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○年振りの再会

 魔芽玉(まがたま)――それは異世界生物のエネルギーをその存在ごと封じ込め、異世界人との適合者を人工的に作り出す西日本支部の最終兵器。その量産をこの工場で行っているという現実――

 

 工場の幅は10メートル程だが、奥行きが信じられないほどにあり、魔芽玉が納められた保育器のような形の機械がずらりと並んでいる。天井には照明がなく、魔芽玉から出る青い光が高い天井を不気味に照らしていた。


「ねえ魔王様、これは一体何なんでしょうか?」

 サラが物珍しそうな顔で魔芽玉をのぞき込みながら訊いた。


「サラよ……それは知らなくても良いことだ。おまえはタッ君を連れ戻しにここに来たのだろう。さあ、奴を探せ!」

「あっ……はい!」


 サラは鼻をくんくん鳴らし、部屋の奥へと駆け出す。

 魔王に背中を押されるように青空もそれに続く。


 部屋の奥には天井まで届く程の大きな筒状のタンクが幾つも置かれている。

 タンクには丸いのぞき窓があったが、中は暗くて何も見えない。


 更に奥に進むと、ゴミ集積所があり、生臭い異臭を放っていた。

  

「うっ――」


 突然、青空が吐き気で立ち止まろうとする。

 魔王はその手を引き、強引に連れて行こうとした。


「魔王さん、ちょっと待ってくれ!」

「いや、待たない!」

「どうしましたか魔王様?」

「おまえは前を向いてさっさとタッ君を探せ!」

「はっ、はい!」

 

 サラが再び走り出し、その後を魔王に手を引かれて青空が追う。

 しかし、その視線は薄暗い檻の中に向けられていた。


 ゴミ集積所だと思ったそこは、無数の魔獣の死体が積み重ねられた檻が立ち並ぶ地獄絵図のような場所だったのである。


『クゥ~ン……』


 その時、青空の耳に子犬の鳴き声が届いた。

 魔王の手を振り切り、檻に近寄っていく。


 鳴き声の主は水牛のような姿形の魔獣だった。

 痩せ細った身体でよろよろと立ち上がり、もう一度鳴いた。

 子犬が甘えるような鳴き声が、異臭を放つ薄暗い空間に反響する。

 魔獣のやつれた顔が青空を見上げ、すがるような視線を送ってきた。


 青空の足が震えている。


 魔獣は機械によって生体エネルギーが搾り取られ、こうして生きながらえている者たちも、程なく死が訪れるのだ。


「ご……ごめん……人間の身勝手で……こんな目に……」


 青空は檻に手をかけ、目に涙をためて、言葉を絞り出した。

 

 次の瞬間――


 魔獣の尻尾がムチのようにしなり、その先端から何本もの触手が伸びて彼の頭へ向かって収束する。

 寸前の所で魔王が青空の首根っこをつかみ引き寄せ、サラが剣で触手を切り落とした。


「魔獣相手に何をやってんだい! あんた死にたいのかい!?」


 魔獣の眉間にトドメを刺し、剣を引き抜き様にサラがキッと睨んだ。

 剣先からは魔獣の体液が滴っている。  


「ねえあんた……魔獣のために泣いているの? この魔獣はあんたを殺そうとしたんだよ?」

「そうかも知れないけど……でも……」

「人間とは、不遇且つ身勝手な生き物なのだ。そう思って諦めろサラ。しかし、これだけは理解しておけドラゴンマスターよ! ここには回復魔法が使えるつぐみはいない。怪我をしたら元の世界へ帰ることも出来なくなるのだ!」

「は、はい……すみません」


 うな垂れる青空を背後からサラがそっと抱き寄せる。 


「ドラゴンは魔獣が神化した存在。そのマスターであるあんたが下々の魔獣の命なんかいちいち気にかけてたら身が保たないわよ。でも、ありがとね……」


 今は火の生霊サラマンダーも、元は魔獣だったという。だから、青空の気持ちは嬉しいが、やはり理解はできないという。


「でもあんた、何だかタッ君の子供の頃に似てるのよ……」


 サラがそう呟いたその時――


 薄暗い空間に一瞬、光の窓のような物が出現した。


「俺がその少年に似てるって?」 


 それは男の声。

 青空が目を凝らすと、白衣を着た男が立っているのが見えた。


「やあ、久しぶりだねサラ。それに魔王も一緒にいるのか!」


 男は無精ひげを生やし、ぼさぼさの髪は肩まで伸びている。

 年齢は20台後半から30台前半という感じ。

 まぶたが重く眠たそうな目付きで、鼻をずずっと吸った。

 

「タッ君、会いたかったわァァァ――!!」


 サラが抱きついて、たわわな胸を男の顔に押しつけた。

 サラの身長は2メートル、男の身長は160センチぐらい。

 ちょうど顔が胸の高さになっていた。


 青空は訳が分からず魔王の顔をのぞき込む。

 魔王は口をあんぐりと開けて固まっていた。



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