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この異世界には君がいる

過去を語ったデスラドルガスは拳を強く握った。

「魔法というものが生まれてしまった時点でこうなる運命だ。発展させてしまった私自らが責任を持つ」

つまり、こいつは愛するものを失って、世界を滅ぼそうとして、世界を憎んでいるのだ。

「だからこそ、私はこれ以上愚かな人間を増やさないために全てを滅ぼす。そして私も……」

「愛する人の元へ行くか、なるほどなそういうことか」

想いきり拳を握る。

「世界に絶望する気持ちもよくわかる、だけど彼女が死んだのは運が悪かったんだ。どうしようもない世界の力みたいなものだ」

「……なんだと」

少し、いや、かなり気持ちが怒りに近付く。

「話を聞く限りお前に、まだ残ってるものがあるのに。まだ世界になんて絶望なんてするなよ……」

「何が残っている!」

「愛だ愛。確かにお前は妻のことを愛していた。なら娘はどうしたんだ!」

「何処に! 何故貴様に言いきれる!」

「アイーデだ。まだ娘が生きているのにどうして世界に絶望しているんだ!」

確かに、話を聞く限りそうに違いない。

「誰だ、それは……いや、確かにあの時セシーアは赤子を……」

アイーデを指をさす。

「キリングさん……」

「彼女は両親が死んで引き取られた。パンチウィザードなんだよ……」

「確か、母親の名前はセシーアといわれました」

「……嘘だ!」

現実を受け入れられないのかデスラドルガスは否定する。

「……これが、亡き母親の形見です」

形見である髪飾りを見ると豹変する。

「なぜこれを……どんなに探しても見つからなかった彼女の花が……あの世界の色が」

「……あなたが本当のお父さん」

娘と再会したデスラドルガスは動かなくなる。

「セシーアに似ている……アイーデと言ったか」

「私には呪いがありますけど、世界もお父さんも憎んだりはしません……」

「呪い、なぜ……まさか……あいつらが、いや」

「私は……世界を終わらせたくありません。まだ……やりたいことがありますから! だからもうやめてください」

今を、そう、アイーデがいる今を生きるのがデスラドルガスにとっての答えになるのなら。

葛藤の中でデスラドルガスはアイーデを見る。

「そう、だな……」

アイーデを抱きしめようとするが手が止まる。

「だが、もう遅い、全てが遅いのだ」

その時、殺意がアイーデに向いた。

あぁ、もういいや。無理だ……

「ステイ」

咄嗟にアイーデを庇い俺はデスラドルガスの攻撃を受け止める。身体は焼けるように熱くなる。

「世界を滅ぼす。たとえ娘が生きていたとしても……私の考えは今更変わったりはしない! セシーアを失った悲しみはもうこれしかないのだ!」

「……そうかよ、アイーデ、先に謝っとく。ごめんな」

思い切りデスラドルガスに拳を叩き込む。そう、俺は……

「私に物理攻撃は効かな……何!」

簡単に殴り飛ばせる。

「流石にもう限界だ。世界は滅ぼすのは何となく止めようとしたけど、駄目だ。親が娘を殺すのだけは……それだけはダメだろ……ダメなんだよ!」

「なぜ急に動きが、いや、力の質が変わった?」

「キリングさんは……今何を」

俺の力はそう、もう一つあったのだ。この力に気付くまでだいぶ時間がかかってしまった。あの精神攻撃してくる女がいなかったら気付くことはなかった。

「……エンド!」

何らかの魔法を使い俺の動きを封じようとしたのか、しかし俺は何も変わりはしない。

「貴様の力は無だ。ステータスを全て0にした」

「生憎俺は!」

あの頃を思い出す。すると、攻撃はやはり通る。

「っかっ……」

腹を抑え、デスラドルガスは倒れもすぐに反撃。

「まだだ! ゼロ!」

そう唱えたと思えば、俺はいくつもの攻撃を喰らい血を出していた。全く反応すらできてない。

「奥の手だ。今この世界の時間を止めた……例え貴様がどれだけ強くても動けはしない」

「ゼロ!」

連撃、何度も連撃を喰らい地面に倒れる。

「キリングさん!」

「大丈夫だ!」

俺は今この瞬間、負ける気だけはしない。

「……もう、お前のゼロは見切った。進ませるだけだ」

「だめキリングさ――」

「ゼロ!」

そう俺はこの世界の人間ではない。

「俺の名前はか―――」

