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反逆の糸口

 俺たちはいま、全員で移動していた。女兵士、サティリスは兜をかぶり直し、俺たちの鎖をもって先導している。


「ここではいつ兵士が通りかかるかわからない。詳しい話はこっちでしよう。根は回してある」


 そういわれて俺たちはストクード。アトスと三人でサティリスについていっているわけだ。ここにきて二か月と少し経つが、こんな状況は初めてで少し緊張する。


 どうやらゴミ捨て場、それも臭いのある死体などではなく使えなくなった台車などを積んでおく場所があるらしい。そこにはほとんど兵士が来ず、来たとしてもゴミ捨てを命じられた奴隷たちが来る程度らしい。それでもかなり頻度が低いから誰かが来ること自体が珍しいらしいが。


 そんなところで人数を集めて話していたら怪しいではないかとも思ったが、そこも考えてあるらしく、道具が少なくなってきたから使えそうなものを修理させるという名目でここに連れてきているようだった。そしてすでにいくつか使えそうなものを見繕ってあるので、実際に労働していなくても成果を見せて信用を作れるというわけだ。


「ついたぞ。ここの奥だ」


 通されたのは、それなりに広めの洞穴で、中央にガラクタが山として積まれている。時頼燃やすらしいが、そんなもの本当に気が向いたららしい。おかげで色々積まれまくっている。

 

 奥のほうにこれまた小さなくぼみがあり、入り口から完全に死角になる位置取りだ。ここを会議場とするのだろう。

 俺たちはそれぞれ円を描くように座ると、そのまま牢屋での会話を再開した。



 なんでサティリスが俺たちのことを知っているのか、それはとても気になったので聞いてみたところ、とある娼館の奴隷が俺たちのことを教えてくれたのだそうだ。スパイであるのなら利害は一致しているでしょ? と言われたらしい。

 早速かなりの仕事をしてくれたアソルに感謝をしつつ、やっぱりアソル、アトス共に彼女の魂を見て”良し”と判断しているということは信じても大丈夫であろうと確信した。

 彼女たちは俺に協力をしてくれている立場だ。その立場の人間が良しとしたならば、それは巡り巡って俺にとっての味方と言うことができる。もし、帝国側に魔族が居たならば、俺の魂はさぞかしゾッとするようなものなのだろう。とまあ、そんな例え話はどうでもいい。


「それで、どんな手を使う気なの?」


「これを使おうと思う」


 そういって俺はブローチと、魔鉱炉心を見せた。そして今までやってきた実験と、その成果による作戦をサティリスに説明する。

 今だ作戦と呼ぶには実態を得ていないが、それでも目指すべき場所、手に入れるべきものはすべてわかっている。後はそれをいかにして短時間で手に入れるかだ。


「……なるほど、魔鉱炉心をね」


 そういってサティリスは考え込む。確かに無謀な作戦ではあるが、『聖王の加護』がある以上どうしようもないのだから、その核となる魔鉱炉心をどうにかしなくちゃいけない。


「……いいでしょう。こちらでも信頼できる奴隷や同じスパイの仲間にあたってみるわ。手当たり次第に戦力を集めなきゃね。今の私たちには戦力が圧倒的に足りないから」


「そうじゃな。戦力が足りなければたとえ『聖王の加護』を黙したとしても、そのあとの戦闘で押し切られるだけじゃ。まずは信頼できる仲間を増やさんことにな」


「それは俺とサティリスでやることにしよう。ストクードはあまり多くの労働場所へ行かないし、アトスは回復専念で情報収集もないだろう。ここで怪我した奴隷はみんな気絶なりしてるだろうから」


「あとは魔鉱炉心への行き方だな」


 そういってサティリスは胸の鎧を軽く浮かせると、そのまま固定しているベルトを緩めて外した。下にはコルセットのような胴当てに押し上げられ、さらに体にフィットするようなきつい服の所為でさらに強調されてしまっている、形のよさそうな胸が目に入ってしまった。大きすぎず、かと言って小さくもないその胸からとっさに目線をそらすと、今度はアトスと目が合う。いや、仕方ないんだよ。俺だって男の子だから。


