紅茶のためならサボれます
あれから無事に予備の制服に着替えた私は今日一番の最悪な事態にある。それは何かと言うと……入学式には紅茶を持っていってはダメだというのだ。
紅茶がなければ、私、何を生き甲斐にしていけばいいの?…たかが入学式だと思わないで欲しい。
次々に続くお偉い様の言葉を紅茶なしで聞かなくてはいけないなんて、もう……私入学式にはでないわ。
「ユリウス、残念だけど、入学式はサボることにするわ」
ユリウスは苦笑混じりに「マリーローズ様の仰せのままに」と言った。ユリウスが私に甘いから私が入学式をサボってしまうんではないか?と今結構本気で考える。
ユリウスは私に対して基本優しいし全面的に私の味方だからのびのびと紅茶を飲んで頑張ってきたけど、これじゃあ駄目なのかしら……。
私は王太子の婚約者だから、この学園を卒業したらどうせ結婚して王太子妃になる未来しか待ってないし、いつまでも甘えていてはいけないって分かってはいるのに……私は弱い。
完璧な令嬢になるには、約束された条件がないとなれないし、それをとられればただの、うつむいた弱い令嬢に戻ってしまう。
王太子妃になったところで、絶対に彼は優しくないし、王宮内に味方は誰一人としていないだろう。早く、強くならないと。
「マリーローズ様、どうかなさいましたか?」
そこで私は紅茶を持ったままうつむいて止まっていたことに気づいた。紅茶を一口飲むと、もう紅茶は冷めてしまっていた。
「いえ、何でもありませんわ」
私は悟らせまいと笑顔で取り繕った。ユリウスは少しだけ眉を潜めた。……もしかして、落ち込んでいたのがばれた?まだまだ、私は完璧とは程遠いな……。
「僕が何年マリーローズ様の従者をしていると思っているのですか。悩み事があるなら、一人で抱え込まずに、僕に話して下さいね」
ああああ!こう言うことをユリウスが私に言うから、私は彼を頼ってしまうんだわ。甘えはいけないのに。綺麗な紅茶の水面を見つめながら、私は奥歯を噛み締めた。そして、彼に笑顔を向ける。
「ありがとう」
それだけを告げて。
「…………礼など、要らないのです」
ユリウスは、私に何かを言いたそうだったが、私に微笑んで、温かい紅茶を入れてくれた。彼は気が利く。紅茶…美味しいな。
◇◆◇
入学式も終わり、あとは前から決められているクラスへ向かい、軽く説明を聞いて帰りだ。
「ユリウス、さぁ行きましょう」
「はい、マリーローズ様」
温かい紅茶を飲んで気分が上がった私は、今日起こった出来事などすっかり忘れていた。けど、それを思い出すことになる。
「え、ユリウス様と同じクラス?!やったわ!これってもしかして、神様から私へのプレゼント?ありがとう神様」
何か、少しヤバめの物を見てしまったかもしれない。あの人は、先程私の紅茶を犠牲にした、オレンジ以下略ではないか。
まさか、同じクラスだったとは。商人の娘などは、このクラスに入ることは出来ない。だとしたら、彼女はやっぱり特待生だったのか。
「そこの貴女、うちのユリウスを何故知っているの?」
私が彼女にそう聞くと、彼女は小馬鹿にしたような態度を取った。
「え、貴女もしかして知らないの?この国の王太子の婚約者なのに?」
そんなことを言われても、馬鹿にされる要素が見当たらない。
「まぁ、悪役令嬢だものね。だって彼は、隣国のお……」
「ちょぉっと黙りましょうかーー。そしてこっちに来てください」
「んんんんん!!」
オレンジ以下略は何を言おうとしていたのだろう……。隣国がどうかしたのだろうか。
まぁ、うちのユリウスには関係の無いことか。私は、ユリウスに口を塞がれたままずるずると引きずられていく彼女を、紅茶を啜りながら見守った。
ああ、やっぱり美味しいわ。
お読み頂きありがとうございます。何ヵ月か放置してました……すみません!!更新頑張ります。