意識すれば感じられる。このステイは俺自身にも適用されるものだ。

「これで終わりだ……止まった時の中で永遠に死に続けろ」

確かに時間は止まっていてデスラドルガスは俺にとどめを刺そうとしていた。

全魔力を集中させたのか莫大なエネルギーが目に見える。やばいな。

「世界を滅ぼす一撃を貴様に直接くれてやる! ラストレクイエムバースト!」

レクイエムなんて目じゃないほどの巨大なエネルギーの光線が俺を包み込もうとしていた。喰らえば確実に死ねる……だが。

「ステイ……! 俺の名前は!」

ステイの力は戦闘能力強化だけではなかった。

俺にはもう一つ、あの子から授かった俺自身にも分からない新たなステイがあったのだ。

その衝撃波を自分の拳で打ち消した。

「……なぜ、動いている! この世界の時間は止まっているはずだ!」

「確かに今“この世界”の時間は止まっている。世界の時間はな!」

一撃を入れるがすぐに回復する。

「なら……なぜ……」

俺はこの世界の人間ではない、そしてあの子から授かったステイの力。

「貴様は何度も名乗っているはず、なのにどうして私は知らない」

相手も俺のステイに気付き始めた。

「……この世界の存在ではない。むしろ、貴様が名乗っている間を私は認識すらできなくなっている……?」

そう、何かを思い返したり、過去を思い出すことがトリガーになり、このステイは発動する。

この世界から認識されなくなることで、その時の記憶も存在も周りから消えて結局俺が名乗った名前自体も認識できなくなる。

だから世界が止まったとしても、世界に認識されない俺は動くことができる。

「終わりだ」

ステイで加速し、一瞬で近づく。

「負けるのか……私が?」

俺の名前は――

攻撃は当たらない。だけど、俺の攻撃はこっちに戻ってきたときに命中する。

地面すれすれのアッパーで宙に浮かせるとそのまま連続で殴った。

「娘すら手にかけようとした時点でもうお前の負けは決まっていた。だから今、お前の荒んだ心も! 愛も、絶望も、後悔も全部吹き飛ばす!」

フルパワーの出力で落ちてくる相手に右のストレート。

「終わりぁ!」

止まった時間は動き出すと同時に使い続けたもう一つのステイの能力はオーバーヒートを迎えた。

全力の一撃で空はあの時の快晴のように雨雲を吹き飛ばし太陽が強く指し示した。

「――ん! あれ……」

再びアイーデの声が聞こえ、デスラドルガスは地面に倒れる。

「ぁ……セシーア、私は……」

デスラドルガスは戦闘不能になり、存在自体がなくなりかけている。

身体が痺れだすもただひたすら立っていた。

ここで倒れるわけには行かない。

「戦って分かった……貴様の力、その強さも……私と同じ喪失感からくるものだ」

今はステイを使い切り俺は認識されている。あの時のことを思い返すことだって許される。

「……なら、私と同じ絶望を味わってもなお、どうして貴様は立っていられる」

俺は立ち直っていないし、本当にしょうもない理由だ。

俺自身は覚悟を持って世界を守ったわけでもない。

意志は絶対にデスラドルガスのほうが強かった。だから、答えはこうだ。

「それは、自分で考えろ……どこかの誰かさんが誰かに似てるんだ」

あいつの若い頃に。

「……だから、自己満足でもう一度守りたかったんだよ。この世界では」

「そうか……結局貴様の過去の呪縛から立ち直れているわけではないのか」

「失ったものを受け入れて前を進むのは無理だ。大切が大切になればなるほど後悔だって大きくなる、だから折り合いつけるしかないだろ、その何かを」

「そうか……眠る前に一つ……私を倒した貴様の名を聞いておきたい」

今なら、言える。あのステイは発動しない。

「――」

デスラドルガスにだけ聞こえる声で言った。

その瞬間。デスラドルガスの瞳は色をなくす。

「……良い名だ」


~~~


戦いは終わった。

「……キリングさん」

俺はアイーデと目を合わせない、実の父を手にかけたのだ。そんな奴と一緒にいるのも嫌だろう

「平和になれよ」

もし、世界がピンチになってみんなの危機が迫れば、俺は何度でも助ける。けど、もう一緒にいる資格はない。

「待ってください、どうしていなくなるのですか」

聞かない。

「どうして、目をそらすのですか、どうして、無視するのですか」

「キリングさん! どうして寂しいのに涙を流さないのですか!」

