人生に参ったときにはニンジンをお食べなさい
そろそろシリアスが書きたい。
で、結局、世界の滅びなんてものは昨日の夢のように消え去って、ユーディストも同じ旅をする仲間になった。
彼女が付いていくのは主にカナディリアの影響が大きい。
ミルカリス村の宿屋の飯は不味いとカナディリアが文句を垂れたので、今日は俺が朝食を作ることになる。
「今日の朝食は……何よこれ! 泥じゃない!」
最初に口を開いたのはカナディリアだった。
俺が作ったのはメニューは朝からカレー。この世界にある香辛料を使い試行錯誤を一発で成功させた異世界にはないメニューだ。
「まぁ、そういうな。これはカレーだ」
「何よ! 泥よ! 人の食べ物じゃないわ!」
「カレーという食べ物を! コクと香りが素晴らしい人類の叡智なんだぞ!」
「女王に泥食べさせるなんて反逆罪であなた処刑よ! 一緒に処刑しよう! ユーちゃん!」
「分かった。カナちゃん」
ユーディストは俺にゲートを使い瞬時に蹴りを、もちろん躱す。
「お前ら! 飯を食ってる時ぐらい静かにしろ!」
「これは飯ではないわ! こんな泥! 食べ物がもったいないわよ!」
こいつら、人がせっかく作ったカレーを泥呼ばわりして、本当に頭がおかしいのではないか?
「ハムハム……初めて食べた味ですけど普通に美味しいですね」
アイーデは笑顔で食べていた。
「……うん、このコク。キングニンジン、この深み……ユウシャニンジン! そして……隠し味にニンジンはちみつを使っているのですね!」
アイーデは味覚がいいのか全部見破られる。
「それに普通に入っているマッハニンジンも! 分かりましたよ! カレーというのはニンジンなのですね!」
そして一つ気付いた。
「カナディリア、もしかしてお前ニンジンが嫌いなのか?」
「……あんなもの、食べ物じゃないわ!」
「カナちゃん好き嫌いあるんだ。私はジャガイモが嫌い」
ジャガイモ嫌いな奴いるのか。
「ニンジンは美味しいよ! カナディリアちゃん!」
「なんで、あんなもの!」
「何か嫌いな理由でもあるのか?」
カレーに入っているニンジンを見つめ続ける。いや、ニンジン美味いだろ。
「それは……」
~(カナディリアの回想)~
私の両親が幼い頃に流行病になり治す為の金として奴隷商人に売られた。
毎日一人で重たいものを持たされ、食べられるものもパンとスープとジャムパン。
暗い世界で一人で閉じこもり重労働の日々を過ごす。
数年後に私はある街に訪れ、ここでも重労働させられるのだろうと思った。
その街にいた二人の男女の同い年くらいの子供がいた。
「あははは! 最高だぜ!」
「最高だね!」
男女は仲が良くきっと将来二人は恋人になるのだろうと私は思った。
男の子は突然袋からニンジンの花束を出したのだ。
「僕は君が好きなんだ! この想いを! ニンジンを受け取ってくれ!」
「……君とは友達でいたかったの、だから、ごめんなさい! これからもずっと友達でいてほしいの」
それは拒絶でありあくまで現状維持だ。女の子にはその気はなかった。
「それに私ダイコンのほうが好き」
恋人ではなくただの友達。それは男女にとってとても悲しいことなのだろう。
「嘘だ……ニンジンが!」
そういいながら女の子は男の子を放置して去っていく。
「ニンジン……ニンジン!」
そういいながら、やけくそになった男の子は女の子をその花束ニンジンで殴った。
「どうせ僕のものにならないなら! ニンジンのものになれぇぇえ!」
その後近くにいた大人に取り押さえられる。
女の子に怪我はなかったが少しひりひりしたそうだった。
そう、だからこそニンジンは……
