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暖かな紅茶


部屋に閉じ籠っても、誰も心配してくれないし、きっとユリウスも私が部屋に閉じ籠って鍵をかければ諦めて帰って行くだろう。いや、そもそももう諦めたかもしれない。


暇だから、昔お父様に貰った本でも読もうかな。私の部屋にはこれくらいしか無いから、することと言えば、白紙と教科書を使って一人で勉強するか、鏡を使ってお辞儀の練習や笑顔の練習くらいしか出来ることがない。


と言うかはっきり言えば私の部屋にはベッドと鏡と簡易な机、そして白紙と教科書とペンくらいしかない。


ドレスは朝起きたら置いてあるし、普通に過ごせるからまだいいけど、二人の部屋に比べたら天と地ほどの差だ。


本を呼んでいると、ドアがノックされた。まさか……ユリウス?


「マリーローズ様、ドアを開けてください」


私は沈黙した。黙っていればいずれ去っていくだろう。そう思っていたら、もう一度ドアがノックされた。


「マリーローズ様、紅茶をご用意したので、開けてくださらなければ、せっかくの紅茶が冷めてしまいます」


ぐっ……そんなことを言われては開けずにはいられないではないか。わざわざ私に…紅茶なんていれてくれたのか。そんなの初めてで、というかユリウスのすることや言うこと、全てが初めてで、戸惑ってしまう。 


私は、鍵を開けた。   


「どうぞ、お入りください」


ユリウスがワゴンを持ってやって来た。ユリウスは黙ってティーカップに紅茶をいれると、私に差し出した。


「ダージリンです」

 

ユリウスは笑顔でそう言った。私は、恐る恐る受け取った。


「……マリーローズ様、どうして先程は逃げだしてしまったのですか?もしかして僕が、何かいけないことを言いましたか?」


ユリウスが心配そうな顔をして私に尋ねた。ユリウスは私の事を見捨てた訳ではなかった?


「理由を言ったら、ユリウスは私を見捨てますか?」 


「え?……見捨てる?僕はマリーローズ様にそんなことはいたしません」


真面目な人なのかな。


「でも、私は駄目駄目だから」


「そんなことありません!マリーローズ様は、笑顔がお可愛らしいですし、見下した態度も取りませんし、なぜあんなにも言われなければならないのかが分からないくらいです」


笑顔が、可愛い…。幻聴だろうか。そんなこと言ってくれる人はいなかったから、驚いてしまう。


「そ、そんな……私、落ちこぼれですし…」


「誰がそんなこと言ったんです!?マリーローズ様はご立派な方です」


「嘘はつかなくていいんですよ?」


「だから……、マリーローズ様は、素敵な方です。さっき申し上げたことも、全て本心です。そして、僕はマリーローズ様の味方です。あと、一旦紅茶を飲んで落ち着いて下さい」


全く落ち着かない心で、紅茶を一口すすった。こ、これは……


「美味しい、です」


紅茶を飲んだだけなのに、心が落ち着く。心が満たされる。なんて素敵な飲み物なんだろう。


「このダージリンには、疲労を和らげてくれる効果があるのです。マリーローズ様はお疲れのようでしたので、僕がいれたものですが、お渡ししました」


「お気に召されたようで嬉しいです」


「素敵です!」


この素敵な紅茶を、ユリウスがいれたの?素晴らしい。心も穏やかな気分になったし、……凄い。


「マリーローズ様の努力はきっと報われます。僕も味方です。精一杯お手伝いさせていただきますし、紅茶もいれます」


紅茶!味方!ユリウスは本当にいい人だ。私はいい従者を持った。紅茶に毒も入っていなかったし、これほどまでに尽くされたのは初めてだ。しかもユリウスは、私を認めてくれた。


「ありがとうございます!」


「それとマリーローズ様、僕に敬語は使わないで下さい」


ユリウスがピシッと言った。


「は、はい」


「違います!」


「わ、分かった」


私がそう言うと、ユリウスは満足したような笑みで「これから僕に敬語を使ったら紅茶は抜きですからね」と言ってきた。ユリウスは案外意地悪な性格なのかもしれない。


「頑張ったらほめてくれる?紅茶を沢山入れてくれる?」


「ええ、勿論です」


マリーローズ·エレスディスト、紅茶のために、従者にほめてもらうために、……人生頑張ります!





お読みいただきありがとうございました!

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