きよしこの夜に
トナカイを撃破した数日後、ファルザストはお祭りムードとなっていました。
撃破した、と言っても、私は何も覚えていません。ただ、おじいちゃんに言いたいことを言って、それから気が付いたらお世話になっている家の天井が見えたんです。側で私を看てくれていたユウキさんの話だと、強い光を放った後に、トナカイの姿が消えていたことと、その場に私が倒れていた、という状況だったらしいです。
トナカイが消えた後、昏睡させられていた人たちが目を覚ましたようです。皆命に別状はなかったようです。
私が倒れた後、トナカイがいたところに光る球が落ちていたそうです。それが、今回の討伐報酬だったとか。内容は……何だったんでしょう。経験値とか確かそんなことを言っていましたけど、よくわかりませんでした。
それから、ユウキさんが何か革の袋を私に手渡しました。中には金貨が入っていました。ただ、私たちが普段使っているゴルド金貨とはまた違うお金のようでした。
これは? と聞いたところ、この世界の通貨で、今回の討伐報酬らしいです。何でも、今回の討伐は私とユウキさんがいたからこそ成せた事であって、報酬は払うべきだという話があったみたいなんです。
私は、固辞しました。だって、前に出て戦っていたのはユウキさんたちなのに、私は術でちょっと攻撃しただけ……そう言ったら、
「それなら後衛で戦う人らは役に立ってないっちゅーことになってまうやろ?」
そう、私に言いました。
前衛だけが戦いの要なわけがない、後衛がいたからこそ前衛は戦える。だから、前衛で戦っていたユウキさんたちをサポートした私も、功労者の一人だと言うんです。
それを聞いて、私は自分のことばかり考えていて、他に戦っていた人たちのことを考えていなかったことに恥じました。一生懸命戦っていた人たちの努力を無かったことにするなんて、私にはできません。
それに、とユウキさんが続けました。あのトナカイを倒したのは、他でもない私なのだとイツキさんたちが言っていたと。だからこれは正当な報酬なんだとか。
そこまで言われると、私も受け取らないのは失礼になるんじゃないかと思い、改めて受け取りました。それから、このお金をどう使えばいいのかユウキさんに聞いた時、何だかユウキさんが「ちょうど使う時があるで」と、イタズラっぽく笑いました。
それが今、私たちの目の前で開催されているお祭りなのだそうです。どうも明日が以前話していたクリスマスという日で、今日はクリスマスイヴという前夜祭なのだそうです。雪が降る景色の中、白い雪の中で色とりどりの光が町を彩っていたのが衝撃でした。精霊様の力なのでしょうか?
けど、一番気になったのは、広場の真ん中に飾り付けがされた屋根より高い大きな木が立っていましたことでした。蝋燭とかリボンとか、煌びやかな飾りが蝋燭の火を反射して輝いていました。その天辺には大きな星が、より存在感を放っています。
けど、これ確か昨日は無かったと思うんですけど。いつの間に立てたんでしょうか。
そんな疑問を口にすると、先ほど合流して5人で行動している時に近くにいたイツキさんは
「まぁクリスマスイベントだから。運営の力だよ」
「ええんかそれで」
ウンエイってすごいんだなぁと思いました。
ともかく、5人で集まってお祭りを周ることにしました。村のお祭り以外に経験したことのない、それも別の世界のお祭り。いけないとは思いつつ、私は興奮が隠しきれていなかったようで、後程ユウキさんに「よう楽しんどったなぁ」と微笑まれながら言われました。耳が熱くなったのを覚えています。
屋台の飴やらお肉やら、それ以外にも飲み物とかを買って。それを食べ歩きながら、道の端で行われている大道芸や踊りのような物を見たり……全部が初めて見た物や食べたことない物ばかりで、思わず見入ってしまいました。
けどそれ以上に、気になることがありました。
「うむ、やはりクリスマスに食べるローストチキンは最高でござるな!」
……タケさんがお肉を取り込んだかと思うと、徐々にお肉が溶けていくかのように消えていきました。そうやって食べるんだ……。
ちょっと衝撃を受けたんですけど、イツキさんとレインさんが、傍から見ても仲良さそうに歩いているのを後ろから見ていました。やっぱりお二人はそういう関係なんでしょうか? 本人たちに聞くのもあれかなって思って、タケさんに聞いてみたところ、
「いやぁ“まだ”そういう仲ではないでござるなぁ。“まだ”」
なんで“まだ”を強調しているんでしょうか? それと、なんだかタケさんが笑っているようにも見えるのは私の気のせいでしょうか?
ユウキさんも何だかニヤついているし……うぅん、この話だけは私にはわかりません。そのうちわかるんでしょうか?