「? どこを見ている」


 サティリスのその言葉にドキッとしながらも、俺は彼女へ視線を戻す。すると彼女は取り外した鎧の裏、そこに小さな金具で挟み込まれていた羊皮紙のようなものを広げていた。


 そこには何かの設計図のような、地図のような物が描かれていた。


「これ……ここの地図か?」


「地図と、それに伴う完成予想図だな。大体現時点でほとんど完成してしまっている」


 そういってサティリスは今完成している場所、そして今作業に当たっている場所を教えてくれた。

 どうやらいまだ作業が終わっていないのは中央のホールのみ。そこの装飾のためのタイル張りや天井の均しが残っているようだ。


 この施設は本当に山の崖を背にして、それに食い込むようにして作られているらしい。入り口である教会のような部分はほぼ完成しており、俺たち奴隷はこちらには赴かない。そこから山の中に入り、そこに中央ホール、そしてその後ろに巨大な円柱状のくりぬきが、崖の上に続いており、その近くにまた大きな教会のようなものが立っている。

 興味深いのはホールと山上の教会をつなぐ円柱だ。これでどうやって上るというのだろう。


「ここに巨大な昇降機を取り付ける。もう取り付け自体は住んでいるんだ。ホールに巨大な扉があるだろう? あの奥が昇降機になっている」


 なんと、エレベータがあるのか。この魔法の時代、もしかしたら現代とは全く違う原理で動かされているのかもしれないが、そんな近代的なものまであるとは思わなかった。


「そして、この昇降機の上、教会部分に『聖王の加護』の核がある」


 そういって彼女は教会の図の中央辺りに指を置いた。


「基本的に『聖王の加護』はむき出しで置いてある。何かで覆ってしまえばそれだけうまく魔力の伝達が末端の兵士たちまで行かないからな。その代わり教会の中に置くことで守っている。といっても、巨人族よりも大きな魔鉱炉心だ。持ち出すことも壊すこともできないからと、日々司教たちが掃除しているくらいだがね」


 ここでも基本的には人間族は慢心をしているらしい。いや慢心ではなく絶対の自信でもあるのか。


「そこに行って魔鉱炉心に火をつける。そして爆発させたいんだけど、その爆発の範囲は計り知れないか……」


「そうじゃな。そこが一番の問題だ。魔鉱炉心を爆発させる際の周囲への影響をどうするか」


「そうだな……そこが一番難しい。しかしシドウの言う通り、そこさえ何とかしてしまえばこの施設の連中は瓦解する。『聖王の加護』に頼り切っている。それに依存し続けているのだから、それがなくなれば烏合の衆すら下回る」


 ストクードとサティリスは地図をにらみながらいろいろと話し合っている。

 それを見ているアトスは真剣な顔そのものだが、さっきから一言も発していない。とにかく聞きに徹しているのか、それともよくわからなくなってきて真剣な顔をしているだけか。


 そんなやり取りを見ながら、俺も考えていた。魔鉱炉心をどうするか。考えがないわけじゃないが、あまり実現性に欠ける。まだ俺は魔族たちに関して能力を完全に把握しているわけじゃない。そこを何とかしなくてはいけない。でも、この考えはいけるんじゃないかと、自分でも思う。今まで見てきたこと、今まで話してきた奴隷たちのことを思い出しながら、俺はみんなにこんな提案をした。


「――――――――――――とか、どうだろう?」


 その俺の言葉に、ストクードとサティリスはおろか、アトスまであんぐりと口を開けたまま固まってしまった。

 と思うと、今度はストクードとサティリスが笑い出した。アトスはおろおろしているが、それは不安からというよりも俺の言ったことに対する戸惑いだろう。


「はははははははは! なるほど、その手があったか!」


「ぷっ、くくく……そうね。その手があったわね。なんで考え付かなかったのかしら」


「……!?」


 ……俺、そんなに変なこと言ったんだろうか。

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