~(カナディリアの回想終わり)~
うーん、意味が分からない。
「だから、ニンジンは二人を引き裂いてしまう悪魔なのよ!」
なんか最初両親の話するかと思ったからいい話かと思ったけど何でもなかった。
「カナディリアちゃん。そんなことないよ」
アイーデは下がらない。
「カナディリアちゃんは魔法って便利なものだと思うよね」
「えぇ、思うわ」
「でも、魔法は人を傷つけたりもできる、相手に嫌な思いだって出来たり人を引き裂いたりもできるの、でもカナディリアちゃんは魔法使うよね。でも正しく使えている」
「うん……」
「だから使い手次第なの、魔法もニンジンも……魔法を悪に使う人もニンジンを悪に使う人もいる」
魔法とニンジンが同じとでも言いたそうだな。
「でもキリングさんはニンジンを正しい方向に使っている。素敵なことと思わない?」
「でも……」
「食べたことないなら、食べてみようよ。ニンジンは美味しい食べ物なのだから!」
「うん……」
そうしてスプーンでコクが広がるカレーを掬い上げるカナディリア。
その時だった。
「待てい!」
宿屋のドアが乱暴に開かれる。
「貴様! ニンジンと言うたか! ニンジンを寄越せ! 全て俺のものだ!」
骸骨の男。装備だろうが全く突然現れてカレーを盗んでいく。
「あ……」
あまりに唐突だったこともあるが何もできなかった。
「……ニンジン! 私のニンジンはどこに行ったんですかあああああああ!」
そしてアイーデが壊れる。
~~~
っで、俺達はミルカリス村にはニンジンを見つけると奪う盗賊王がいるらしい。
盗むものはニンジン。どうやら俺達は被害者みたいだ
「……許せない。人のニンジンを盗むなんて! 人に恥ずべき行為です! 反吐が出るくらい許しがたい!」
ニンジンを盗まれたなのになぜかアイーデは激情に達している。
「え、アイーデ?」
「に、ニンジンが盗まれたくらいじゃない……」
その言葉は彼女には禁句だろう。
「いえ! カナディリアちゃんがニンジンを食べようとしていたのに! ニンジンは……ニンジンは!」
「……アイーデさん。こんなキャラだっけ」
「俺も初めて知った」
~~~
っで、アイーデを筆頭にニンジン泥棒を捕まえる旅が始まる。
ミルカリス村にはニンジン畑はない。つまり痕跡を辿るのはほぼ無為に等しい。
「一から探すことになるか……」
「さっきの人の拠点までゲートで飛べるよ」
ユーディストの魔法ほんと便利だな。
「行きましょう! 今行きましょう! 倒しましょう!」
「ゲート」
何もない空間にニンジン泥棒の姿が見える。
「私が先に行きます!」
アイーデはすぐに走り出し空間を超える。
「……私はめんどくさいから行かなくていい? ニンジンとかどうでもいいし、カナちゃんと遊んでたい」
まぁ、俺とアイーデでもどうにかできるだろう。アイーデの暴走に付き合うのは俺だけでいいか。
「あぁ、適当にしていてくれ」
俺も空間を超えていく。
そこはニンジンが大量にある、一つの部屋だった。
ニンジン以外になにもない。
「ここは……」
「わぁ……うふふニンジン……いいなぁ、こんなにニンジン……素敵」
興奮状態だ。どんだけニンジン好きなんだよ。
「落ち着け! ニンジンに惑わされるな!」
俺は咄嗟にアイーデの手を引く。一本のナイフが飛んできたのだ。
「……つけてきたか……ここが知られたからには! 貴様ぁ!」
骸骨の男が現れた。
「ニンジン……っと、あなたは私たちのニン~ジンは愚か村の人のニンジンっまで盗むなんて最低です!」
アイーデは正気に戻りながら骸骨の男の前に立つ。
ニンジンの言い方!