と、考えようとしましたけど、今は目の前のお祭りを楽しもうというタケさんの案に賛成して、今考えるのはやめました。
途中、的当ての屋台がありました。ボールを手に持って、それを離れた位置にある上下二つに分かれた段の上にそれぞれ置かれた5つの的、合計10個の的を落としていくというゲームらしいです。
ここでレインさんが提案してきました。誰が一番高い得点を叩き出せるか、勝負しようとのことです。負けたら皆にホットポーションドリンクを奢ることになりました。私は気が進みませんでしたが、皆がノリノリだったので、やってみることに。
一番手は言い出しっぺでレインさん。綺麗な投げ方で、10個中8つを落としました。すごいです、いきなり高得点です。
次はユウキさんでした。ユウキさんは豪快な投げ方で、的に当たるといい音がしました。けど、10個中5つという、半分の結果でレインさんには及ばずでした。
「あーあかんかったかぁ」
と笑いながら言っていて、悔しそうには見えませんでした。
その後はタケさんが……あれ? タケさんってどうやって投げるんだろう? そう思っていたら、タケさんは体の一部を手のような形にして伸ばして投げました。まさかの10個中7つという好成績。けど私は投げ方に衝撃を受けてそれどころじゃありませんでした。伸びるんだ、あれ。
それでイツキさんなんですが……その、ごめんなさい、結果だけ言うと一個だけ落としました。ボールが明後日の方へ行ったり届かなかったり……奇跡的に届いたのが一個だけで……。
「不登校だったんだから仕方ないよね……」
と、誰に言うでもなくそう呟いていました。ちょっと暗かったのが印象的でした。
それで最後に私だったんですが……うまく出来っこないって思っていたんですが、私なりに全力でやりました。
結果は……全部倒せました。多分、たまたまうまく行っただけです。
振り返ったら、皆私を見て固まっていました。ユウキさんまで引きつった笑顔をしていました。何で?
とにもかくにも、最下位だったイツキさんがドリンクを奢ることとなりました。色んなフレーバーがブレンドされていて甘くておいしかったんですけど、何だか申し訳なかったです。その上、イツキさんのお金が足りなかったらしく、ユウキさんがこっそりお金を渡していました。本当にごめんなさい、イツキさん……。
そうして、いろんなお店を周ったりして……前夜祭のメインイベントだということで、皆広場に集まりました。
大きな木……クリスマスツリーと呼ばれる木の下に置かれた大きな舞台の下、長くて雪のように白い髪をした綺麗な女性が立ち、私たちに向かって集まってくれたことを感謝するということと、長話は嫌いだから今日は前夜祭ということでおおいに楽しんで欲しいということを、透き通るような綺麗な声で言われました。
誰ですか? とイツキさんに聞いたら、
「白のロズアノームさん。このAFでも屈指の実力者で、転者連合を作り上げた人だ」
と、ようはすごい人なんだっていうのがわかりました。ユウキさんも「へぇ」と感嘆のため息をついていました。
その後、有志で集まった人たちによる歌や演奏会による余興が舞台の上で行われたりして、今更なんですけど、町全体で行われるお祭りは、私がいた村の比じゃないと改めて思い知りました。やっぱり世界は広いんだなぁって……そう言えばここ違う世界だったと後になって思いました。
夜も更けてきて、余興が終わった後。甲高い、空気が抜けるような音がしました。
何の音か、わかりませんでした。するとユウキさんが「おお、上や上!」と言って空を指さして、私も一緒に見上げました。
「わぁ……」
思わず、そんな声が出ました。炸裂するような音がしたかと思うと、空に花が咲いたんです。色鮮やかな赤と白、緑で彩られた大きな花でした。パラパラパラと音が鳴った後、すぐに消えてしまいました。
それから連続で音が鳴り響き、次々と花が咲き乱れていきます。中には星のように広がったり、ツリーのような形になったり……おじいちゃんを彷彿とさせる白いひげをした、赤い帽子を被った老人の顔が空で微笑んでから消えていきました。
イツキさんはあれが花火だと教えてくれました。確か、本で読んだことがあります。遠い国での催し物の際に空に打ち上げられる火の花。それが花火だと。こうやって間近で見たのは生まれて初めてで、私はここで見た中で、言葉に表せない程の大きな感動を覚えていました。
けど、この花火が前夜祭の終焉の合図でもありました。花火が終わると、広場から人が次々と去っていきます。まだ興奮も冷め止まぬ雰囲気でしたが、これ以上広場に留まる理由はありませんでした。
私たちは、イツキさんたちと一緒に家へ戻ることに。皆さん、疲れ切った表情をされていました。
