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ドラゴン復活

 ピンク色の光に包まれたつぐみと、金ぴか装備の野部は激しい空中戦を繰り広げていた。野部の長剣から繰り出される電撃とつぐみの魔法のステッキから繰り出される光の弾が激しくぶつかり合い、光の残像が空を覆い尽くしていく。


 本来のつぐみは飛行中に攻撃魔法は使えない。それが今、圧倒的なまでの力を誇る野部と対等に渡り合っているように見えていた。青空の目には――だ。


「日笠のやつ、いつの間にあんなに強くなったんだ?」


「いや、ドラゴンマスター、それは違うのだ……」


 魔王は苦しげな声で語る。

 つぐみは怒りに任せて自らの生体エネルギーを消費して魔力に変えているに過ぎないと。それはまさに破滅へのカウントダウンだった。


「じゃあ、あのまま戦いを続ければ……」


「つぐみの命はもってあと数分。しかし……そんな事はオレ様が許さんッ! オレ様はつぐみと合体する! そうすればオレ様の魔力の残りを使い切るまでの間はつぐみは生きていられる。だが、それだけではおの老いぼれ勇者の息の根を止めることはできないだろう…… サラ!」


「はっ、はい! 魔王様!」


 サラが魔王の前に片膝立ちで頭を下げる。


「お前の魔力のすべてをオレ様のために使わせてもらうが……いいか!」


「それが人族の女の為というのは心残りですが、魔王様の命令とあれば喜んでこの身を捧げます」


「うむ! お前には最後の最後まで苦労をかけるな」


「もったいないお言葉を……」


 魔王の大きな手がサラの頭を優しくなでる。


「タッ君、私は魔王様と共に行くわ! あなたの力ならあと1回ぐらいは元の世界へ戻る扉が開けるはず……だから……!」


「お前たちは今すぐこの場から退去するのだ! ドラゴンマスターよ、ドラゴンが起きたら伝えておいてくれ。つぐみが世話になったと……」


 魔王の瞳は青空の腕に抱かれたモモに向けられている。

 サラは魔王に身を寄せ、魔王のマントの中に迎え入れられる。

 サラはタッ君をじっと見つめ、唇の動きで何かを伝えてきた。

 魔王とサラの身体は青と赤の光に変わり、上空へと舞い上がっていく。


 呆然と見上げる青空とタッ君。  


「サラは……魔王と共に死ぬつもりなのか……!」 


「俺たちはどうしますか、タッ君さん! このまま逃げるんですか?」


 二人は顔を見合わせる。


「青空君……俺は……もう逃げたくはないよ!」


「良かった。それでこそ、日笠のヒーロー第一号です!」


「ぶはっ!? 俺がつぐみのヒーローだって!?」


 タッ君は驚いて咳き込み、鼻水をずずっと吸う――――




 つぐみの体に二つの光が入り込んだ。

 その瞬間、空中に浮かぶ彼女の身体はまるで電気に撃たれたように反り返る。

 つぐみは吠える。

 怒り狂った魔物のように――――




「日笠はあなたが異世界へ飲み込まれたあの日、魔力の制御を失い暴走事故を起こしたんです。半径1キロ圏内の山々が消滅したそうですよ」


「えっ、そんなことが起きていたの!……じゃあ、今のつぐみの暴走も!?」


「彼女はあなたが異世界勇者に元の姿が分からなくなるまで痛めつけられたと勘違いしているんですよ!」


「そ、そうか……あのとき俺がつぐみの前に出ていれば……サラの影に隠れたりしていなかったら……つぐみはあんな姿にならずに今頃は……」


 タッ君は空を見上げた――――



 つぐみの頭からは水牛のような二本の角が生え、目は赤く血走り、金髪の先端からピンクの光、マントから青の光、そしてトカゲのような尻尾から炎が吹き出していた。

  

「おいおい、あの娘はどうしちゃったのー? ボクの力を凌駕するほどの力がなんであの娘なんかにー!? ん? ああ、そう。確かに蝋燭(ろうそく)の炎は消える直前に激しく燃えるというからねー、そういうことかー」


 野部はまるで独り言のように勇者と会話していた。


「じゃあー、ここを凌ぎきればボクらの勝ちということだねー!」


 くわっと口を開けて歯を見せた野部の顔。

 ――だが、次の瞬間には恐怖で顔が歪むことになる。


 つぐみの暴走による魔力の放出がいよいよ始まろうとしていた。周囲の景色が歪み、巨大なボール状の時空の歪みが急速に膨れ上がっていく。

 野部の体はそれに押されるように地面に叩き付けられ、なおも地面にめり込んでいった。


 その直下にいた青空たちは、VRゴーグルをかけたタッ君に抱えられ、その驚異的な身体能力によってその場から寸前のタイミングで退避し、時空の歪みの直撃は避けることができた。

 しかし、その直後に背面から襲い来る風圧により青空とモモの身体は地面に転がり、タッ君自身もうつ伏せの状態で倒れ込んでしまっていた。


「すまない、俺の生体エネルギーが枯渇したようだ。もう立ち上がる気力も残されていないみたいだよ。すまない……本当にすまない! 俺は肝心なときに役に立たない最低な男なんだよぉぉぉー!」


 地面に伏したまま炭混じりの土を握りおいおいと泣き出すタッ君。彼の頭からはすでにVRゴーグルが外れている。

 青空はふらつきながらも立ち上がりモモを抱きかかえる。


「まだだ! まだ日笠は戦っているんだ! 俺たちが諦めない限りまだ生き残る方法はあるはずです!」


「無理だよ! 君は子供だから希望を語れるけど大人になるともうその先にある現実というものが見えてしまうんだ! 丸見えなんだよ! 俺たちはもう――」


「それが大人というなら俺は大人になんかならない! でも、きっとそれは違う! 絶対に違う! あんたには俺よりも豊富な知識と経験があるんだ! 俺はあんたを信じる! さあ、俺に指示を出してくれ!」


「ここに至って青空君の現代っ子特有の指示待ち人間が露呈したぁー!?」


 タッ君は顎が外れるほどに口をあんぐりと開けて驚いた――――



 

「マスターはあと一歩のところでいつも逃げ腰になる悪い癖があるのですっ!」


 

 

 いつの間にかモモがぱちくりと大きな目を開いていた。

 その視線は青空に向けられていた。


「目を覚ましたか、モモ!」


「私は活動休止モードに切り替え、歴代のドラゴンが残していった空中に漂うエネルギー物質を補給していたのです。いつでもマスターが私を必要としたときにこの身を捧げるために……」


「そ、そんな技があったの?」


「ですが! マスターは本当にあと一歩が足らないのですっ!」


「えっ、なぜか俺、いきなりディスられてる?」


「文句の一つでも言いたくなるのですよ! グッタリとしている私をもっと気遣って欲しいし、私の力にもっと頼って欲しいのですよ!」


「ご、ごめん……でも、お前の力を頼ろうにも俺のプレストはこの世界に飛ばされてきた時点でバッテリー切れだったし――」


「それならば俺に任せろ! 仮にも俺はここの研究員だから」

 

 タッ君は腰のフォルダーに入っているプレスト本体を分解し始めた。彼の指示で青空は背中のカバンからプレストを取り出し、彼の脇に置く。


「それではマスタぁー、その間に私が蓄えたエネルギーを私とマスターで共有する手続きをしましょう……」

「えっ、そ、そうか! わかった。……えっ!?」


 モモが『んー♡』と唇を突き出してきた――――

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