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人は生まれながら平等でない。
弱者は奪われ、強者は奪い続ける。それが常であり、不変の理。この事実を、俺は産まれた瞬間から既に突きつけられていた。
俺は弱者だったのだ。まだ言葉を思う存分に口に出せるようにも成長しておらず、思うように体を動かせないようなほどに。視界に広がる崩壊をただ眺め、救う手段など一つも無いと知り、ただ周りの全てが奪われていくのを見守ることしかできなかった。
悔やんだ。悔やんで、悔やんで、それでも悔やみきれないほどに、後悔をした。強者であれば守れたのだと。弱者であったから守れなかったのだと。
全てを失った。産み落としてくれた大いなる母を。幸せな家庭を。小さな家ですくすくと育ち、時に愛し時に叱ってくれる母と父との関係を。
あの時、全てを失わなければ俺はきっと平凡な人生を送っていただろう。甘やかされながら育てられて時には叱られ、褒められながら児童期を迎えたはずだ。初めての学校という社会を学び、友達を作り、話し、笑い、喧嘩もして、一通りの感情を得てまた新しい社会へと放り投げられる。
その時には親友と呼べる人間もできただろう。もしかしたら心の底から愛する恋人ができたかもしれない。そしたら子供ができ、その息子だか娘だかを愛してやまない生活を送って、安らかに死ぬことが理想だった。
しかし、それはもう有り得ない。所詮空想だ。所詮理想だ。今となっては、もう遅い。
「なぁ、婆さん。俺は、強くなった」
目の前にある椅子に座る老婆に声をかける。老婆は俺の声に反応することはなく、椅子の前に設置された台の上にある水晶玉をにらめっこをするかのように凝視していた。
「あの日、魔女捕獲の夜という大災厄の中であんたは俺を救ってくれた。だから、今度は俺があんたを守る為に戦おう」
全てを失った日――魔女捕獲の夜。魔術を発見した魔術師と呼ばれる人間を捕獲する為に起きたテロ。あの日、老婆は俺を救った。瀕死状態で見ず知らずの俺を、抱いてくれた。
「俺は魔女捕獲の夜を起こした世界核保守派……いや、全ての元凶である八雨瑛士を――」
俺を救ってくれた老婆の為に。俺を産み落としてくれた母の為に。この世に絶望を感じながらも死んでいった人々の為に。
「――殺そう」
命を賭し、誓おう。老婆が俺を見てくれるようになるまで。