする覚悟がないと見なします。それでも宜しい方はここにお残りください。参加する方は武器を持って闘技場へ集合してください。私は諸事が済み次第、すぐ向かいます。」

と言う。約8割は闘技場へ、残り約2割がそこに残る。

 そして、第一試験の合格者が告げられた。

「おめでとうございます。第一試験の合格者はあなた方です。」

デイジーの目の前にいるのは城の前に残った20人ほどの男達。

「私はお力のある殿方をお慕いすると言いましたが、それ以前に正義の心をお持ちの方をお慕いします。いくら力をお持ちでも、それを私欲のために殺傷にお使いになるお方とはお付き合いすることはできません。ですので、皆さんを試すようなことをしてしまいました。すみません。」

彼女は同じ文面でに不合格を告げる。


 「さあ、第二試験に向かいましょう。本日は12月18日。ちょうど、クリスマスイブの一週間前です。第二試験ではその一週間の間に私の望むものを手に、零時の鐘がなり終わるまでに城の前に来てください。期間内に持ってきたものを合格とし、第三試験の面接に移ります。」

その20人ほどにデイジーは説明を始める。


 「ちっ、何でこの俺が不合格なんだよ!こうなったら、あの人を殺してやる。そうすれば、俺の物にっ!」

なんてサイコパスな考えを持った弓使いがそんな彼女の脳天を矢で狙う。だが、その前に...。

「何をしているんですっ!?」

と第二皇女エルシーが現れる。

「第二皇女かっ!邪魔するなっ!」

男は彼女に反発して弓で射抜かんとする。対するエルシーは

「『ロックシュート』っ!」

と冷静に唱えて、鳩尾に一発岩をぶつけた。

 もちろん、その後皇女暗殺未遂で男は牢獄に放り込まれることとなる。刑期は無期である。


 「持ってきていただきたいのは最果ての幽霊都市にあるというレインクリスタルです。青く輝き雫のような形をしているのが特徴です。」

そんな惨事も他所に、デイジーは欲しい物を伝える。その刹那、男達は走り出す。最果ての幽霊都市が何かも分からず、ある者は廃墟と化したドワーフ村へ、ある者は既に滅びたレギルス帝国の跡地へ、またある者は真の最果てユグドラシルに。

 しかし、そのどこにもレインクリスタルなるものはない。馬を使ったとは言え、そこに辿り着くのに既に2日が経っている。帰りも同じであることを考えれば3日ほど猶予がないのである。

 だが、それでも数人は零時の鐘が鳴るまでに城の前に現れる。

「ハァ...ハァ...。」

鐘が鳴り始まるのを聞いて急いだのか息を切らした者もいれば、

「へっ...。」

余裕で城に来て澄まし顔の者や、

「お持ちしました。」

とせっかちにも石を差し出す者もいる。

 さっき、数人と言ったが合格者は6人。およそ1/4が第二試験で脱落したこととなる。その脱落者は何をしているかと言えば、期限も忘れて探し続けていたり、帰途で諦めてしまったり、あるいは単純に間に合わなかったり。

 そんなこんなで第二試験も終わり、早速最終試験の面接へと移る。


 1人目は余裕の顔をしていたというロナルドという男。 彼は聞いてもいないのに石を手に入れた経緯について饒舌に語り始めた。

 「デイジー様、お聞きください。それは数日前のことです。私は最果ての地へ急いで向かい、高い壁に囲まれたゴーストタウンを見つけました。そこは廃れてはいるはずなのに、何やら不思議な力を感じ取ったのです。その力というのも魔力と違う何か...もしかしたら神力と呼ばれるものだったのかもしれません。私はその力を辿り1つの廃屋に辿り着きました。場所は街の北西。そこは大変廃れてはおりましたが、豪邸と言えましょう。豪邸になら間違えなく石があるだろうと思い私はその廃屋を探索します。すると、早速先程差し上げたレインクリスタルを見つけたのです。私はそれを手に持ち、急いでまたこちらへ向かったとのことです。」

 男はこんな風なことを言った。

 「なるほど、ご苦労様です。ですが、嘘をおっしゃるのはよくありません。」

「な、何をおっしゃているのですか!?私は確かに...。」

「私は左目に魔眼を持っております。種は精神系統メンタルアイの『洞察』です。『マインドライアー』を施しているようですが無駄ですよ。右目には『催眠』の魔眼もございますので解放すれば嘘と認めさせることもできますよ。」

