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それだけは認められない




 ◐




「それだけは認めないぞ、俺は」


 時は変わり、俺達は別荘へと戻ってきていた。国家公安局世界核鎮静課を仲間だと判断した俺達は遠回りをしながら敵に追跡されないように身を隠し、別荘で休んでいるわけだが、国家公安局世界核鎮静課の人々と話をしている最中に恭介がそう言いながら首を横に振った。


 恭介とは若い方の恭介だ。国家公安局世界核鎮静課部長の恭介ではない。


「こんな奴が俺なんて、絶対に認めない!!」


「あ、その顔俺もできるぜ」


 くわっと目を見開いて駄々をねる幼き恭介。それと全く同じ表情をする部長の恭介にやっぱり同一人物なんだなと再認識する。


「ぐ、ぐぅ! お前、本当に俺ならその髭はなんだ!!」


「やめろよぉ、くすぐってえなぁ~」


 未来の自分の髭が何より気に食わなかったのか、手でじょりじょりと触る恭介。それを嫌がらず、されるがままで楽しむように笑う様子。


 この二人、同一人物だからこそ気が合うのかもしれない。


「なんか騒がしいね」


 すると丁度帰ってきたのか要が襖を開き、初めて見合う人々を一瞥してから開口一番にそう言った。


「要! 良かった、倒したんだな」


 別荘に戻ってきても要がいないことから心配していた俺はすぐに声をかける。テーブルの空いた所に要は腰掛け、俺は要がいない間に起こった出来事を全て話した。


 それは未来、国家公安局に設立された対世界核を目的とした世界核鎮静課が、世界核保守派と連携を取って過去に時空超越タイムリープしてきたということ。そして彼らに助けられ、共に戦うことを決めたということ。


 それから未来の恭介も時空超越してきて、恭介が認めたがらない様子も伝えた。


「なるほどね、道理で騒がしいわけだ」


 ヘッドロックをかける恭介と余裕の表情で首と腕の間に拳をいれ、回避する未来の恭介を見て要が言う。確かに、騒がしい。


「とにかく、私達と戦ってくれるなら歓迎するわ。えっと……」


わたくしの事は髭爺とお呼び下さい、お嬢さん」


 未来の恭介に対して呼び方を迷った栞。それを見た未来の恭介はいとも簡単に恭介のヘッドロックを解いてテーブルの向かいに移動する。


「ひ、髭爺?」


「世界核鎮静課ではみな髭爺と呼んでいます。彼の本意ですのでそうお呼び頂ければ」


 髭爺という単語に疑問を浮かべていると、詩楠が補足する。


 何故髭爺なのか分からないが、無精髭からきているのだろうか? 世界核鎮静課の人々もそう呼んでいるのなら俺達も合わせるべきか。


「えっと……髭爺、さん? 未来の状況を聞きたいのだけれど」


「それは私からお話します」


 栞がそう言うと、髭爺――俺もそう呼ぶことにした――に代わって詩楠が口を開く。なんとなくだが、筆頭の髭爺より詩楠の方が未来の世界核保守派と連携を取っているのではないだろうか。


「六年後、世界核が都心のスクランブル交差点に出現。すぐさま世界核の暴走が始まり、都心はほぼ崩壊。八年後に私達、国家公安局世界核鎮静課が設立。十年後、大災厄・魔女捕獲の夜が勃発。世界核保守派が大々的に存在を明かしたのが十三年後です。私達が時空超越タイムリープする際、世界核は八雨瑛士様によって障壁を貼られています。以上、これが未来の状況です」


 長々と連ねられた年表を聞き、人差し指の第一関節を唇にあてて手で顎を囲いながら思考に浸る栞。その真剣な表情にどこか焦燥感が見て取れる。


「これは、おかしいね」


 要がいた未来と、説明された状況の相違点を見つけたのか、要が真っ先に声を上げる。


「なにか相違点が?」


「いいえ、《《相違点が無いからおかしいの》》。ここまでして、未来が変わらないなんて絶対に有り得ないわ」


 よく考えてみると栞の言いたいことが理解できる。俺が栞達と出会わず、敵にも襲われずに生きていく未来と、敵に襲われて未来から時空超越してきた栞達に守られて生きていく未来が同じはずがない。多少なりとも、未来に変化がないとおかしいほどにかこは変わっている。


「なんで……」


 栞は再度頭を抱える。しかし時空超越してきた国家公安局世界核鎮静課が嘘を吐く理由などなにも無い。つまり事実であることから、さらにその異様さが増している。


「そんな考えることかぁ?」


「…………ちょっと静かに髭爺」


 不穏な雰囲気の漂う静寂な空間に間抜けた声が響く。それを発した、畳の上に寝転がり肘をついてなまけた様子の髭爺と、その声をとがめるように言う恭介。


「世界核行使派も世界核活用派も魔女の集会(サバト)も大規模で時空超越してきておいて、未来が変わらないわけがないだろうに。未来が変わってないのなら、それなりの《《なにか》》が働いてるってことだろうよ」


「……なにかって想像つくかしら」


「俺の予想は、その《《何か》》とは誰かの異能力だ。つか、それ以外考えられねえ」


 髭爺の言う通り、未来は変わっていなければおかしい。それなのに変わっていないということは、何かしらの力が働いていて、それが異能力だということは頷ける。異能力とは、それほどに力を有しているものだからだ。


「そうね、今考えるだけ無駄かもしれないわ。これからのことを考えましょう」


 栞も考えて結論が出る可能性が極めて低いことを理解したのか、未来云々(うんぬん)の話を途切り、これから国家公安局世界核鎮静課とどうしていくかを話し始めた。


 詩楠によると、時空超越してきた鎮静課のメンバーは二十人程度。居間にいる髭爺と詩楠以外にもう一人参謀の立場に身を置く人物がいて、自由奔放な人格をしているそうでどこかへ行ってしまったようだ。その他のメンバーは別荘にすぐ駆けつけられる距離にある民家に住まうように指示しているらしく、住処は問題ないが、髭爺、詩楠ともう一人は別荘に住まわせて欲しいとのこと。


 栞はそれを承諾した。何より監視の交代人員が増えることから一人の負担が減るし、俺としても嬉しい限りだ。


 それから着々と話は進み、栞と要は鎮静課の髭爺や詩楠に寝床を、時織と莉世はどこかへ行ってしまった。残ったのは幼馴染の三人。


「はぁ……もう分かんねえな」


 なんだか三人でいるのが久しぶりだ。今までは三人でいることが当たり前だったのに、この感じは懐かしい。


「恭介くん、国家公安局の部長さんだって! すごいね!」


「髭爺もなんか恭介らしかったな」


「なんか嬉しいけど嬉しくないわ」


 冗談を言い合って笑みを零しながら、戦争とは無縁だった頃のように会話を交わす。


 もう夜は遅いがそれからも話し続け、さらに夜が更けていく。そんな中、俺はビルの屋上で戦ったナナシを思い出していた。


「…………」


 奴は魔女捕獲の夜を起こしたのが俺だと言っていた。しかしそれは有り得ないだろう。それを栞達が俺に隠す必要はないし、莉世が魔女捕獲の夜の生存者であることから、それを助けた俺が起こしたわけがない。


 ナナシは望んでいた。誰も死なない、平和の世界を。奴が平和を望む心を持ち、もし誰かに騙されているとしたら。


「……助けたい、な」


 それは、どれだけ悲しいことなのだろうか。

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