「うるさい! 全てニンジンは俺のものだ!」
問答無用でアイーデに襲い掛かる。
俺が前に出て交戦。
「なんだ貴様!」
意外と動きが巧みで結構な手練れである。
しかし、骸骨はいったん攻撃をやめ距離をとった。
「泥棒のくせに結構強い……アイーデ気をつけろ」
「私はパンチウィザードです! ベリアルウォー!」
全く知らない魔法を唱える。
「ほほう、パンチウィザードか……あとニンジン愛がすごい。貴様俺の女になる気はないか」
「そんなつもりはありません!」
パンチウィザードの一撃を放つが受け止められる。
「まあ、所詮は冒険者ぐらいの魔力だ」
「お前はただの泥棒だろうが」
「そう、盗賊さ……ニンジンだけを盗む盗賊、ライジンとは俺のことだ」
ライジンというらしい。
「どうしてニンジ~ンを……! ニンジンは美味しい食べ物です」
「俺は世界全てのニンジンを食べたいと思う。食べて食べて! ニンジンマスターになるのだ!」
「そんなこと! させません!」
~~~
っで、アイーデは特訓に特訓を重ねて、ライジンとニンジンを使った料理のバトルとなる。
「ふ、逃げずに来るとはずいぶん恐れ知らずめ」
俺はアイーデにカレーの作り方を教えた。正直料理は趣味じゃないので適当に教えました。
「逃げるわけがないです。どっちがニンジンっっ! 愛があるか勝負しましょう!」
俺が司会を務めることになる。
「それでは、天下統一ニンジンを決める大合戦! 勝敗を決めるのは三人。近所にいたおばさん! ニンジン嫌いのカナディリア! それと隣町の居酒屋の店長さんだ」
「あらあら、料理対決に呼ばれるなんて……今日はどういった料理が食べられるのかしら」
そういい、近所にいたおばさんは微笑ましく笑っている。
「なんでニンジンの対決に女王が呼ばれなければならないの! こんなの国家反逆罪だわ!」
「アイーデの料理だけは食べてやれ」
「正直なんで呼ばれたか分からないんだが、あんた……本当にニンジンが居酒屋メニューで人気になるのか?」
「それは食べてみてから決めてくれ」
納得言っていないようだが、まぁいいだろう。
「はじめ!」
その声でアイーデは慣れない手つきで香辛料やニンジンを切ったり切ったり、ニンジンを煮込んだりニンジンを見つめて微笑んだり、ニンジンをつまみ食いしたりした。
そして料理は出来上がる。
先にできたライジンのほうは……なんだこれ。
「高級ロイヤルニンジンを使ったニンジン。ニンジンの味はニンジンだけで十分に成立するのだ」
料理しろよ……
「おっと! 自然の味そのままだ!」
「……ただのニンジン食べるのやだ」
そもそもカナディリアはニンジン食べたことないのではないか。
「あらあら、ニンジンなのに甘いわね~ニンジンはそのままでも美味しいということが十分分かったわ。それにお肌もすべすべに……」
「あぁ、意外とこれ酒に合うかもな。酔っぱらったおっさんぼったくるのにはちょうどいい」
嫌な居酒屋だな。
カナディリアは食べるのを拒否している。ニンジンそのまま嫌いな人に出すのは俺でもどうかと思うぞ。
「……食わぬか! ならば俺が食べる!」
「いいなぁ……ロイヤルニンジンっ! 私も食べたい!」
アイーデは相変わらずニンジンに目がない。
「それで、アイーデの作ったのは……皆さんは知らないかもしれませんがこれはカレーという食べ物です」
「カレー? 確かにいい匂いはしていたはね」
やはりこの世界にカレーという食べ物は存在していない。改めて別世界なのだと気づく。
「あらあら、確かに食欲そそる香りがするね~」
「キリングさんに教えてもらった後一人で練習に研究を重ねて作りました。カレーです!」
「……た、確かにいい匂いするけど……ニンジンが!」
カナディリアも匂いに釣られている。
「……あらま! これはなんておいしいの! どんなニンジンを使ったのかしら!」
おばさんは立ち上がりアイーデに問いかける。
「いえ、これは普通のニンジンンンッ! ですよでもカレーというのはニンジンッ! のおいしさを最大限に高めてくれる食べ物なのです」
「おお……これはすごいな。確かにやみつきになる! 定番メニューに入れてもいいくらいだ……」
