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プロローグ



 西暦二千七十四年、六月八日。長きにわたる戦争が終わろうとしていた。


 約二十年前、天空に覇を唱えるように出現した破壊の創成物そうせいぶつ――世界核。それの本質は破壊そのものであり、森羅万象を無に還すと人類間でうたわれている。


 世界核の暴走――全てはそれに因果がある。世界核を中心として半径二キロメートルに及んだ破壊の所業しょぎょう。建物は例外なく崩れ落ち、吹き飛んだ。住まいとしていた人々は余程の運が無ければ一様いちように世を去った。それが人類に、世界核は破壊の創成物と名をせさせた。


 世界核の暴走後、破壊の創成物は消滅せず。よって、世界核にとって半径二キロメートルの破壊の所業は真の破壊の前触れだと人々は恐れた。


 それと同時に、破壊の創成物を己の信念をもって獲得せん、と集まった人々がいる。その者達はその心に従い、自然と三つの組織へと分断された。


 一つ、『世界核を獲得し、保守する』を掲げる組織、世界核保守派。

 一つ、『世界核を獲得し、世界を無に還す』を掲げる組織、世界核行使派。

 一つ、『世界核を獲得し、力を手に入れる』を掲げる組織、世界核活用派。


 それからというもののこれらの組織は約二十年もの間、世界核の獲得を巡り争った。幾重いくえにも手に血の色を重ね合わせ、ついには戦争の是非ぜひを問うことすら忘れるほどに。


 ありとあらゆる破壊を問わず、死者を問わず、絶望を問わず。夢を追う少年少女の夢を潰し、安寧あんねいを求める老婦の願いを潰し、平和を叫ぶ人類の喉を潰し、幾度たりとも。


 しかし――ついに勝者が誕生した。


 世界核の傍に寄る一人の男。理由の無い興味に惹かれ、世界核の獲得を目指して戦い続け、幾重にも重なるしかばねの上に立つ勝者。


 彼の周りはただ延々と赤色に包まれている。おびただしいほどの死が残した産物の液体に人々の造り上げた町を塗りつぶすかのようにさかる炎。ある人が見れば吐き気をもよおし、ある人が見れば泣き崩れるような情景。


 それでも彼の目にそれらは映らない。


 長き戦いによって彼は死者を生み出し続けた。見届けた。だが、決してそれらの情景が当然となったからではない。むしろ、彼は人の死に何度も涙を流すような男であった。


 仲間が死んだと聞いたら真っ先に謝罪をするのは彼だった。感謝を伝えたのは彼だった。墓を建てたのは彼だった。仲間の家族に、叱咤しったされるのも彼だった。その死によって作用される全てのことに対して、責任を取ろうとするのは彼一人だった。


 それでも、彼の目に戦禍せんかの象徴は映らない。


 彼は世界核に夢を見せられていた。それもとびきりの悪夢を。彼の中にうごめく最悪の出来事の全てを、まるで遠くから見るかのように。


 彼は数多くの感情に揺さぶられた。それと同時に、彼は理解した。


 理由の無い興味とはすなわち運命であった。彼が生きていく上で決して避けては通れない道。それならば破壊の創成物である世界核に破壊を好まない己が惹かれ、魅入みいられた理由も頷ける。


 彼は名目上めいもくじょう、世界の平和を望んでいた。その実態は理由の無い興味だったのだが、世界の平和を望んでいたのはあながち間違いでもない。幾年にも続いた戦争が終わり、仲間が死することがなくなるのは彼にとって戦争に勝利した時の褒美であった。


 しかし、彼は理解してしまったのだ。



 世界核という、己の大罪たいざいを。

 己は救われてはいけない罪深き人間なのだと。



 本来、彼は名目上でさえ正義を語ることを許されない存在だった。


 彼はそれを知り、涙を流した。悔やんだ。叫んだ。例えどんな行動をしても、報われることはないと知り、彼はとある異能力を使った。


「私は――、もう」


 その言葉は燃え盛る炎と未だに剣をまじえる音によってき消される。言葉を終え、佇む彼はただ切実に――





 ――ある人の、救済きゅうさいを待ち続けた。





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