この世界で泣いたり寂しがったりはできない。

「どうして……私は……涙が止まらないのですか」

アイーデは俺にだけ話を掛ける。デスラドルガスには一言も発していない。

なら、距離を置こう。

「……俺は亡き妻に君を照らし合わせていただけだ。だからずっと助けた。俺自身の過去の折り合いに、自己満足に君を利用した。君と出会って救われたのは俺の方だんだ」

「強がらないで大馬鹿者が! キリングさんは私のことを助けたことに変わりはないです。それに心を見れば最初から辛いってことが分かります!」

「だが、俺はこの世界の人間ではない!」

「でも! "臨"さんはこの世界にいます!」

後ろから抱きしめられる。

「だから! ここにいていいんです! 負い目を感じる必要はありません」

その包容は力強く傷に効いた。だけど、その痛みが……俺がこの世界にいる証明にもある。

「寂しいなら一緒に居ましょう……孤独になるのは、一人になるのは辛いですから……」

だから、俺はもう一度だけ信じていいのか。

「……後悔するぞ、俺と一緒にいると」

「生まれてから後悔はしたことないですから……これからだってしません」

「……いい生き方だな」

そうか、なら……俺は、もう一度だけ。

「こら! ナイト! 何よイチャいちゃと! 私はこんな怪我したっていうのに!」

「……本当にデスラドルガスを倒せるなんて思わなかった。驚いたわ」

傷だらけの二人が駆けつけていた。

「世界を救ったんだ。これぐらいの褒美はいいだろ」

「何よ女王に向かって偉そうに! 懲戒免職よ!」

「懲戒免職はひどいよカナディリアちゃん。なってもキリングさんはきっと、大丈夫です」

「そう、アイーデが言うのなら大丈夫ね」

「でも、懲戒免職になれば貴方は無職」

「最初から冒険者は無職みたいなもんだ。いいから行くぞ」

俺はもう一度歩き出す。

「どこによ!」

「知らん! もうこの際打ち上げだ! ニンジンパーティーでもして飲むぞ!」

失ったものはもう戻ってこない。彼女も、あの子も、だけど想いはちゃんと俺の中に残っている。あのステイがあったから、俺はこの世界にこれたのかもしれない。あのステイがあったから俺は生き残れたんだ。

そして俺に新しい生き方を教えてくれた。

俺達は居酒屋でパーティーを開いた。沢山のニンジンが並んでいる。

「一緒に旅をしてくれるんですね、臨さん……」

小声で囁かれる。

「いつ消えるかもわからないし、あっちの世界に戻ることになるかもしれない。でも俺は少なくともこれからも旅をしていくつもりだ」

「……よかった」

「ありがとな……孤独を殺してくれて……正直いっぱいいっぱいだったから」

これからも旅は続くし、この世界にはちゃんと明日があり終わらない。

そして……アイーデは俺の背中越しに座る。

「きっと、運命だったんです。この呪いも、臨さんと出会うための」

もちろんアイーデは彼女本人ではないし、ただ少し顔が似ているだけで性格も違う。

だからアイーデはアイーデだ。

そんなアイーデだったからこそ、救われたのかもしれない。

俺は初めてこの世界で表情が緩やかになる。

「この異世界には君がいる、それだけで救われたんだ」

適当に描いたけど最後まで書ききれたので満足でした。ありがとうございました。

0話や番外編も書くと思いますのでそっちのほうでよろしくお願いします。


終わったのでキャラ説明を


影無臨

別の世界から来た二十代後半の男性。

戦闘能力強化のステイを持ち敵なしの強さを誇る。

謎が多く、自分のことを語ろうとするともう一つのステイが発動。

臨自体が世界認識から外れるため、誰からも認識されなくなり世界のルールにすら縛られなくなる無敵の能力を持つ。

ただしこれは気付くことがなければ本人にも発動されるので使い勝手が悪い。



アイーデ・アーイエ

パンチウィザードの冒険者で赤髪の美少女。心優しく誰からも親しまれる存在と思いきや、

ロンリネスにより近付いた相手に災いが迫るという呪いを持っている。

デスラドルガスことテッサの実の娘であり、秘めたる魔法の才能はものすごく世界最強クラスの剣ニンジンキャリバーを完璧に使いこなすほど高い。

臨のことを特別な目で見ていた。


カナディリア・ガーディディア・ヴィリリリア