私は借りている家の前でイツキさんたちに楽しかったことを伝えました。
「こちらこそ、楽しかったよ」
とイツキさんが言うと、レインさんたちも同じく楽しんでいたようでした。
「また元の世界に帰れる方法、もう一度探しに行こうね!」
「なぁに、すぐに見つかるでござるよ。イエスウィーキャン!」
「おいおい、それ大統領の名台詞やろが」
言って、みんなで一しきり笑い合った後、私たちは別れました。
そうして、ユウキさんと会話もそこそこに、明日に備えて就寝することにしました。
静かな夜、私はテーブルに置かれていたスタンドの明かりを使ってこれを書いています。隣のベッドでは、ユウキさんが穏やかな寝息を立てて眠ってます。疲れていたんだと思います。
明日はクリスマスらしいです。時間的に、そろそろ日付を跨ごうとしている頃です。私も今日はここまでにして、眠りに就こうと思います。
サンタクロース……世界中の子供たちにプレゼントを配る人が、深夜に頑張る日。そして私は、そのサンタクロースさんに向けて、労いの気持ちを込めて言います。
「頑張ってください。メリークリスマス」
そして、私はそろそろペンを置くことにします。ここの人たちはいい人たちばかりですが、明日こそ元の世界に戻れることを祈って。
おやすみなさい。
――――この日の記録はここで終わっている。
静まり返った部屋の中。明かりは無く、暗闇が辺りを包み、音をたてるのはベッドに眠る男と少女。
二人しかいない部屋の中、淡い光が部屋を照らし出す。
火の明かりではなく、かといって電球の明かりでもない。その光は、柔らかい光を放つ月の明かりにも似ていて、部屋を、眠る二人をほんのりと照らし出す。
光を放つ者は、どこから入り込んだのか、一匹の白き獣。少女に向ける獣の目は、我が子を慈しむかのような、慈愛に満ち溢れている。
獣は、顔を上げる。そうして、そっと歌い出した。
Silent Night Holy Night
All is Calm all is bright
静かで、厳かで、聴く者全てに祝福を与えんとする歌は、二人を包む。
二人は目覚めることはなかった。しかし、獣と同じ光が二人を包み込んでいく。
やがて光の密度が上がっていくかのように、二人の姿は光の中に消える。やがて、光がゆっくりと消えていき……その後には、主を失ったベッドが残されただけだった。
獣は歌い続ける。二人がいなくなってからも。眠りにつくファルザストの町に響かせんとばかりに、雪降る夜に歌い続ける。
きよしこの夜に、善き者たちに祝福をもたらさんと。
――――――
―――
――
「ん? それ、どないしたんやエリス?」
祐樹たちがウォルフゲートの道を歩んでいる時、祐樹はエリスが手にしている物を見て疑問符を浮かべた。
エリスが両手で包むように持っていたのは、金色に光る小さな星。冷たい感触がして、金属でできているようだった。
「いえ、それが、目覚めた時に持ってました。何でしょう、これ?」
「いやぁさすがにワシにもなぁ……」
いつ手にしたのか、どうして持っていたのか。さっぱりわからないエリスが首を傾げるも、それが祐樹にもわかるはずもなく。
「……でも」
「ん?」
エリスは、星を握りしめ、そして祐樹に顔を向けた。
「……何だかわかりませんけど、嬉しいんです」
その顔は、朝起きたらプレゼントを見つけた子供のような、無邪気で明るい笑顔だった。
温もりを感じる陽光が降り注ぐ晴れの日。二人が目指す先に安寧があらんことを……そう願うかのように木の影に立って見つめる、一匹の獣。獣は黄色い目を閉じると、踵を返して歩き去っていく。
そして、雪が溶けていくかのように……姿を消していくのだった。
コラボ小説、終了いたしました。ありがとうございます。
twitter上でるぷす笹さんとコラボ小説をやると決めた時、楽しみ半分、不安半分でした。何せ、あちらの小説の雰囲気を私が出せるのかという不安がありましたので、投稿する時も正直戦々恐々しています。
るぷす笹さんの『online life【オンライン・ライフ】』は、ソードアートオンラインのような雰囲気の世界観を持った小説で、主人公がレベル1でありながらも懸命に戦おうとする小説です。色んなアバターが作れるという独特の電脳世界を冒険するという、読んでる身としてこんなゲームがしたいと思える作品です。
このコラボ小説を読んでくださった方々、是非るぷす笹さんの『online life【オンライン・ライフ】』を読んでみてください。あ、私の小説もついでによろしくお願いいたします。
こちら、るぷす笹さんの作品のURLです。
https://ncode.syosetu.com/n6759fb/
それでは皆様。メリークリスマス。