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世界核保守派の日常



「嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃーー!!」


 居間に莉世の声が響き渡る。それは否定を意味する声で、莉世はあることに納得がいかず駄々をこねていた。


 その納得のいかないこととは寝床の部屋割りだった。


「だから!! 瑛士くんと同じ部屋で寝かせるわけないでしょう!!」


 俺が居間に戻る頃には栞も居間に戻っていて、駄々をこねる莉世に対して説得を含めた説教をしている。


 そう、莉世が駄々をこねているのは俺と寝床が別になっているということだ。


 結乃の別荘は思っていたよりも広く、一人一部屋でも足りるのだが莉世はどうしても俺と寝床を一緒にしてほしいらしい。


「ふふ……大変だね、瑛士くん」


 再度繰り広げられた莉世と栞の口論を目前に、結乃が隣で苦笑している。


 まぁこればっかりは莉世に納得してもらわないと困る。悪戯好きな莉世を隣に寝たら何をされるか予想できないし、何より莉世は女性で俺は男性だ。


 恋人でもないのに同じ寝床なのはよろしくない。


「そういえばスマートフォンはどうしたんだ?」


「あ……どこかで落としちゃったみたいで」


「そうか、これから連絡するのに困るな……」


 莉世と栞の口論を前に雑談していると、口論が終わったのか莉世がこちらへ向かってきていた。


「瑛士ぃ~~~~~~~」


「え、おわっ!?」


 泣きつくような顔で向かってきていると思えば、莉世は倒れ込んでくるように背中に手を回してくる。


 露出度の高い浴衣越しに感じる柔らかい感触に莉世の匂い。唐突な出来事に反応できず、そのまま倒れ込むように寝転がる。


 ふと視線を莉世からこちらを見下ろす栞へと移す。


 ぴくりとも動かない満面の笑顔。一見いっけん幸せそうに見えるがこの表情は笑顔の裏側に般若の形相をしていることを意味する。


「瑛士は儂と寝たくないか? 儂なら精一杯のサービスをするぞ?」


「えっ」


 精一杯のサービス、とは。この言葉から予想できるのは十八歳思春期真っ盛りの人間でなくても男性なら一つだけだろう。


 だが、例え俺が十八歳思春期真っ盛りの人間であってもそれは引き受けられない。何か間違いがあってしまえば未来が変わってしまうかもしれないし、何より――


「ふふ? どうかしたのかしら?」


 ――栞の背後に造形されている血液が何をするか分からないからだ。


「それなら毎日交代で寝ればどうすかね」


 俺の危険を感じ取ってくれたのだろう、恭介が案を上げてくれた。


「そしたら全員平等だし、莉世さんも納得できるんじゃ?」


「ふむ。モブにしては良い案じゃな」


「モブッッッ!!!!」


 モブ呼ばわりされて傷心している恭介を他所よそに俺は考える。


 毎日交代ということは栞、莉世、時織、要が順に交代しながら同室で寝るということだろう。確かに莉世の我儘を叶えることはできるが、俺の心配は解決されないということか。


「――ん?」

「そうね、そうしましょう。でも瑛士くんと莉世を一緒にするのはダメだし、その日は私も一緒に寝るようにするわ。…………………………そうでもしないと私が我慢できないし」


 ということは、どういうことだ?


 付け足して何を言ったのか声が小さくて聞こえなかったが栞の賛同の声。栞も女性だろうに同室ということに何も思わないのか、と疑問に思うが要も時織も反論する感じは無いし、莉世と栞もそれでいいなら俺を除けば満場一致となる。


 さすがにここで俺一人が嫌だと言うのも良くないだろう。元はと言えば俺の為に考えてくれていることだ、それなら引き受けるしかない。


「ちょっと待て」


 そこで俺は栞の発言をしっかりと理解する。


 俺と莉世が一緒に寝るのはダメだから、《《その日は栞も一緒に寝る》》。それはつまり。


「……俺は栞と莉世と一緒に寝るのか?」



「瑛士、寒いのぅ~」


「ちょっと、くっつきすぎよ。離れなさい」


「…………………………」


 どうして、こうなった。


 居間から二部屋離れた和室の中央に布団を敷き、眠ろうとする俺の右隣には同じく布団を敷いている莉世。比較的十一月にしては気温が高く、布団を被れば暖かい程度の気温。それにも関わらず寒いと言いながら俺の布団へと侵入し、手を巻きつけてくる。


 左隣には俺の体に巻き付いている莉世の手をはたく為に栞が布団を敷いていた。それは栞との距離が自然に近くなることを意味していて、莉世を突き放そうと手を伸ばす度に女性特有の柔らかい双丘そうきゅうが腕に触れている。


「ふ、二人共……離れてくれないか」


 こうなる前から良くない予感はしていた。二人と同じ部屋で寝る、ということに対して「それなら莉世の我儘も叶えられるし、莉世に悪戯されることもないな」と納得し、隣で寝ることがないと思っていた自分が恨めしい。


 てっきり莉世が隣に来ないように栞が止めてくれるのかと思えばいとも簡単に布団を敷かれ、さらには栞まで隣に布団を敷いている。


「ほら、離れなさい。あなたが離れないと私も離れられないでしょう」


「ふん、離れない儂に感謝するんだな女猫めねこ。な、瑛士ぃ~」


「なっ!?」


 触れるだけだった莉世が今度は俺の肩を枕にするようにして胸元に手を回し、首元に顔をうずめてくる。


 普段着である肩の出た丈の短い着物ではなく、キャミソールで使われているような薄い素材にワンピースのような服装。肩は紐で繋がれていて、露出した肩やふにっとした太腿ふとももが触れる。


「は、離れなさい!! なんでっ、さらにくっつくのよ!!」


「瑛士はあったかいのう~」


 栞も寝巻きなのか太腿に目がいってしまうホットパンツに同色のパーカー。風通しの良いものだからか、一段と大きい胸が強調されていて目のやり場に困るような服装。


「……はぁ」


 莉世を突き放そうとしてくれるのは助かる。ただ突き放そうとする度に体が触れ合っていることに気づいてくれ。


 目の前でぎゃーぎゃーと口論が続きながら体が揺さぶられる。


「寝たいんだけどなぁ……」


 俺の願いは、二人の騒音にかき消されて届かずに消えた。

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