店長もスプーンが止まっていない。
「うぅ……あむ……」
カナディリアは嫌がりながらカレーを食べる。
「……うぅぅ……! ちょっと待って何この美味しい食べ物!」
「ニンジンンンッ!」
「カレーだ」
さっきからなんでこんなニンジンの言い方おかしいんだアイーデ。
「この無数に使った香辛料もほんとにすごい……おばさんロイヤルニンジンを食べた時より若返っちゃうわ! それにしてもライジン! あなたの作ったニンジン料理は! ゴミだああああああああああああ!」
その言葉にライジンの心は折れてしまう。
「……嘘だ……俺はニンジンを……ニンジンが!」
「そういうあなたも、ニィンジンを食べてください」
カレーをライジンに食べさせる。
「……ぁぁ! なんだこれはニンジン……このコクが美味い! あぁ! ぁぁ! ニンジンは美味すぎるうううううう!」
そうして戦意を喪失したかに思えた。
「無理やりにでも欲しくなった。このニンジン! じゃなかったライジン! お前を何としてでも俺のものにしてやる!」
ダイコンよりも長く細いニンジンを構え襲い掛かってくる。
「アイーデ!」
「ニンジンを食べて! ニンジンに生きて 俺と共に生きるのだ!」
「自分勝手にニンジンを食べる人はごめんなさい!」
そういいながらニンジンを振り回す。
「確か……あのニンジンは伝説のニンジンと言われた。天と地を引き裂くニンジンをまさかこんなところでお目にかかるとは思わなかったわ」
カレーを食べながらおばさんは語る。
「確かな名前はニンジンキャリバー」
ニンジンキャリバーってなんだそれ。
「ニンジン! ニンジン! ニンジンニンジン!」
アイーデはニンジンに負けそうになる。
「ニンジンッが! やっぱニンジンが好きになる……でもダメ! ニンジンを好きなのは美味しいからであって決して恋愛感情があるわけでは!」
「隙なんだよ! ここで好きだ!」
二人の唇が近づく。
「食べ物で遊ぶなよ」
一発殴るとライジンは倒れる。
「無念」
~~~
っで、ライジンは捕まりしばらくニンジンが禁止になった。
ミルカリス村にニンジンが戻り。平和になったのだ。
村を歩いていると仲のいい男女がいた。
「好きです。誰よりもあなたのことが」
女性のほうがニンジンを一本男性に渡す。
「あぁ、これからもずっと一緒に居よう。ニンジンのように」
そう、ミルカリス村ではニンジンは愛の象徴となったのだ。
結局。夜は村のみんな全員でカレーを食べるパーティーが開かれた。
「アイーデのカレーほんとに美味しいわ! ニンジンも食べられるようになったしありがとう!」
真っ先にカナディリアがカレーを平らげて更にもう一杯。
「もう、そんなに急いで食べなくてもたくさんあるよ」
村を救ったアイーデはミルカリス村のニンジンを一年分貰った。
そのおかげで大量にカレーを作ったのだ。
「カレーに万歳! ニンジンに万歳!」
そんな宴や、ニンジンを生で食べたりとかいろいろしている。
料理の手伝いや片づけをやり、祭りは終わりを迎えていた。
「はぁ……随分ニンジン不足だったんだな」
「でも、みんなニンジンが食べられてよかった。そういえばキリングさんはまだカレー食べていませんでしたね」
残してあったのか。
「俺は……」
いや、いただこう。
立って行儀が悪いかもしれないが座るところは片づけてしまっている。
スプーンで掬い口へと運ぶ……
「……キリングさん?」
俺はスプーンを落としていた。そう……
「ちょっと! なんでカレー残っているの私がもらうわ!」
カナディリアにカレーを奪われる。まぁいい。
「大丈夫ですかキリングさん。スプーン落とした時悪夢を見ているような顔していて、もしかして美味しくなかったですか?」
アイーデの作ったカレーは確かに美味しかった。美味しかったのだ……そう、とても。
「……いいや、ちょっと疲れが来ただけだ」
そう、だから。きっと疲れたんだろう……
「アイーデ」
彼女は見ないで空を見た。
「また、いつかカレーを作ってくれるか?」
「はい。いつでもいいですよ」
アイーデの腰にはニンジンキャリバーが備えられている。
彼女の言葉を借りるならきっと正しく力を使っていけるだろう。