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最強の敵

この世界に来て一ヵ月が経ち気づいたことがある。

俺は沢山のモンスターを倒してきたのにレベルが上がらない。最近はいよいよ経験値すら表示されなくなり、この世界のルールを未だに理解できずにいた。

そして何よりも俺が名乗れないことが一番辛い。

俺が名乗ろうとしたり過去を振り返ろうとするとどうにも邪魔が入ってしまうのだ。

ただしこの世界に来てからのことは振り返れる。

俺の仲間は二人いる。

赤くてかわいいアイーデに黄色くてかわいいカナディリアだ。

二人の実力はかなり高いのだ。

アイーデのパンチウィザードの能力は赤い水使いの異名を持って、血みたいでグロくて見た相手は気持ち悪くなったり貧血になったりする。

カナディリアもギルドに行ったところオールマイティだ。全知全能で何でも魔法が使える。奴隷のくせに女王というだけのことはあるのだ。

そして俺は冒険者ゴールデンキリングの異名で通っている。そして本名は

「ナイト! とっとと次のクエストを受けなさい!」

うん、やっぱり名乗れない。大体わかってきた。

俺達は巷でも有名なパーティ厄災の最悪と名付けられ、クエストが失敗することなく。ギガイアドラゴンの子孫や小太りゴブリン伯爵に散々嫌がらせをした。

本当に危険だったのはデスアリアントの大群に背中をかまれて二日間地味に痒くなったことだった。

「分かったよ、ここの最高難易度のやつだな」

「そういえばキリングさんはどうしてステータス画面が見えないんですか? いくら確認しても全然出てこないですし。まずパーティー画面にキリングさんの文字すら出てこないんですよ」

また専門用語だ。ゲームじゃないんだからやめてくれよ。

「なんだと、ステータス画面というものがあったのか」

「はい、でもキリングさんだけ見当たりません。だからそのキリングさんは特別な存在ですね!」

そう言われると少し照れないこともない、だけどそれは遠回しの孤独である。

思い当たるのは俺がこの世界の人間ではないからだ。

まぁ、いいかどうせ何か言おうとしても聞いてもらえないし。

諦めが強まってきた異世界生活。


~~~


っで、ここはブランイア草原。マルクコロンブル王国の近所にある、高レベルのモンスターが出ると噂の危険な場所だ。

ここに来た初心者冒険者は経験値が稼げると自惚れやってきて、小指の皮を剥けたりするらしい、かなり痛いぜ。

「ナイト! 私の髪の色は何色かしら!」

突然カナが俺に問う。

「金髪だな。奴隷とは思えないくらいの金をしている」

「違うは下僕! 私は奴隷じゃなくて女王なのよ! 髪の色は黄金色が正しい!」

一緒だろ。なんで切れてるんだよ月経か?

「そもそもナイトは強いくせにむかつく! 私との模擬戦もよそ見していて勝つのはなんでなの!」

「俺が強いからだ。人よりも人なんだ。魔法にも武器にも頼らないで勝つことができる。なぜなら俺は」

「まぁそんなことはいいんだけど。ほんとに冒険者になって何がしたいの? アイーデもそうだけど遊び人じゃない」

うん、知ってた。言えないよね。

「私達は冒険をしているのです! 遊びなんてしてないですよ! カナディリアちゃん!」

「そう? 遊びじゃない、どうせ世界に終わりなんて来ないし生態系だって崩してはないのよ」

俺から見ればただの茶番にしか見えないし、俺もその茶番に全力で乗っかってはいるが。

「どうでもいいだろ、生きてるんだしそれだけでいいじゃないか」


~~~


っで、俺達はブランイア草原で一切のモンスターを見なかった。結局無駄な喧嘩をしていただけだ。

俺達は仲間だが仲良し集団ではない。なぜか出会ってしまった三人が偶然一緒に旅をしているのだ。

色恋沙汰もなければ、糞みたいな性格しているカナの頭が残念だ。魔法の能力だけ高くてもなんも心は成長していない。冒険をしていれば少しはましになるかと思っていたが、いまだに女王なんて言っている。

「はぁ……アイーデ、カナ。俺は今回のクエストに参加しない。二人でクリアして見せろ」

「えぇ!」

そういうと宿屋を出てクエストで稼いだ金で酒を飲みに行く。

最近の楽しみの一つだ。

モンスターを痛めつけて稼いだ金は、こうやってアルコールになって消えていく。

武器も防具も買う必要がないので俺の金の使い道は酒だ。

「ぷはーおいしいな! 世の中は酒だ! 酒で回ってるんだ!」

俺はつまみを食わずに酒だけ飲むと金を置いて夜の街を歩く。

「働け! 出ないと痛い目にあわすぞ!」

街の影には悪いことをしている大人たち。

猫耳のコスプレイヤーが奴隷か、いや、ここは異世界これはコスプレではない。つまりこれは!

