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襲撃3


「乗れ」


 莉世や栞、恭介を背に玄関とは逆方向にある裏口から外へと出た瑛士と時織。しばらく歩き、ブロック塀のすぐ傍にある黒くきらびやかなバイクを指差す時織。


 瑛士はバイクなど所持していない。そのことから盗難車だと気づいた瑛士だったがなりふり構っていられないとタンデムシートをまたぐ。


 時織は何やらバイクの先端をいじり、配線のようなものを直結させるとエンジンがかかる。随分慣れた手つきで鍵を使わずにエンジンを始動させる時織に不安を感じながらも口には出さない。


「振り落とされンじゃねェぞ、瑛士さん」


 シートが跨がれ、車体が水平にされる。時織が背負っているアタッシュケースが少々邪魔に思えたが瑛士は何も言わない。時織はサイドスタンドをかかとで蹴り上げ、ブォォンと一度セルを空回すと車体は発進した。


 徐々に上がっていくスピード。大通りへと出るが動いている車両はほぼ無い。向かっている方角は東南、まさに戦禍せんかを被っている場所だ。車両がないのも当然だと言える。


「なぁ、時織」


 赤信号を無視し、公道を百キロ前後で走る中、瑛士は声をかけた。


「さっきは……すまない」


 瑛士はずっと気にしていた。遠まわしに仲間を信用しろ、と言う時織に勘違いして噛み付いてしまったこと。確かに時織の言い方は怒りをもよおすものではあったが正しい発言だった。


「――気にすンな。普通の人間じゃ気づかねェことだ」


 時織の言う、普通の人間とは何かわからないが瑛士は押し黙る。


 大通りから小道へと入り、突き進んでいく。そこからさらに小道へと入り、田んぼに囲まれた街灯の光に照らされる一直線の道へと出た。


「――時織!! 後ろ、来てるぞ!」


 瑛士が後方を振り返ると、そこにはローブを羽織った人間。行使派か活用派かまだ識別しきべつはできないが敵であることは確かだろう、時織と瑛士を追跡する動き。


 走る体勢にしてはあまりにも低く、速い。よく見るとその人間は宙に浮いていてこれも魔術なのかと理解する。八十キロメートルを超えるスピードを出しているバイクに追いつかずとも離されないその速度に恐怖を覚えながらも時織に声を荒らげて知らせた。


「――チッ」


 感情をそのまま吐き出すような舌打ちをしてアクセルを回す時織。排気音が響き渡り、百十キロまで加速する。しかしその人間も加速し、距離を離せない。


「――なッ!?」


 ローブを羽織る人間は左胸に刺されば心臓に辿り着くであろうほどの刃渡りを持つ短剣を取り出し、投擲とうてきする。それは回転しながら一直線に瑛士の首元を目掛けて宙を突き進んだ。


 その短剣が瑛士の首を刈り取る寸前、パァンと発砲音が聞こえた瞬間に金属と金属が衝突し弾ける音が響く。瑛士の目の前では火花が散り、それに驚いた瑛士が時織へと視線を移す。


 顔のすぐ横にあったのは先ほど瑛士に突きつけられた回転式拳銃リボルバー。弾ける音とは短剣の刀身と発砲された銃弾が衝突した音だった。


「よく聞け、瑛士さん。右ハンドルのレバーと右足のつま先にかかってるのがブレーキだ、止まる時はこれを使え」


 突然に大雑把なバイク操作の説明を始める時織はさらに続ける。


「基本的にアクセルは回し続け、逃げろ!」


「どうしたんだよ急に! いきなり運転の説明なんか――」


 読めない時織の意図に疑問をぶつける。しかし時織はそれに返答することはなかった。


「お、おい!?」


 シートに足をかけ、飛び上がる時織。それを見て瑛士は一瞬で理解する。


 時織が突然にバイクの運転方法を説明しだしたのは最低限の運転をさせる為だと。時織は敵の追撃に危険だと感じ、バイクを瑛士に運転させて己は敵を打ち取ることにしたのだ。


「くっ」


 時織がいなくなったことでスピードに見合った強風をまともにくらう。移動しずらくともこのままでは振り落とされかねない。百キロ以上の速度が出ているバイクで振り落とされれば、待っているのは死。


 瑛士は即座に行動に移した。体勢を低くし、なるべく風の抵抗を受けないようにする。シートをしっかりと掴み、尻を擦るようにして後部座席からシートへと移動することに成功した。


「――頼む」


 後方を見ると宙に浮く時織とそれを確認したローブの人間が足を止める瞬間。瑛士はただ、時織の勝利を願ってアクセルを回した。

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