自分のことを女王と信じている金髪の奴隷。両親に病気になりその薬を買うために売り飛ばされるも心が折れず常に楽しいことを考え続け女王と名乗る破格のメンタルの持ち主。

並大抵のことでは心が折れないがニンジンが嫌いであった。(現在は克服済み)

魔法の才能はオールマイティという天才中の天才であるが、使いこなせていない。


ユーディスト・ヴィッサゲツェ

世界の大魔王スペリオルグの娘であり、武器と魔法の才能が規格外の黒髪美少女。

強さのあまりに退屈になり奴隷の真似をして生きるも疲れ、世界を滅ぼそうとする。

感情が出せないが、カナディリアに真っ向勝負で敗れそれ以降は友達として世界を楽しく生きている。


デトラ

金髪のナルシストで自分のかっこいいと思った行いをする男。アイーデのことを気にかけているのは単に一人の女を救うのがかっこいいからで、男色家。剣の腕は超一流で性格さえまともなら騎士団長になれる実力を持つ。


スペリオルグ

親馬鹿大魔王。娘のために世界を滅ぼそうとする。魔力が高いが下級魔法しか使えない欠点を補うために単純な魔法の威力を上げることにおいては超一流。


ライジン

ニンジンに人生を狂わされた男。骸骨になるまでニンジンを盗んだりする。アイーデに一目惚れして近付くもニンジンが食べられなくなってしまう植物人間になってしまった。


デスラドルガス(テッサ・アード)

元は世界が驚く閃光のウィザードとして、魔法史に革命を起こす最高の才能を持っていた。

しかしその魔法が戦争に利用されることを知り、

結果として深手を負ったテッサはアイーデの実母セシーアに命を救われる。

自分が起こした罪すら受け入れてくれたセシーアに心を惹かれ、やがて想いが通じ合い子を育む。

しかし、アイーデが生まれた直後、かつての弟子であったギラウル達にセシーアは惨殺され、

世界に絶望し、世界を憎み、世界を滅ぼそうとする。

実力は全てにおいて作中のキャラを上回り、魔力量も最高クラスのユーディストの百倍、さらに作り出したローブにより使った魔力は全て戻ってくる。

常に無数の結界により身を守られ誰からの攻撃を許さず、仮に攻撃を当てられても強化された肉体により物理攻撃で傷がつくことはない。さらに回復魔法が瞬時に発動されてしまう。

そのうえ戦闘力も人間の反応できるスピードをはるかに上回り、強化魔法によるブーストで避けたとしても攻撃の余波でダメージを喰らう。

空間移動も可能でどこへ逃げようが瞬時に追いついて必ず相手を仕留める。

ただしこれはデスラドルガスの力の一部でしかなく、彼が本気になることはない。

エンドは相手の今まで積み上げてきたレベルとステータスを全て0にする能力。

そしてゼロは時間魔法に到達したデスラドルガスのみが発動できる時間停止。

ただし、この奥の手を使うほど強い相手はこの世界に誰一人存在しない。


セシーア・アーイエ

盲目の女性。心優しく心の色が見える。花の髪飾りをプレゼントされたことにより世界の色を知ることができる。


ザウィード

元マルクコロンブル最強の騎士団長。冤罪により国を追放されてから世界を憎むようになりデスラドルガスの右腕となる。世界を憎む一方で滅ぼそうとすればより強い者と戦える喜びを感じる熱い男。空間から無数の回避不可能攻撃を出来る。


ジョニルバ

執事の老紳士で元は世界格闘家チャンピオンを取った実績がある。老後自分の寿命と共に永遠の眠りに着こうとしたときにデスラドルガスに改造される。

全盛期の身体を取り戻し、執事としてデスラドルガスに絶対の忠誠を誓う。

一対一の戦いで絶対有利の空間を作ることができる。


スペイルド

つまらないことが嫌いで世界を面白くするために人を襲う快楽殺人者。

例え防御魔法を張っていても概念すら殺してしまうナイフ魔法を使う悪の中の悪。

ニンジンキャリバーによって心が浄化されてもなお、その歪みはなくならない。


ユメカズラ

結局名乗ることのなかったデスラドルガスの左腕。

流行病で両親に捨てられ、病気で死にそうなところをデスラドルガスの治癒魔法により一命を取り留める。

もともと持っていた夢への侵入操作は彼女の特殊魔法でデスラドルガスですら使うことはできない。

コントロールで人を操り洗脳。ウィルメシアスの忠実な操り人形にするのだ。


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