「獣人奴隷! 獣人奴隷ではないか!」

「なんだこいつ! うわ! 酔っ払いだ!」

俺はついかっとなって、問題を起こした。

奴隷に酷いことをしていた男たちが許せなくなり、顔を一発殴ってしまう。

「うわぁ! 痛い! 酔っ払いのくせに強いなんて卑怯だぞ!」

「うるせぇ! こいつは俺のものだ! 金ならやる! この奴隷を俺に譲れ!」

全財産を男に叩きつけた。

「え、こんなにもらえるの! よっしゃあぁ!」

男は全力で喜んで走って消えていく。

俺は猫耳の少女の手を引っ張り、宿屋の前まで連れていく。

「はぁ……ついかっとなってやっちまった」

全財産なくなっちまった。どうしたらいいんだ。

改めて猫耳の顔を見る。

カチューシャではなく頭から生えた耳。異世界っぽいなと思いながら髪の色は黒色をしていた。

どこかの誰かと違って奴隷っぽい奴隷である。

「あの……その……」

「名前聞いてなかったな」

「私の名前は……ユーディスト・ヴィッサゲツェ。さっきは助けてくれてありがとうございます」

お礼を言われる。

「それで私は何をすればいいのですか。掃除ですか? 力仕事?」

その瞳は大きな喪失感からくるものだった。

「別に何もしなくていい。酒を飲んだせいでやけくそになっていたのもあるが、自分のやりたかったことだ」

「そう、ですか……」

「ユー、正直言うと俺も何でこんなことやったのかわからない」

「え……」

「好きに生きろ」

「は」

~~~


っで、翌日、ユーの姿はなかった。ユーは自分で決めて自分の生き方を探す旅に出かけたのだと思う。

特になんもなく宿屋で目を覚まし顔を洗い。三人で賞味期限がいつかもわからない料理を食う。

まぁそこそこ美味しいので米粒一つ残さずに完食。

「そういえば、昨日の夜どこに行ってたんですか」

「酒を飲んでいた」

「お酒っ! お酒ぇ~? どうしてそんなものを飲んだのですか!」

「いいだろ、酒ぐらい俺は防具も武器も必要ないから金の使い道がないんだ」」

「それなら私の超強力な魔力アップの原石を数個買って! ねぇナイト!」

どうやらカナは俺の金を集ろうとしている。

「残念だが、その、酔っ払った勢いで俺は全財産を失ったんだ」

「え……」

「じゃあ、もしかして貧乏さん? ナイトは飯すら食べれないの! 私の奴隷になったら衣食住は保証するわよ!」

こいつまだ一応奴隷なのになんでこんな偉そうなんだ?

「なんなら、靴でも舐めたらどう? ナイト?」

「遠慮しとく、雑草とか食べるわ、野宿すればいいし」

「そんな私の靴舐めるのが嫌ぁ!?」


