表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

73/77

魔法少女は最後にやって来る


 ドラゴンの巨体を見上げる野部は、ネクタイに指をかけて首元を緩める仕草をしていた。ドラゴンの翼による突風が粉塵により自慢のスーツが埃まみれになることを気にする余裕も今の彼にはないようだ。


 野部の近くに金ぴかの勇者が着地した。勇者もドラゴンの巨体を見上げて動揺する素振りを見せている。


「おい、どうすんのーあれ! 向こうの世界に置いてきたはずだったよねー? 何でこっちの世界に来ちゃったんだー?」


 野部が勇者に詰め寄った。


「来てしまったものは仕方があるまいて。だが、魔王が滅んだこの世界で(わし)とお前が力を合せれば奴を倒すのは容易(たやす)いことじゃ! なあ、野部よ!」 


 勇者は金色の歯を剥いて笑顔を向けた。

 野部はやれやれと呟きながら、スーツの内ポケットからサングラスのような物を取り出し装着する。ツルの部分に触れるとグラス面に画面が浮かび上がった。



――工場跡地と森の境界付近にて


「アンタたち、早くこの場から離脱するわよ! 色つきのドラゴンは魔王様でも倒させない強敵なの! さっ、早く!」


 モンスターを倒しながら森の中へ身を隠そうとタッ君と青空を先導していたサラは、巨大ピンクドラゴンの出現に焦りの色を濃くしていた。

 しかし、青空はタッ君の身体を突き放し反転する。


「な、何をやってんだキミは!? 最後まで諦めるなと言ったのはキミの方だろ!」


「あのドラゴンは俺の……いや、俺たち(、、)の味方だ!」


「えっ、そうなの?」


 タッ君は後ろを振り返ろうとするも、その視界に恐竜型モンスターが入り込み、青空を左手で庇いつつ剣で薙ぎ払う。サラがモンスターにとどめを刺すが、すぐさま別のモンスターが彼らを襲う。



――上空


『マスター! 見つけたのです!』


 モモは上空からその様子を捉えた。

 マスターを襲うモンスターを今すぐにでも消炭に変えてやりたい。でも、モンスターの群れの中にいる彼を避けて攻撃する手段を彼女はもっていない。


『なら、マスターを私の背中に保護すればいいのです!』


 それは何度もやっている造作もないこと。モモはモンスターの隙間から見え隠れする青空を見逃さないように下降していく。

 そのことが油断となった。最大の敵は群れから離れた工場跡地の方角からそのチャンスを狙っていたのだ。


 モモの右目にキラリと閃光を感じた次の瞬間には、金色の甲冑と青く輝く剣が猛烈な勢いで急速接近。


 モモの右翼から背中にかけて斬激(ざんげき)が走った。


 ドラゴンは吠える。

 身体を捩り苦し紛れの炎を敵に浴びせる。

 しかし、その炎は金色のマントであっさりと躱される。


「まいったなー、お前がどうやってここまで来れたんだかさっぱり分からないけどさー、ボク苦手なんだよねー、こういうイレギュラーなことってさー」


 ボリボリ頭を掻きむしる野部は魔法の力で自由に空中を動き回ることが出来るようだ。一見するとただのサングラスのようなに見えるARグラスを装着した彼は、金色のマントと甲冑を身につけている。青空とモモが合体するのと同じように、野部は勇者と合体をしていたのだ。


『お前か、マスターをさらって傷つけた犯人は!』


「あー、まあー、彼は魔王に付いて来ちゃった付録みたいなもんだったんだけどさー。勇者がさー、魔王との決着を望んでいたからさー」


『マスターを愚弄(ぐろう)するお前だけは許さないのです!』


 バンッと翼を伸ばして姿勢を整え、口からファイヤーボールを吐き出す。

 野部はマントを翻して避ける。

 モモはファイヤーボールの連続攻撃。

 野部はモモの周りを飛び回り避けていく。

 それたファイヤーボールが周囲の森に着弾し、燃え広がっていく。

 その一つが青空のいる真下へ飛んで行ってしまう。


『ああっ、マスタぁぁぁ――――ッ!』


 モモが首を下に向けて叫んだその隙を野部は見逃すことはなかった。

 野部の斬激(ざんげき)がドラゴンの脇腹に走った。


『マスター……』


 それでもモモは目を離さない。ファイヤーボールが青空の頭上へ直撃する様子がスローモーションのようなコマ送りで見えていた。


 強大な力を誇示するための身体が失われていく。

 やがてモモの視界はぼやけ、暗転した。



――地上


 モモから発せられたファイヤーボールが地上のモンスターもろとも森を焼き尽くす。

 半径100メートルあまりの地帯は一瞬にして消炭と化すその中にあって、青空たち三人は無傷を保っていた。

 彼らは透明なバリアで守られていたのだ。

 そのことにいち早く気付いたのはサラだった。


「……えっ? こ、この魔法は……魔王様!? 魔王様が生きている!」


 サラは周囲を見回す。 

 燻る煙で視界が開けない中、見晴らしの良い場所を探して駆け回る。


 青空は走る。

 小さく縮んだドラゴンが消炭と化した大地に落ちたその場所を目掛けて。

 幼女姿のモモは炭で汚れた真っ黒な顔で仰向けに倒れていた。

 抱き上げると、ぬくもりが腕に伝わって来て青空は胸をなで下ろす。


 上空から衝撃音が聞こえた。

 遙か遠くの空から勇者と交わる魔王の姿が見えた。

 

「魔王は無事だったのか! しかもあんなに力が復活しているなんて……」


「素敵です! 素敵ですよ魔王様!」


 サラが興奮して叫んでいる声が聞こえた。サラの隣で空を見上げるタッ君。

 この二人はまだ気付いていないが、青空はただ一人理解していた。

 

 つぐみと離ればなれになったことで力を発揮できていなかった魔王が復活を果たしたということは――――



「待たせたわね、青空ァァァ――!! ああぁぁぁぁ――――ッ、どうしたのその子、ねえ、どーしちゃったの!? やられちゃってるじゃん!!」


 

 魔法のステッキに跨がったつぐみが森の中から登場した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

↑↑1日1回のクリックお願いします↑↑


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