自己紹介の混乱
教室内がざわざわとする中…一応貴族やお金を沢山持っている商人の子息、令嬢なのだからざわざわすると言ってもささやかなものだか、小さな声も重なれば騒音になる。
騒がしさに少し眉をしかめたくなる気持ちを抑え、ユリウスに入れてもらった紅茶を静かに飲んでいた。
そうしたら、先程オレンジ以下略の口をふさいで遠くの方で話し合いをしていたユリウスがようやく戻ってきて、疲れたのかため息を吐いていた。何があったのだろうか。
でも、あまり聞かない方がいいと本能が告げているので、聞かないでおく。
「ユリウス、お帰りなさい」
お疲れ気味のユリウスを労るような微笑みを心がけ、声を掛けた。そして紅茶を一口。
少し冷めてしまっているかもしれない。冷めると美味しさは損なわれるのだが、ユリウスは冷たくても美味しく飲める入れ方を熟知しているので、文句は一つも出ない。
いつもどうして冷たいのに美味しいのだろうと疑問に思ってしまうくらいユリウスはプロの腕前だ。
もう、私はユリウス無しでは生きて行けない。絶対に王太子妃になったとしても城へユリウスを連れていこうと心の中で誓った。私も紅茶を入れることが出来るには出来るのだが、やはりユリウスの腕前には太刀打ち出来ないのだ。
もう、紅茶の師匠と呼びたいくらいだ。あぁ、いつも美味しい紅茶を入れてくれるユリウスには感謝しかない。
紅茶をもう一口含み、口の中に広がる香り豊かなカモミールをじっくりと味わった。
思わず、ほっとため息をついた。いつ飲んでも素敵だわ。なんて素晴らしいんでしょう。
「お嬢様、お嬢様!」
少し強く呼び掛けられた。どうしたのだろうか。
「お嬢様ご自身の世界に入り込まれております」
あぁ、ユリウスは私が紅茶ワールドに入ってしまっていると教えてくれたのね。ありがたい。
そうでもしないと私は永遠と抜けきれないだろうから。
「えぇ、ごめんなさいね。いつも素敵な紅茶をありがとう」
少ない言葉でも、自分の溢れるような感謝の気持ちが伝わるように、心を込めてユリウスに告げた。何故か、無性に気持ちを伝えたくなったのだ。
「……、そう言って頂けるだけで自分がお嬢様に使えていて良かったと思うことが出来ます」
私にかしずいて微笑み、少し甘さも入ったユリウスの言葉に、歯痒くもなりながら、微笑みを返した。
こんなことをされたら、普通の令嬢など一瞬で心を打たれることだろう。
私は耐性がついているからいいものの、やはり少しはときめいてしまう。うちのユリウスは優秀すぎて困ってしまう。あ、勿論良い意味で。
「これからも、お嬢様の為に、昇進致します」
そう言って一礼をしてから、丁度空になったティーカップを見て、お入れ致しましょうかと聞いてくる。
どうしよう、今日はなんだか紅茶を飲み過ぎな気がする。ペースを考えずに飲んでしまった自分に悔いる。
あと、あと一回だけなら許してもらえるかしら。いいわよね、ね?
そう心に言い聞かせ、ユリウスから紅茶のおかわりを入れてもらった。
その時丁度先生がやって来た。もう良い頃合いだものね。そう思いながら姿勢をただし、前を向いた。隣の席がユリウスと言うのも新鮮で、顔が綻ぶ。
さすが良家の子息、令嬢と言うべきか、先生が入って来た途端に辺りが静かになった。
「これから一年このクラスを受け持つことになる、ムーン・クロレイシスだ。よろしく頼む」
自己紹介をしたクロレイシス先生は背が高く紺色の髪で、眼鏡を掛けていた。たしか、クロレイシスと言えば伯爵家の中でも名家の家柄ではなかったか。
学校とは言えどもやはり立場もあるわけで、先生も上位貴族の人が多いのかもしれない。
「では、前から横に自己紹介をしていってくれ」
それから、順に自己紹介が始まり、知り合いもいれば名前しか知らない人もいた。私は最後の方なので、気を抜きながらもどんなことを話すか考える。
そうしているうちに、オレンジ以下略の番になった。
「私の名前はミレイ・レッカー。特待生よ。まぁ、この世界は私の為に創られたゲームの世界なんだから、ヒロインの私の恋を邪魔しないでよね。特に、ユリウス様は私のものなんだから!未来の隣国……」
「僕の名前はユリウスです。マリーローズ様の従者をしております。僕とレッカーさんは特に関わりなどありませんので、特におきになさらないで下さい。よろしくお願いいたします」
なんだかユリウスが強引にレッカーさんの自己紹介を止めた感じがしたけど、これ以上喋らすと面倒なことになりそうなので、良かったかもしれない。
でも、そのせいでクラスの人達を混乱させてしまった。ざわめきが広がる。ここは私が何とかしなければ!
使命感に刈られた私は、騒がしい雰囲気をうち壊すかのようにおしとやかに立ち上がった。微笑みを交えて。
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