~~~


っで、俺は二人とは別にベテデス遺跡の調査のクエストを受けていた。金がなければ宿だって泊まれない。

今度はソロで冒険。遺跡の探索をしていた。

文明を感じさせる化石があり、金になりそうなのでこっそりと盗むと後ろのほうから矢が飛んでくる。

「矢ごときで!」

手で掴むと遺跡にトラップがあるのだ。簡単には進ましてくれないらしい。面白いな。

俺はそのトラップを真正面から破壊していく。

トラップは全部似たようなもので何の工夫もなく途中で飽きてくる。

『お前は終わりだ』『ここから引き返せ』

そんな声が聞こえてくるも無視だ。無視。俺には関係ないのだから。

ずっと奥を進んでいくと、神々しい何かを感じる。

「あぁ、これは」

そして俺は辿り着いた。

グランドクエスト。つまりは真実への到達だ。

「……待ちくたびれたぞ……」

とてつもないプレッシャーを放つ。威厳もあり玉座に座っているように、重い扉が開くまで挑戦者を待つような。

つまり、そう、RPGで言うところのラスボスというやつだ。

でも俺は、全くそんな扉も開いてないし、遺跡を進んでいったら間違えてラスボスの部屋に来てしまったのだろうか。

「いや、貴様は……どうしてそんなところから出てくる。普通は扉から入ってくるものだろ。これではまるで不法侵入だぞ……」

ラスボスみたいな人なのに小さいこと気にするな。

「いや……まぁいい。我は大魔王スペリオルグこの後世界を支配する予定があってそれを止める勇者を待とうとしていたところなのだが……」

「……じゃあ、まだ世界滅ぼすって宣告出す前だったのか?」

スペリオルグというやつは頷く。

「なのに、なぜ貴様はここに来た。それではただの不法侵入になるだろうが!」

「世界滅ぼす魔王が不法侵入気にしてどうするんだよ」

「うむ、それもそうだな、だがいいだろう。これから、これから世界を滅ぼす大魔法を完成させたのだ」

改めてという感じでスペリオルグは立ち上がる。

「全世界の人間よ! 我はついに雨を降らせなくした! 気温を34度ぐらいにして、ずっと暑いままだ! さも苦しいだろう!」

地味に嫌なことするな。確かにずっと暑いままだと世界は最悪な気分だ。汗をかいて嫌になる。サウナにだって入るのだって嫌なのに。

「やめろ。本当に暑くなったらどうするんだ!」

「ならば、勇者となって我を止めるか、もし今この瞬間寝返るというのならば、世界の九割をくれてやろう」

「それでいいのか、九割ってほとんどだろ」

「土地の維持費とかかかるし、結構するのだ」

「世界支配したら維持費とか年金とか払わなくていいだろ。生きとし生けるもの全てを従えて悪逆非道を尽くすのが魔王だろ!」

「……そうだ……そうだったな! はっはっは! ならば今言ったことは無しだ! 我はすべてを支配する! 勇者よ! 止めたければ剣を抜くことを赦す!」

戦うモードになっているしかし。

流石に魔王だ。この世界で今まで戦ってきた誰よりも恐ろしく強そうだ。そもそも冒険者になって一ヵ月で魔王を倒すこと自体がおかしいし。

「迷子でここ来ただけだから、できればその、見逃すってわけには……」

「……なんだと、まさか貴様スキルに勇者がないのか?」

スキルなんてものそもそも持ってすらいない。

「このマップはレベル83ぐらいでないとパーティー全滅するはずが……それに勇者を持っていない貴様は何者なのだ!」

ようやくだ……ようやく……

「俺は……!」

「そんなことはどうでもいい! どっちにしろ世界は滅びる……勇者でないのならば不法侵入だ! 倒してやる!」

いや、お前が訊いたんだろ!

どうやら逃げられないらしい、

「初級魔法ヒエール!」

瞬間、空気が凍り付き天井から無数の氷が降り積もる。

全方位に氷が俺を囲い込み一斉に攻撃。

「嘘だぁ!」

咄嗟にすべての攻撃を読み切り、そして躱す。

「村の子供が最初に習う魔法を躱しきるとは、間違ってきたにしては随分と強いではないか」

普通に喰らったら火傷するだろ。

これが初級魔法って時点でもうおかしい。

「ならもう一つ。モエール!」

しっかし魔法がダサいな!

炎の波が俺を襲い焼きつくそうとする。

「火傷する……のか!」

だけどこっちだって何もできないわけではない。

魔法適性も武器適正すらない俺だけど。仲間との冒険で身に着けた……身に着けた……何もない!

なら、強行突破するしかない。

「うおおおおお!」

拳で炎の波を一部分だけ消し去る。

「なら、カゼーガフク!」

そのまま!

竜巻と雷がこの場を轟かせる。スペリオルグに近寄ることすらできない。

目にゴミが入るし、雷の音が五月蠅い。

「やめろ! 目にゴミが!」

「ユレール! モエール!」

震度3ぐらいの直下型地震だバランスが崩れてしまう。それに再び炎の波が押し寄せる。躱すしか!

「ヌレール!」

流れるプールのような大量の水に俺は思い切り叩きつけられる。

「そして! もう一度ヒエール!」

すぐさま周辺は氷だし、濡れた俺の身体も凍りだす。

「寒い! 寒!」

「さらに連続してカゼーーーガフク!」

更に寒くなり、これは本当に風邪を引いて寝込むしかなくなる。

「どうだ……怖かろう!」

本当にスペリオルグ、大魔王と名乗るだけあって世界を滅ぼすのも目じゃない。

カナディリアから聞いた初級魔法でこの威力なんだ。一体上級魔法を使ったらどれだけ恐ろしいことになるんだ。

「……っ寒いな!」

雪、寒い時期……寒いからって。このぐらいじゃ俺は負けない。仕返しの時間だ。

「おや」

体を動かし刹那を超えてスペリオルグに近づいた。

「速い!」

「一つ聞きたい。どうして世界を支配しようとした、どうして大魔王なんかをやっている!」

「それは……娘が」

「そんなこと俺は聞いていない!」

思い切りスペリオルグの顔を殴り、連撃、連撃だ。魔法を詠唱する暇も与え膝で蹴り、背中を叩いたり。

「……チェックメイト!」

最後は右ストレート。完全に決まった。

「……無念!」

スペリオルグは倒れる。

どうやら、大魔王は気付けば果ててHPも残り少なくなっていた。

もうスペリオルグに戦意はなくなった。

「強いな、我の負けだ……」

「……我は、娘が奴隷になる世界が許せなかった。腐った人間どももろとも世界を壊して……」

正しい扉から帰ろうとしたが一言だけ伝えよう。

「もう一回、作ってみればいい。お前が望むせかーーー」

殺気。俺は咄嗟に避けるも抗えない力で扉に体が叩きつけられた。

「ここにいたの、お父さん……そして、また会えたのね……ご主人様」

スペリオルグを吹き飛ばし、その玉座に一人腰を掛ける、見覚えのある少女。

猫耳に黒い髪……

「まさか……お前は!」

「ご主人様?」

ユーディスト。先日助けた奴隷の少女であった。





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