口答えする彼もデイジーにそう言われて引き下がった。問答無用で不合格てある。

 続いて、バリスと言う巨漢。

「どうか私めと婚姻を!」

彼はそれだけ言ってレインクリスタルを手渡す。

「確かにこれは本物...ですが...。」

『洞察』の魔眼の解放はまだ続く。

「あなたは色事のためだけに私と婚姻するつもりですね?」

と彼の心を見透かしてしまった。どこの世界にも、あるはどこの街にもそういった卑猥な男はよくいるものだ。しかもこの男はさらにタチが悪い。

 「おらぁぁぁっっっ!」

バリスは突如、デイジーに殴りかかるのである。そこへエドモンドは割って入り、その拳を片手で止め地面に叩きつける。

「どうしましょうか、姫様?やはり、牢屋に閉じ込めますか?」

それから、彼が問うと彼女は

「いいえ、城への出入り禁止で十分でしょう。その方の家に帰してあげてください。」

と返す。

「分かりました。姫様の御慈悲に感謝をするんだな。」

そう言ってエドモンドはバリスを引きずり城の外へと放り出した。

 その後、また1人、また1人と第三次試験に落ちてゆき(落ちたのはそれぞれ営利、嗜虐が原因である)、ついに残り2人となる。 

 「是非、私と婚姻を!」

内1人のレイニアは婚姻をただ求め、デイジーも

「残り1人の言動を見て考えましょう。」

と初めて検討に。続くディーンも

「私は誰よりもあなたを愛せるとの自信がございます。」

と婚姻を求め、それが嘘でないことを魔眼で悟るとコクリコクリと頷き結果を告げる。

 「それでは、第三試験合格は...ディーン様。あなたにします。」

と。ディーンの自身への愛がレイニアよりも深く、何よりも彼に一目惚れしてしまったからだ。「運命」というのは本当にあるのかもしれなかった。


 そして、その日の夜。眠っていたデイジーは急いで起き上がり、

「エドモンド、起きて!今日も城を出るわよ!ディーン様と広場のクリスマスツリーを見るんだから!」

と隣の寝室にいるエドモンドを起こそうとする。あまりにも激しく揺らすものだから彼も飛び起きて

「ひ、姫様っ!?承知しました。すぐ準備に取りかかります。」

と言ってから隊を集める。

 やがて隊を集め終わると、彼らは松明のみを手に避難用に用意された地下通路から城を抜け出す。出たのは街のど真ん中だが内側からしか開かないので侵入される心配はない。その通路は以前抜け出したあの日も使った場所であった。

 「エドモンド、雰囲気を壊すのは嫌だから護衛の皆さんを私の目が届かない物陰にでも遣ってね。」

先日教わったディーンの家に向かいながら、デイジーは言う。

「はい...わかりました...。ですが...。」

「私なら大丈夫よ、エドモンド。もう子供じゃないもの。それに、御姉様に昔から魔法を鍛えられていたのは知っているでしょう?自分の身ぐらい自分で守れるわ。本当に危なくなれば『テレポート』であなたの元に向かうので。」

承知するもどこか不満げなエドモンドに彼女は言う。そう言ってくれるだけでよっぽど安心感があるのであった。

 と、そんなこんなの内にもうディーンの家の前。

「ディーン様ぁ?いらっしゃいますかぁ?」

デイジーはコンコンとドアをノックしてディーンを呼ぶ。すると、すぐに彼は出てきて

「こんばんは、デイジー様。」

と挨拶をする。対して、

「ええ、こんばんは。ディーン様、これからはデイジーで構いません。私もディーンとお呼びしますので。」

と彼女。

 その瞬間、エドモンドは近くの物陰へと隠れる。

「で、ではディ...ディーン。広場へ向かいましょう。」

それを見て少し顔を赤くしながらディーンの手を握る。

「は、はい。」

ディーンも手を握り帰し歩いて広場へと向かう。

 そこには金属製のボールや輝く宝石で作られたライトなどで飾られた巨大なマツの樹があった。

「綺麗ですね。」

「はい...。」

デイジーの言葉にディーンは「ツリーも綺麗ですが、あなたの方が綺麗ですよ」なんて臭い台詞を吐くことなくそう返すのみ。

 その時。空から雪が降り始める。ホワイトクリスマスというのはこの国ではとても珍しいものである。どうやら彼らは相当運が良いらしかった。ロマンチックとはまさにこのことを言うのだろう。

 「デイジー...。」

「ディ、ディーン...。」

不意に二人は向き合い、白い息を吐きながら頬を紅潮させて目と目を合わせる。

 

 そうして2人は互いの愛を確かめ合うように口付けを交わすのであった。

◆「ゴキ進化」との関係◆

「ゴキ進化」(以下、「本編」と記す)の舞台とはまた別の異世界。言い換えれば並行世界であり、ゲオルギオスがキリスト教布教をした頃から分岐、こちらでは受け入れらたためクリスマスの文化も生まれた。ただし、本編と一致する部分の方が多い。時間軸は違えどたくさんある異世界、その全てが並行世界とも呼び得る。


◆第一・第二・第三・第四皇女◆

第一皇女のエミリアは次期女王の第一候補で気の強い性格、しかし王族随一の家族思い。第二皇女のエルシーは次期女王の第二候補で色々と鋭い性格、故に王族随一の女戦士。第三皇女のデイジーは次期女王の第三候補で優しい性格、しかも王族随一の美女。第四皇女のオリヴィアは内気な性格、あと王族随一の読書家。ちなみに、皇子は2人いてそれぞれ次期国王の第一、第二候補。


◆最果ての幽霊都市◆

これは本編でいうグリモア。実はレインクリスタルは本編のグリモア領主もたくさん所持している。ちなみに、ドナルドがでっち上げで作り出した街は本編でいうプロスペレ。なお、北西にあった廃屋というのも本編でいうプロスペレ領主の邸宅。


◆魔眼◆

先天的に神力(魔力とは違う不思議な力)を宿した目。神力は特異性があるため特定の効果しか見せないが、使用に魔力は不要。その系統アイタイプ効果パールカラーも様々でデイジーのように両目に異なる魔眼を持った者も稀にいる。ちなみに、登場していた『洞察』とは嘘も誠も含めて人の本質を見抜ける魔眼、『催眠』は見つめるだけで真実を吐かせたり眠らせたりなど軽い精神掌握を行える魔眼。学名的なのがある模様で『洞察』は「インサイト」、『催眠』は「フィンガーマインド」とも呼ばれる。


◆参考文献◆

王女の美しさや宝珠レインクリスタルの回収、ドナルドが饒舌に語ったシーンなどについては「竹取物語」より着想を得た。その他の点についてはオリジナルで考案。

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